こぼれ話
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老人医療NEWS第62号 |
日本人の平均寿命は二〇〇〇年に比べ、女性が〇・三三年延び八十四・九三歳、男性は〇・三五年延び七十八・〇七歳になり、男女とも過去最高を更新したことが、厚生労働省の二〇〇一年簡易生命表で明らかになった。男性は初めて七十八歳を超えた。米寿(八十八歳)まで生きる人は男性の四人に一人、女性の半数に及んでいる。
何はともあれ長生きすることはよいことであろう。生活環境がよくなり、医療技術が進歩した結果とも言える。成人の小型化したものが小児科ではないように、成人の老化したものが老人科ではない。最近は老人科を講座にもつ大学も増加してきた。しかし、老化の原因をホルモン関係に求めたり、遺伝子レベルに探求の手を伸ばしているのが現状で、目の前の悩める高齢患者さんにどのように対応すべきかは、あまり検討されていないと思われる。
十数年来、老人医療に試行錯誤を繰り返し努力してきた我々は、今もっとアピールするべき時と考える。我々の学んできた医学は、どんな状態でもよいから患者さんを死から救い出すことであった。医者が扱う疾患が急性期疾患、単一疾患の場合はそれでもよかったかもしれないが、高齢者が増加するに従って慢性期疾患を持ち、更に複数の疾患を持っている患者さんの増加が想定できる。それに今までの医療技術をあてはめることは間違っていると考える。
特に高齢患者さんの慢性疾患はQOLを充分に配慮したものでなければならない。疾患、障害を持っていても、いかに質の高い人生を送るかが問題である。
介護保険制度が導入され、在宅支援が推進されているが、高齢者が死亡場所として希望している場所は統計によれば自宅が八九・一%である。そのうち実際に自宅で死亡した人は三三・一%で六六・三%は病院で終末を迎えている。その終末の場所を提供するのも、我々医療サービス提供者としての使命の一つと考える。
本来、高齢者を対象とする病院は、(1)患者さんの残存機能を最大限活用するため、リハビリテーションによる自立支援を行い、生活の再構築を計る。(2)個人の人権人格を尊守し、人間性を無視した過度な医学的管理から高齢患者さんを解放する。(3)個人に適した医療サービスを提供するために、選択肢の多い治療方針を準備し、患者、家族さんの選択権を確保する。(4)医療スタッフ、患者、家族さんとの連携を強化し、在宅支援、社会資源の利用に関して相互の理解と納得のもと、健やかな人生が送れるよう努力するとともに、人生で避けて通れない死に対し、安らかな終末の場を提供する。これら四つが病院機能と考える。
また、病院はサービス業の一端を担っているという自覚のもと、奉仕者として努めるべきであり、患者、家族さんこそ病院が提供する医療サービスの最大の評価者であることを忘れてはならない。医療スタッフは病気を治す、苦痛を取り除くことを目標として病む人に直接接してきたが、苦悩の中にある患者さんにとって医療者は単に治療手段の提供者ではなく、人間的共感を持って疾病、障害のよき理解者として癒す心を持つ人間であることが期待されていると考える。
介護保険導入後、高齢者医療においても介護の重要性が強調されてきた。しかし、介護を自立支援性と介護支援性の視点からみれば、病院や医療施設では、自立支援性介護が優先すべきと考える。欧米諸国の福祉器具の貸し出しにおいても当事者が充分利用できるまで支援している。車椅子に多少の不具合があっても慣れれば何とかなるではなく、当事者に合ったものに作り直すと聞く。私自身老人医療を考えるとき、患者さん中心の医療を行うため、もっと研鑽しなければと考える昨今である。