現場からの発言〈正論・異論〉
|
老人医療NEWS第70号 |
昨年の介護保険点数の改定後、介護保険病床の返上と、それにともなう医療保険への回帰が目立っている。介護保険の開始から、わずか三年あまりでこのような変化が起こることは予想されていたのだろうか。そもそも、介護保険は老人医療の中心となるはずだったのではないだろうか。平成十二年の春に向けて、介護保険病床が確保できないような事態だけは避けようとしていたころが懐かしく思える。お隣の札幌市では介護保険病床数はついにアンダー、つまり返上が相次ぎ新規申し込みもないということになっている。
介護保険病床と医療保険のそれでは、いくつかの大きな運用上の違いがあるにも関わらず、現場での医療・看護・介護行為には何の違いもない。それに加え、昨年の介護報酬実質ダウン、さらに医療保険の老人医療が廃止されるわけではない見通しなどを踏まえての動きなのか。
たとえば、おむつ代徴収の禁止。このことだけで、介護保険に踏み切れなかった医療機関もあると聞いている。また、重度身障者や特定疾患における医療費減免が適応されないため、患者負担が増大することも、患者サイドの不満につながる。自立・要支援患者の急性疾患がすべて一般病院の入院になるわけではなく、医療保険病床も確保しておかないと地域医療にならない。そこに、平成十五年のドラスティックな介護報酬改定である。病院がより重度の患者を診てゆくことの趣旨はわかるが、短期間で低介護度の患者を退院させざるを得ないような決断を迫られたのも事実である。
老人の専門医療を考える会のホームページに掲載してある医療機関の介護と医療病床の数を比較してみた。精神病床を除き、全医療機関では、一般病床は十四%、介護療養四十二%、医療療養四十四%と介護と医療病床はほぼ同数であった。次に規模により分類してみると、百九十九床以下では、一般十三%、介護療養三十七%、医療療養五十%。二百床以上では、一般十四%、介護療養四十四%、医療療養四十二%であった。また、回復期リハ病床の割合は、百九十九床以下では、医療保険病床の四十三%であり、二百床以上ではそれは二十五%であった。すなわち、中小規模の病院では、より医療保険を選択し、しかも回復期リハのように病棟の目的を明確に打ち出しているところが多い。
当院は百三十一床を三病棟で運営し、二病棟(九十六床)が介護保険である。このところの地域ニーズを背景に、回復期リハ病棟の開設を考えている。その際、いま医療病床に入院されている難病や重度身障患者に対して、「介護保険になるのでコスト負担が増えます」と説得するぐらいなら、もうひとつ医療保険病棟を作り、介護保険を返上しようと考えている。
行政の担当者は介護保険病棟に入院する患者ならびに家族の承諾書を取り付けることがその変更の条件であると通達してきた。また、介護保険には最低でも一年間は戻れないとも話していた。しかし、当院の介護保険入院単価は昨年に比べ二・七%ダウンしており、経営的な見地からも医療保険に戻ることを決めた。
介護保険制度を守り育ててゆきたいと願っていた私が、自ら介護保険を返上しようとは半年前までは思ってもいなかったことである。