現場からの発言〈正論・異論〉
|
老人医療NEWS第63号 |
この度私共の病院は県から平成十四年度身体拘束廃止相談窓口事業の業務委託を受けることになった。
身体拘束とは、衣類または綿入り帯等を使用して一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいう(昭和六十三年四月八日厚生省告示第一二九号)が、もちろんこれを憲法三一条に定められているように「法律の定める手続き」によらず恣意的に行うことは不法である。
刑法以外で以前からこの法的手続きを定めているのが「精神障害者の医療及び保護」を目的とした精神保健福祉法であるが、そのなかに行動制限の形として二つ挙げている。
一つは先述の身体拘束であり、もう一つは隔離であり、施錠等による閉鎖的環境の部屋に一人で入室(二人以上は不可)させることをいい、これらを行ううえでの手続きを定めている。
そして病棟出入口が施錠され出入りが自由にできない閉鎖病棟に入院の際は、本人の同意が得られなければ医療保護入院等の強制入院の手続きをとらねばならない。
平成元年一月二十五日発行の本紙第十九号に「施設内痴呆老人の人権―精神保健法(当時)に照らして―という一文を載せてもらったのは、身体拘束はさることながら、隔離、閉鎖処遇が高齢者施設において、自らの行為に何も疑いもなく当然の如く行われている実態を一再ならず目にしたことによる。
そのころのことを考えると遅きに失したとはいえ実態は改善の方向に向かっているといえよう。
とはいえ「縛ることは絶対に許せないことだ」と原理主義的に拘束の概念、範囲を拡大する傾向があったりして身体拘束には厳しいが、それに反してもう一つの行動制限である隔離、閉鎖処遇に関しては相変わらずなおざりにされているのはどういうことか。
ともあれできるだけ行動制限を行わない、より質の高いケアを提供することはわれわれの責務である。
しかしながらそこには大きな壁がある。それは看護・介護スタッフの員数の問題である。 困ったことに、現在、介護療養型医療施設のほとんどが選択している、看護六対一、介護三対一の最も人員の多い基準は来年四月以降は廃止されることになった。努力して何とか員数を確保してケアの向上を図ってきただけに何ともやり切れない思いである。
いよいよ日本号はハードランディングの体勢を固めたようなのでこれから一層失業者が増加してくる。その受け皿をこれから整備することが喫緊の要事であるが、現に今、医療、介護の現場はもっと人を欲しているのである。それなのになぜそこまであえて踏み込んで人剥がししようとするのか。
「改革なくして成長なし」、その通りと思う。
しかしながら改革とは不経済な分野を手入れ整理して、経済効率のよい分野は残し育成することではないのか。一律にこわしたら破壊というのではないか。これではハードランディングしてみたら乗客は全て死んでいたということになるのではないか。
以上ボケ医者の「妄」論。