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老人医療NEWS第66号 |
本年五月二十六日に社会保障審議会介護給付費分科会が開催され、介護保険料や介護報酬改定の実施状況などについての報告と委員間の意見交換が行われた。翌二十七日には、同審議会の介護保険部会が初会合を開催した。また、六月二十六日には、厚生労働省の「高齢者介護研究会」が「二〇一五年の高齢者介護」と題する報告書を老健局長に提出した。
この三者の関係はよくわからないが、介護保険制度の施行後五年を目途とした見直し作業が開始されたということであろう。
国の審議会が再編され、その多くが社会保障審議会に所属することになったが、老人医療や介護保険制度について、専門的に審議する場がなくなってしまっていた。介護給付費分科会は、あくまでも介護報酬と介護保険施設および事業者の運営基準に関する議論を行う場にすぎない。
そこで、新設されたのが介護保険部会ということになる。メンバーは二十一名、国の審議会として約半数がニューフェイスである。
介護保険制度の見直しは、厚生労働省にとって、重要な事柄であるばかりか、制度施行後になって介護が国民生活に与える影響は、その度合を増しており、その分、利害関係者の数も多くなりつつある。それゆえかどうかはわからないが、メンバーの人選には、新味があるように思う。ただし、利害関係だけで議論されないためにか、医師は三人で、歯科医師はいない。
初会合では、事務局側の説明と若干の意見交換がなされたが、今後の議論のたたき台は「高齢者介護研究会」の報告書という筋書きであろう。この研究会は、もともと老健局長の私的研究会で、今年三月五日から十回の会合が開催され、地域ケア、小規模多機能・地域分散型ケア、および痴呆性高齢者対策などについて検討してきた。メンバーは十人の有識者で、座長は、堀田力氏(さわやか福祉財団理事長)である。
この研究会が、老健局長の考え方を正確に反映していると考えることができると思うが、財源問題などには一切言及していない。また、老人の専門医療については、ほとんど記述がないというより、無視しているかのような印象を受ける。別に医療が介護より上であるとか、医師の言うことを聴かないのはけしからんなどというつもりはないが、介護予防やリハビリテーションにも医療のパワーが必要だと思うし、医療と介護を完全に分離することはできないはずである。最低限でも医療と介護を同時に必要とする高齢者が増大することが高齢社会の実態だという判断がこの報告書にはない。
ただし「比較的重介護・重医寮の高齢者を対象とする介護療養型医療施設については、長期間の在院を考慮して療養環境の向上を図る」という指摘は、正しいと思う。問題は療養環境であるが、スタッフの人数や職種について「環境」であるのかどうかは、今後はっきりさせて欲しいと思う。研究会の報告書の内容については、ひとつの考え方として参考になる面もあるが、この報告書のみの範囲で、部会で議論が進められることのないよう、部会のメンバーにお願いしておきたい。
介護保険制度の見直しがスタートしたことは、事実として冷静に受け止めることが必要である。介護予防やリハビリテーションは、重要なサービスであるし、痴呆の問題は、まだまだ改善の余地がある。グループホーム、ユニットケアも普及して欲しいし、ケアマネジャーの教育も大切だ。しかし、介護の根底には、老人の専門医療の確立が重要であり、この理解なくしては、介護保険制度の見直し作業を進めることはできないと思うのである。