現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第66号
魅力的な高齢者医療
鶴巻温泉病院医師・杉戸一文

 老年科の分野こそ、今最も若い人材が必要とされているが、実際に携わる人材は少ない。なぜ若い人材が老年科を志望しないのか。最も大きな理由は日本における老年科の特色が不明な点だろう。

 老年科といえば、「どの科も引き受けたくない患者をとるところ」、「治らない寝たきりの患者がいるところ」というイメージがある。「老人病院イコールリタイア」というイメージもよくない。

 実際に私は、初期研修の終わり頃老年科を志望して研修をするといったら、人生をあきらめている、内科をなめている、といわれた。

 さらに、その他の理由として医学教育がよくないこともあげられよう。講義の中で老年科があってもおそらく興味をそがれるものだろう。なぜなら臨床ではなく老化というテーマに焦点を当てた「学問」だからである。最後にもう一つ理由をあげるとすれば、医学生の内科離れ、いわゆるマイナー思考があげられる。

 私が老年科を志望したのは総合内科を学びたかったからである。内科が細分化されている現在、総合内科を学ぶには老年科が最も適切であった。また老年科はこれから大いに発達すると思われる分野でもあった。

 私が初期研修を行った病院は、とてもハード面が進んでおり、カルテは完全に電子化され、二十四時間MRIもとれたが、鶴巻温泉病院はハード面でのインパクトは低い。それでも鶴巻温泉病院を選んだ理由は、現在のアテンディングドクターである西村知樹医師のもとで研修したかったということと、院長が教育にサポーティブであったからである。私には今の研修がとても魅力的だ。

  現在は正直なところ自分の能力の限界を超えることも多々ある。でも本当に臨床ができる医師になりたくて選んだ研修であり、(私は女なのだが)父に孫の顔が見たいといわれても、私の中で臨床家としてひとり立ちできるまではこの研修をやり抜きたいと思っている。総合内科、とりわけ老年科にはそれほどの魅力がある。

 若い人材を老年科に集めるには、よい指導者がいること、教育に対してサポーティブであること、これから発達する臨床医学であるということを強調することが必要である。指導者は著名人ではなく優秀な臨床教育者が必要で、病院の回転率を上げることや症例を選ばないことも必要だ。ハード面では最低限の病院としての機能が必要で、照明や色彩などを含め明るい職場であってほしい。

 同世代の中で、老年科に興味のある者は実際には結構いる。しかし現在の日本では、興味があってもはじめに述べたような障害がいくつもあり最終的には興味が移るという事実が否めない。

 最後に老年科医になるには総合内科のトレーニングが絶対に必要だ。総合内科と老年科の違いは、総合内科は疾患を全身的な立場からみて治療することに焦点を当てるが、老年科は総合内科から派生した、患者のADLに焦点を当てた臨床医学であると私は思う。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE