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老人医療NEWS第61号
新型特養と高齢者ケア

 厚生労働省老健局が進めている介護保険制度の見直し作業が順調なようだ。一○月には、介護サービス量等の最終見込み値を取りまとめ、要介護認定モデル事業も全市町村で開始される。介護報酬についても、介護事業経営実態調査の結果が報告される予定で、その後の審議で報酬改定作業が進められることになっているとのことである。

 介護療養型医療施設連絡協議会の木下会長が、介護給付費分科会で、介護職員の三対一の廃止に反対しておられるが、この問題については、先おくりされただけで、結論が出ていない。なぜか、ちぐはぐな議論というか、各組織の代表者が言いたいことを主張し、厚労省側は、「キキオク」という姿勢に終始しているようで、不気味だ。一国の高齢者ケアの将来を実質的に左右する議論としては、あまりにもお手軽なように思う。

 それにしても、老健局の進める新型特別養護老人ホームの整備について、病院関係者の一人としては、なんとも理解できない。全室個室・ユニットケアの施設整備は、確かに時代の要請であると思うし、特段反対する根拠もない。当会の会員が、個室化やユニット化に反対するはずもないが、本当のユニットケアの効果とか、個室化の採算性などということについて苦言的に発言することさえゆるされないような世論誘導があるように思う。

 なにがなんでも、高齢者ケアの質の向上が必要であり、ユニットと全室個室でなければダメといわれてしまうと、老人保健施設や病院はどうするのかという不安がある。一方では、全室個室やユニットケアには、多額の施設整備費をこのご時世に手厚く補助し、「低所得者に配慮しつつ、ホテルコストの負担を求める」と厚労省はいう。低所得で個室でユニットケアの新型特養に入居できた人々は、それはハッピーであると思う。では、病院や老健施設の利用者の皆様は、どうなるというのであろうか。

 なにか、うらやましがっているのではないか、と取られると残念だが、介護保険施設全体の整合性(役人言葉で意味不明の用語だが)とか、被保険者の公正とか、公平とかという議論からしても、改善の余地があると考えてもよさそうである。

 第一に、ホテルコストの負担を求めるよりも、特養に対する補助金をこの際、きれいサッパリと廃止したらどうなるのであろうか。ついで、老健施設の僅かばかりの補助金もヤメた方がいい。特養も経営してみればわかることだが、減価償却をキチットすれば、補助金があってもなくても同様の結果で、納税しているのであれば、損も得もないはずである。ただ、補助金では資金調達が楽であるというメリットがある。

 第二に、医療法人は、課税、社会福祉法人は免税という考え方について、いってもしようがないことではあるが、介護報酬の設定時に厚労省はもっと勉強すべきではないか。このまま一○年後も免税ということになると、病院の公私問題と同様の構造的問題を引きずることになる。老健施設などは、医療も福祉も、まったく同じことをやっているのに、他の制度では別枠にするというのは、それこそ構造改革に反するだろう。

 そして第三だ。全室個室でユニットケアを本気で進めるのであれば、利用者二人に対して職員一人以上が必ず必要である。それ以下では、著しいケアの質の低下が生じることは明らかで、このことは、まともに個室ユニットを実施している特養を調べれば、すぐにわかる。

 なぜ、看護六対一、介護三対一で、二対一を実施している療養病床の職員数配置を廃止してしまうのか。新型特養にとっても、大きな不幸になることは、目に見えている。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE