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老人医療NEWS第65号
介護報酬決定の波紋

 介護療養型医療施設の介護報酬は四%引き下げられたが、その波紋は予想以上に大きい。

 私たち会員間の情報交換によると「介護施設報酬が四%引き下げられた介護療養型医療施設での新旧単価の読み替え作業結果は約四%」であることがわかった。

 それは当たり前であろうといわれそうだが、診療報酬の改定などで「二・七%引き下げ」と厚生労働省が公表しても、病院だけで計算すると四%以上の影響があるということの方が、むしろ当たり前の世界である。まして、介護報酬改定は、初めての経験なのである。

  「四%引き下げで、四%下がった」ということは、負け惜しみだが、今回改定の厚生労働省の公表が正確であったということである。ただ、どう考えても老健施設は、四%どころか五%とか六%以上の引き下げを受けているとしか考えられない。

 ところで、ここからが問題なのだが、会員の平均が四%減なのであって、計算した結果だけを持ち寄ってみると、なんと一〇%以上減の病院があったり、その一方で、一〇%以上増があったりするのである。

 「平均が四%なのだから、それは当然だろう」といわれてしまえばそれまでだが、病院経営という立場でものを考えれば、収益が一〇%減という状況は、かなり厳しいというか、このことだけで病院閉鎖に向かわざるを得ない病院もあるということだ。

 なぜか。これまで一〇%以上利益があった病院なら一〇%減でも対応可能かもしれないと考えるのは、経営のド素人としかいいようがない。例えば、前年度の利益がやっと十一%あった病院は、なにもしなくても今年度は一%の利益しかないということである。これでは、資金繰りというか、キャッシュ・フローがどうにもならない。

 私たちは、完全型の療養病床にするために多額の設備投資を銀行からの資金で行ってきた。その支払い金利や減価償却は経費であるが、元本返済は利益がないとできない。元本返済ができなくなれば、ただちに不良債権のレッテルが貼られ、銀行からの新たな融資はなくなってしまう。こんな当たり前の話が、報酬改定議論で理解できていないのではないかと疑わざるを得ない。

  強くいいたいことは、病院は一〇%以上のマイナスに対応できる状況にないということである。

 頭をクールにして数字をにらんでいると、各病院の平均要介護度と収益のマイナスは、正の相関が明らかなことがわかる。つまり、要介護度四とか五ばかりの患者さんで構成されている介護病棟であれば、ほとんど影響を受けないということである。リハビリテーションや重症者への医療の提供をすればするほどプラスにはなるが、全てマンパワーの強化が必要とならざるを得ない。

 ここでまた負け惜しみだが「よく考えられている改定だ」といわざるを得ない。多分、この方向は、今後とも変わらないと考えるしかないが、報酬上有利な方向だけに進むというわけにはいかないし、そんなことは無理であるし、そうしたくもない。

 猫の目のように変わる報酬改定に振り回され、逃げまわるのは絶対にイヤだし、そんなこともできない。

 新しい老人医療制度の方向も公表されているが、報酬改定で老人医療を大きく振り回さないで欲しいというのが本音だ。

 改定は既に行われてしまったので、その内容をとやかくいってもどうしようもないが、次回の報酬改定や二年後の介護保険制度の見直しまでには、なんらかのルールを創ることが必要に思えてならない。少なくとも我々は、適切なルール創りに協力するし、自らも考え方を整理したいと考えているのである。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE