こぼれ話
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老人医療NEWS第64号 |
◆何か違うぞ
老人専門の病院を開設してから早や十三年が経ったが、今も「何か違うぞ、何か違うぞ」と強迫観念にも似た思いで自問を繰り返している。
何がどう違うというのか。改善しても、手直ししても、また次々に新しい「何か違うぞ」が噴出する。正に『其奈山上山』(それ山上の山をいかんせん)という心境である。
諸先生のご高説を道標にしたくとも高邁すぎて、私などには二階から目薬の感がある。
病院機能評価やISO規格などに認定されると、「何も違わないよ、これで良いんだよ」と言えるようになるのだろうか。 それも違うような気がするし、そのような立派な規格そのものが、私にとっては「何か違うぞ」である。
◆そもそもの始まり
そもそも何で老人病院を作ろうと思い立ったのだろう。
私の場合は「介護を要する病める老人のため」というよりは「やがて自分が介護を受けるときに入る病院を、社会にまだ経済的余力があり、介護してくれる若者が沢山いるうちにつくっておきたい」という動機からであった。この気持ちは今でも少しも変わっていない。
しかし私が今この病院に入院するように言われたら「ちょっと待って下さいよ」と躊躇したくなる。
「何か違うぞ」は、「自分はここには入院したくないな」という直観的な違和感なのである。こんなことでは、この十三年間私は一体何をやってきたのだろう。
うちの病院では意識障害や寝返り不能の人が圧倒的に多数を占めていて、家族はこのまま終末を迎えさせるよう望んでいる。
そのような身動きもできないような人が六床室(移行型療養病棟)に入れられて、流れ作業的な処置や介護を受けているのを見ていると、私が意識障害や寝返り不能になったときは、個室に入って、私向きの看護・介護・リハビリを受けたいものだという思いが次第に強くなった。
自分が入りたくないような病院なぞ作っても仕様がない。
◆「新型療養病棟」
いろいろ考えて一大決心をした。この一月に病院の移転新築工事を始める。病室は全て個室にして、十二の個室と食堂・リビングを1ユニットとし、一病棟六〇床を5ユニット六〇室で構成する。病院全体は四病棟で計20ユニットを擁するユニットケア型「新型療養病棟」である。
現在当院の介護病棟の平均介護度は四・七二で、ほぼ全員がランクCであり、重度意識障害、無動症の人も少なくない。肢体不自由身障1・2級の人は約四割に達し、申請すれば介護病棟では大多数が重度身障者に認定されるだろう。
つまり殆ど全員が特殊疾患療養病棟の条件に当てはまるので、新病院が完成した時は、介護病棟を全床返上して、三病棟を特殊疾患療養病棟とし、一病棟を回復期リハビリ病棟にすることも考慮している。
「何か違うぞ」と言い続けていたら、いつの間にか先走って、まだ施設基準にないユニットケア「新型療養病棟」にたどり着いた。しかしこれとて私の中ですぐに「何か違うぞ」になるのであろう。
来年の春には新病院に隣接して五〇床の小規模生活対応型「新型特養」も完成する予定である。二つの施設の間で「ユニットケア比べ」をしながら、「何がどう違うのか」の検証も、いずれ私が入院する日まで続けなければなるまい。
また、在宅復帰を基本理念とする老人保健施設にユニットケアは馴染まないという意見も聞かれるが、私は「長期の終末期ケア」や「生活ケア」を実践した後、老人保健施設のユニットケアも検討したい。