現場からの発言〈正論・異論〉
|
老人医療NEWS第61号 |
老人医療にかかわって約十五年が過ぎようとしています。当初医療保険で一般医療・老人医療に励んでいました。平成四年に老人保健施設を併設し、平成六年介護力強化病棟へ一部転換しました。現在は介護保険発足に伴い一般病棟と介護・医療療養型病棟で診療しております。
当初は老人医療、老人介護をしている医師は、他の医療機関から奇異な目で見られることもありました。デイケアで患者さんを送迎していると「老人医療・介護はまともな医者がすることではないぞ。もっと医者らしいことをしなさい。患者をかき集めるようなあくどいことはしないほうがいいぞ」と忠告されたこともありました。しかし現在では「先生のところは医療も介護も積極的にやっていて患者さんから信頼されるし経営的にも安定して良いですね」と周囲の評価が変わってきました。ありがたいことです。
昨年「老人の専門医療を考える会」に入会させていただき、メンバーの皆様の老人医療と経営にかける意気込みと情熱を肌で感じることができるようになり、自分の進んできた道、進もうとしている道は間違いではないと確信できるようになりました。感謝しております。
さて老人医療・介護をしていて悩まされていることに、介護を要する患者さんの家族構成があります。厚生労働省の指針では老人医療を在宅医療介護にシフトさせたいようですが、介護能力のある家族か身寄りの応援が得られる人であればそれは可能でしょう。しかし、介護力のない人はどうでしょうか。その場合は要介護度の如何に関わらず、現在の区分支給限度基準額で安全に在宅生活をおくるには不安があります。安心して在宅介護を受けるには、自費の部分が増えて施設にいるより随分高くつきます。
患者さんの現在置かれている環境は、個人の責任によるところが多いのですから個人がお金を出すしかないのでしょう。しかし医療・介護の現場ではそうも言っておれず経済的な面から長期入院・入所となっているケースが増えています。
在宅で生活している方の個人負担を軽くする方法はないでしょうか?如何なる介護プランが望ましいのでしょうか?市町村での研修会では「インフォーマルな介護資源のボランティアなどを組み込みなさい」などと無責任な指導をしています。真夜中に親切・確実に介護してくれるボランティアがおられたら是非紹介してほしいものです。
私は現時点では、介護力に乏しい要介護三・四・五の患者さんには、在宅介護に向けての積極的な指導は控えています。その上で診療内容においても経済的にも患者さんとその家族が満足できる療養環境づくり「これぞ老人病棟」を目指しております。
しかし困ったことに、厚生労働省は患者さんの在宅生活での負担を軽く見せる為に、施設入所での費用負担を高くするように画策します。老人は年金があるとか、若い人より貯金が多いとか言って搾り取ろうとしています。今後の医療法・介護保険法の改定が思いやられます。
保険財政が危機的状況にあることはよく分かります。何時も言われることですが効果的な政治改革・行政改革を行い、無駄をなくして豊かな高齢社会を作りたいものです。