こぼれ話
老人医療NEWS第59号
疥癬への正しい対応
山上久(鳴門山上病院理事長)

〈疥癬症の現状〉

  高齢者の特殊な感染症として疥癬が、特に施設内集団感染の危険性があることも含め、近年問題となっています。厚生労働省も、介護施設における疥癬防止対策に国庫補助を行っています。
  疥癬はヒゼンダニによって引き起こされ、以前は三十年周期で流行すると言われていましたが施設介護の広がりで、周期性が崩れ、また、施設の利用者と介護する職員に発症が増えています。

〈普通の疥癬とノルウェー疥癬〉

 普通の疥癬では千匹程度の感染であり隔離は不要ですが、重症型のノルウェー疥癬では、百万から二百万匹も寄生し、きわめて感染力も強く、同室患者、看護・介護職員、さらにこれらの家族にまで二次三次感染の危険性があり、隔離が必要です。重症型は感染やステロイドの大量投与など免疫能が低下している方などに発症しやすく、腎不全等の併発を引き起こし、死に至ることもあります。

 しかし普通の疥癬に対しても隔離を行ったり、施設を一時的に閉鎖までする例が見られます。このような過剰反応は不要ですが、免疫能が低下した老人が集団生活を送っている施設で集団発生した場合はノルウェー疥癬の可能性を考慮して対処すべきでしょう。

〈清潔の徹底〉
  最近見られた注意しなければならないケースとして、リハビリ職員が感染の拡大を引き起こした事例が見られました。両前腕を疥癬症に感染、ステロイド軟膏の塗布で憎悪された患者を担当した理学療法士が、手洗い手技を患者様ごとに行うように厳密に行っていなかったため、訓練で多数の患者様にも疥癬を広げてしまいました。これは多くの施設でも起こりうる問題と思われ、当施設のリハビリ職員等でも手洗いの厳密さが不十分であることがわかり、改善を図っています。

〈爪疥癬〉
 疥癬は一度罹ると再感染はまれだと言われていましたが、ガイドラインによると免疫は獲得できず、現実には再感染や完治せずに虫卵や虫体を体に持ち続けているケースも多く見られています。その部位として爪床が挙げられます。爪床内に罹患すると爪が白濁、増悪すると蛎殻様の爪の肥厚がみられ、爪白癬と区別できない状態、もしくは白癬との混合感染状態です。それらが宿主の状態によって活動を再開、全身に広がり再発します。

〈治療薬について〉
  治療に用いられる薬剤でここ最近、話題になっている薬剤を二種紹介します。

 塗布薬のペルメトリンは虫卵にまで効果が認められるのが特徴で、日本以外の国では医薬品として認められ一般的に使用されていますが、国内では医薬品としての承認はまだです。しかし、その効果や安全性のため、国内でも燻蒸式やスプレー式の殺虫剤として広く使われています。

 内服薬のイベルメクチンは犬のフィラリアの予防薬として使われ、人間における疥癬に対しても一〜二回の服用で有効との報告があり、国内でも承認に向けて治験が進められています。

 現在のところ、これらの薬剤を手に入れるためには以前のバイアグラのように海外からの輸入によるしかなく、個人では医師の処方箋、医療機関では薬監証明が必要であり、他の医師や、医療機関への薬剤の譲渡は不可で、原則、個々に輸入して頂くしかありません。もし入手を希望なさるときは、当院のホームページ(http://www.kyujinkai-mc.or.jp/)にも、輸入に必要な手続きや書類とそれらの記載方法等を載せておりますので参考になさってください。ともあれ国内における早急な承認が求められます。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE