現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第68号
慢性期医療は人生を救う 
青磁野リハビリテーション病院理事長 金澤知徳

 先日、あるシンポジウムを開催したが、その席で急性期特定入院加算病院の院長が、「自分たちは下請けです」と明言していた。急性期医療と慢性期医療と、少々使い古されてしまった感があるが、少し私見を述べてみたい。

 急性期医療の役割が「命を救うこと」とするならば、慢性期医療のそれは「人生を救うこと」であると私は常日頃云っている。再発予防、維持リハ、療養、介護、ケアなど様々な職務表現で言い表されるが、慢性期医療の役割、そして私達の生き甲斐は、やはり「人生を救うこと」ではないだろうか。もっとも、「救う」と云うより「見つめる」と云った方が適切であろうが。

 先の院長は明言されたが、どちらが上でも下でもないし、どちらが主でも従でもない。一般急性期医療の中では、生命を救い疾病を治すために様々なことを試み、必死に日々戦っている。手を緩めることは生命に関わることとなる。慢性期医療においても、人生を損なうことがないように、人生の苦悩を少しでも軽減できるように、可能性を模索し、一生懸命に日々戦っているはずである。

 急性期医療のオペレーションは綿密な事前の病態診断やリスク分析等に基づいて外科的手術、薬物コントロール等を取り組み、事後のリカバリーを経て生活に復帰する。慢性期医療のオペレーションは損傷や機能障害、さらにはハンディキャップ等の綿密なアセスメント診断、リスク分析に基づき、生活の場を自宅に移す退院を目指して課題解消軽減に向けた様々な治療ケア、即ち期間をかけた手術が始まる。そして退院直後のリカバリーを経て実人生を再び歩み始めるのである。

 この様に比較してみると、私達は退院という手術に対してどれだけ事前の分析をしているだろうか。入院時のアセスメントはどこまで診断価値がある内容だろうか。オペチーム全員にこれから目指すイメージが描かれているだろうか。本人、家族、近隣のケアギバーやリカバリー後のケアチームを、いつの時点で私達オペチームは理解把握できているだろうか。

 確かに様々なフォーマットで分析資料は内容が埋められていくし、カンファランスも進められていくが、早々簡単に手術は成功しない。何度となくADL、IADLリハケアを繰り返し、継続して試験外出外泊という評価、検査を行ってみる。多くの場合、その検査結果を判断するのは家族である。とするならば、その家族が前回と比較判断できるだけの資料を私達は提供できているだろうか。

 繰り返すが、人生を見つめる私達は病状の変化に応じて急性期チームにその改善を託すが如く、命を見つめる急性期チームはその人の人生が豊かであるように慢性期チームにその改善を託すのであろう。それに応えるためにも私達は、社会的にも幅広い知恵や障害を克服する技術を身に付け、日々の安心ケアに留まることなく、人生を救うための様々な試みや模索を惜しんではならない。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE