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老人医療NEWS第68号
家庭復帰促進策はあるか

 もうすぐ、介護保険制度改正のための本格作業が始められようとしている。その前哨戦が平成十六年度の診療報酬改定の中の、医療保険療養病床への評価ということになろう。

 介護保険制度の改正は、大きな議論になりそうでもあるが、最終的には、ほぼ現行システムのままということになるかもしれない。周辺では、介護保険の四十歳以下への拡大とか、リハビリテーションの強化、それに個室ユニット・ケアなどが論点のようだ。しかし、最大の論戦は、費用問題だ。

 ケアの質とか、患者さんのQOLとかという議論に対して、財政というか金の論争は、結局不毛なのだがわかりやすい。もっと欲しいという側と、そんなに支払えないという、なりふりかまわない二者択一的論戦も演じられるのであろう。

 我々は、介護保険制度が悪いとか、国全体の負担をどうするのかといったことについて、必ずしも明確に理解しているわけではない。ただ、介護報酬改定とか、利用者負担の変更ということにより、利用方法や利用者の選択が左右されることについては、明確に認識している。

 厚生労働省は、二十年前から、長期入院の是正、社会的入院の解消といったことを医療費抑制策のスローガンとしてきた。そして、社会復帰、家庭復帰のための施策という美名の下に、各種の制度改革を行った。しかし、それらが本当に役に立ったのかという政策評価にまったく答えていないではないか。

 最近の回復期リハビリテーション病棟からの家庭復帰は、政策的にも意味のあることは確かだ。しかし、ここまでのことを制度化するのには二十年以上、正確には理学療法士法、作業療法士法ができてから、すでに三十八年の年月がかかっているのである。そして、このことに気をよくした老健局は、全面的にリハビリテーションを評価しようとしているように思う。

 だが、ここでどうしても主張しておかなければならないことがある。それは、どうしても退院できない患者がいるということである。どんなにリハビリテーションの資源を大量投入しても、長期療養とならざるをえない人々である。そのために特養とか老健、そして療養病床があり、在宅ケアがあるのだ。ただ、適切なリハビリテーションもしないまま、長期入院させたために、家に帰れなくなってしまうということはある。

 正確なデータはないが、介護保険制度施行前後で、この長期入院入所者が増加しているように思えてならない。特に、老健施設がひどい。

 老健の入所者とその家族は、一度入所すると退所したがらないという。職員が家庭復帰のための指導や住宅改造のアドバイスをしても「かえって費用がかかるのですね」といわれ結局、長期入所になる。

 介護保険制度では、ケアマネジャーが、利用者の希望をよく聞いて対応するようにいわれるが、家に帰るという希望は多くはないようだ。本人が帰るといっても、家族がもう少しといって、どちらの話を優先させるかが問題となる。

 かくして、家庭復帰は、サービス提供者が、確たる使命感で対応しない限り難しい。このことは、特養でも病院でも同じことだ。

 何を言いたいのかというと、介護保険でも医療保険でも同様だが、強力な家庭復帰促進施策と、どうしても家庭復帰できない人々への施策をバランスよく実施して欲しいのである。

 どう考えても、在宅療養するより、施設入所のほうが安いのはおかしいし、施設側の退院への努力も十分に評価がない。そして、長期入院以外望めない患者は、評価されない。家庭復帰促進策を真剣に考えよう。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE