アンテナ

老人医療NEWS第58号

ソフトの充実に向けて

先ごろ、青梅慶友病院で実践されている「回想法」のドキュメンタリーがNHKで放映された。内容も、そして番組創りのポリシーも心温まるものであった。我々もここまでこれたのかなと思った。

テレビ映像はどんな言葉より説得力がある場合が多く、百万人単位の人々の目に触れることになる。一昔前の老人病院といえば、あまり良いイメージではなく、報道される内容は、医療者にとって必ずしも納得できるものばかりではなかった。

療養病床の普及のせいかどうかは定かではないが、ある程度のスペースや病棟内のしつらい、花や食器、患者さんやスタッフの顔は、確実に「見るに値する」ものへと変化しているように感じた。

介護施設の世界は、今、ユニットケアや全室個室化という方向に走りだしたが、ただ面積を広くしたり、少人数化しても、マンパワーやソフトを充実しないと「見るに値する」という状況にはならないはずだ。

高齢者に対する医療と看護は、急性期の医療とか根本的に差がある。この差は、どちらかが上か下かといった上下関係ではなく、生活、生命、生存の質に関わる差であるように思えてならない。人々はひたすら延命に努める医療を時として求め、場合によって批判さえする。これと同じように比較的長期間のケアを主体とした医療についても、時として強く求め、都合によって気まぐれな視線を投げかける。

老人の専門医療は手探りの段階から、職種の増加、職員の増員、ハードの整備という段階を経て、今、新たなソフト充実の時代を迎えようとしている。ソーシャル・ワーカー、リハビリテーション職員、臨床心理専門職、レクリエーション・ワーカー、そして多くのボランティアなどの力を結集して、新しい時代に対応することによって、新しい病院創りが各地で始まっている。

その中心は、一人ひとりの患者さんを一人の生活者として捉え、その生命や生存の質に、きめ細やかな個別対応を進めることに尽きると思う。そこには、患者さんを集団と考え、病院側も集団で対応する集団と集団という考え方から、1対1の関係を基本とした、1対多数の関係が構築されつつあるように思う。

我々は、やさしい看護、心温まる医療とか、患者さんの立場に立ったケアなどということをこれまでいい続けてきた。しかし、それがどのような状態を示すのかについてはあまりにも抽象的で、共通の認識となっても、共有化された実態をともなわないことが多かった。

我々の努力には限界があるにせよ、我々老人の専門病院を見る人々の視線が変化していることを、素直に受け入れることが必要だと思う。何か批判されることを恐れてビクビクすることはないが、ありのままを見せ、進んで批判を受け入れ、改善目的にまで育める体制には今一歩である。

質の高い老人の専門病院の必要性は認められたとはいえ、医療全体、あるいは介護といった分野で我々が最高のケアを提供していると自ら主張できる時代を創造できるかどうかが、これからの目標である。そして、「見るに値する」かどうかといった低次元の議論から、最後の瞬間まで一人の人格に対する人間性を基本とした個別対応を実践する集団として、ソフトの開発と充実に今後とも努力したいと思う。我々会員は、善意の人々に対して広く情報を公開すること、そして患者さんのプライバシーが確実に守れるのであれば、開かれた病院を目指すことを話し合ってきた。そしてそれは、ソフトの充実とともに「どなたにも見てもらえる実践」になろうとしているのである。(14/1)

前号へ ×閉じる
老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE