現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第64号 |
昨年末、全国紙に「特別養護老人ホームの個室化が進められ、新型特養として話題を呼んでいる。」という記事を読んだ知人から電話があった。「お前のところもそうなのか?もしそうなら、僕はいやだな。」知人曰く、「寝たきりの状態になったときに一人でいるのは不安で、誰かが傍にいてくれるほうがいいし、だから施設に入ろうと思っていた。」というのである。確かに一理ある気もするが、逆に個室になるなら施設に入ってもいいという人もいる。一概に決められないハードの問題である。
私が理事長をしている特別養護老人ホーム「真寿園」では、昨年十一月に霞ヶ関南病院の近隣に移転をした。ユニットケアスタイルであるが、一部二人部屋も作った。将来、すべてを個室にすることが可能なようにデザインしたが、ほとんどの居室は個室である。入居される方々は、築二十五年の施設から引越しをしてくることになったが、新しい施設に移るだけでなく、四人部屋から個室への変化にも遭遇することになり危惧していた。新施設での研修・シミュレーションに一ヶ月以上かけたおかげで、十二月初旬に行われた引越しは事故もなく無事に完了し、予測された不穏や急変者もほとんどなかった。
それから一ヶ月経過して、果たして個室やユニット化による影響がどんなところに出てくるのかが気になっているが、実際にはまだその変化が見えてこない。各ユニットのデイルーム(居間)やパブリックスペースの活用も積極的に行われており、日中自室で過ごされる時間も減ってきている。しかしながら、当初より人員基準三対一を上回る二・二対一の配置をしていることによって成り立っている現状を考えると、介護報酬のダウンによりかなり厳しい経営を強いられることになるだろう。移転前の入居者の状況やスタッフのタイムスタディの結果と、三月頃に実施予定の再調査の結果を比較検討するつもりでいるが、データには表しにくい心情や雰囲気なども含めて、ユニットケアのあり方を求めていきたいと思っている。
新施設では、一つのユニットで実験的な試みをしている。タスマニアのアダーズナーシングホームを参考にしたユニットである。動ける問題行動のある痴呆の方々を対象としたユニットで、オーストラリア研修を受けたスタッフを中心に展開するつもりである。日本の施設基準では到底アダーズと同じハードを作ることはできなかったが、スタッフの意識は高く、すでに入居している四〜五人は、現在のところ落ち着いた生活がおくれている。自宅で毎日のように徘徊のため警察のお世話になっていた方が、意思の疎通が可能になり、徘徊もなく表情も柔和で明るくなっているという報告もあり、これからの展開を楽しみにしている。
今後、新型特養とグループホームが同じカテゴリーに類型化されることが予測される中で、老人ホームが終の棲家としてだけでなく、痴呆性老人の安定した生活や自分を取り戻す機能を持つことができ、自宅に復帰することを目指していきたいと思っている。しかしながら、新施設を楽しみにしてくださっていたユニットケアの先駆者である京都大学の故外山義先生にご指導いただけなくなったことが残念である。