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老人医療NEWS第57号

診療報酬引き下げ圧力

11月15日の参院予算委員会で、小泉純一郎首相は、医療制度改革について「医師会も今まで通り診療報酬を上げればいいという状況でない。下げることも考えなければならない」と述べ、事実上次回の診療報酬の引き下げの必要性を明言した。

その翌日の16日、政府・与党の社会保障改革協議会のワーキングチーム(座長・宮下創平元厚相)は、2002年度の医療制度改革に関する中間報告を公表した。この中で、診療報酬に関しては、「昨今の経済動向に応じて判断すべきとの意見があった」という表現になっている。

この部分は、数日前までは「診療報酬を引き下げるべきという意見が多く見られた」となっていたという。日医は「もっぱら医療費を引き下げるばかりでなく、さらに大幅な患者負担増を押しつける改革案に断固反対する」という主張から、11月14日に、衆参両院議長に500万人分の署名と国会議員約220人分の賛同を得て、請願を提出した。

さらに13日夜には、自民党の厚労関係議員で作る「21世紀の社会保障制度を考える議員連盟」(会長・橋本龍太郎元首相)が都内ホテルで総会を開いた。

医療制度改革案に対しては、当会としても反対であるが、首相と政府与党協議会がまったく反対の主張をしており、11月末の同協議会の最終案がどのようなものなにか、注目する必要があるとともに、政治が医療をどのように判断するのかといった議論が、どのような方向に向かっているのかを、冷静に判断することも必要であると思う。

問題は首相の言う「三方一両損」(医療機関・医療保険・患者)ということと、新規国債30兆円という公約との関係である。厚労省が繰り返し主張している、2800億円の削減のうち、1000億円が患者負担の引き上げなどで、残る1800億円が、診療報酬や薬価の引き下げで対応するという方針に対して、日医は据え置きは「やむをえない」が、引き下げには反対と主張している。

しかし、現実問題として診療報酬を据え置くとしても、薬価と医療材料価格の引き下げが行われることになるのであろうし、2800億円の全てを薬価と材料だけで引き下げるとなると、大幅な引き下げとならざるをえないのであろう。これまでの診療報酬の改定、薬価と材料の引き下げ分を、改定の原資としてきたので、報酬を据え置いても薬価と材料の引き下げ分だけ各医療機関の収益は減少するという計算になってしまう。

もしこのようなことがおこると、医療費用に占める薬価や材料費の割合が高い病院など、収益減になることになる。わが国の現状では、各種商品やサービスの価格崩壊がすすんでいるのであるから、薬剤や材料も価格が下がる仕組みを導入する必要があるように思う。なぜならば、薬価や材料の公定価格を政府が決定することにより、各企業は生き残れるということになるからである。

薬価や材料については、医療機関が差益を得るのはけしからんという大合唱で、現行では、大幅に差益は減少している。何か医療機関が差益で得をしているように思われるのは、不快である。

したがって、医療制度の構造改革を進めるのであれば、薬価や材料について、価格が市場で低下する方式を導入することが必要であるように思う。少なくとも技術料は技術料として支払い体系を組み、差益が生じるものについては、別のシステムを導入せざるを得ないのではないか。

財政が危機状況であることは、誰でも理解しているが、だから診療報酬を一律に引き下げるという、単純な発想より、医療周辺企業も巻き込んだ構造改革であるべきだ。(13/11)

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