現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第59号
ケアミックスは高齢者医療に求められる姿か
定山渓病院院長 中川翼

 このところ医療保険対象療養病棟をどのように運営していくかが問われている。介護保険対象療養病棟、回復期リハビリテーション病棟、特殊疾患療養病棟、一般病棟への転換などが選択肢にあげられよう。この中で医療体系として異質な病棟は何かと言えば、やはり唯一出来高払いである一般病棟ではなかろうか。高齢者医療は、平成二年以来包括化医療が中心となり、それまでの点滴、投薬や検査重視の医療より、バランスのとれた、医療、看護、介護、リハビリテーションを中心とし、ターミナル時は、緩和的医療を重視する方向が志向されてきた。そしてこれらの方向が次第に定着し、高齢者医療に対する一定の信頼と評価がなされてきたと信じたい。ここでは一つの建物の中に一般病棟をもつ意味を考えてみたい。

  一般病棟がある事のメリットは、(1)外来患者さんの多い病院あるいは、その地域に一般病院がない場合は、発熱したり食欲不振に陥った高齢者を容易に入院させ、処置できる。(2)療養病棟で発熱し、肺炎をおこしたり、食欲不振に陥った患者さんを一般病棟へ移し、抗生物質投与、点滴などの処置が容易にできる。(3)、(1)(2)で治療を終え、臥床によるADLやQOLの低下した高齢者を、速やかに療養環境の良い療養病棟へ転棟させ、リハビリテーションを開始できる。(4)一般病院などより入院した高齢者の入院時の全身チェックが容易にできる。その後、介護保険病棟や他の療養病棟へ転棟させる、いわゆるアセスメント病棟としての役割などである。

  一般病棟を持つ病院に求められる条件は、(1)発熱、食欲不振、腹痛、下血などの原因を調べるためには、ある程度精度の良い医療機器が必要である。例えば、レントゲン撮影のCRシステム、息止めしないで判読可能な胸部、腹部の断層写真のとれるCTスキャナー、腹部、心臓用のエコー、胃カメラなどである。(2)一般医療に対応できる専門医師と看護職の存在。(3)、(1)(2)は夜間及び週末も適宜対応可能であること。(4)さらに、難治の肺炎、心筋梗塞、外科的処置の必要なイレウス、骨折など、自院の一般医療(内科系)で対応困難な場合には、しかるべき専門医へ搬送する連携がとれていること、などである。

  ところで、高齢者医療を担う私どもにとってターミナルケアはとても重要な役割である。一般病棟を持つ長期療養病院の療養病棟でターミナルケア期に入ってきた患者さんは、一般病棟に移っているのだろうか。もし移っているならば、何故移っているのだろうか。ターミナルに至った時こそ、慣れた病棟で長期間ケアしてきたスタッフが必要なのでは…と思う。一般病棟は一般病棟でみる意味のある患者さんが入るべきであり、間違ってもターミナルケア中心にみる病棟であってはならないと思う。そして前記、一般病棟であることのメリットであげた大半の事は、療養病棟でも既に行っていることである。また、同じ施設の中に、包括という療養病棟、介護病棟の思考過程と、出来高という一般病棟の思考過程が共存している事は、高齢者医療のあり方にあいまいさをもたらす可能性があるのではないかと考えているが、いかがであろうか。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE