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老人医療NEWS第56号 |
小泉内閣の「聖域なき財政再建」は、高齢者医療費抑制に向かってきた。厚生労働省は、高齢者医療の対象を現行の70歳以上から75歳以上に引き上げ、外来についても1割負担に統一するとともに、現行の1ヶ月間の上限医療費が37200円以上の高額療養費について、高齢者の負担能力を踏まえて見直しを検討している。高齢者医療の世界に波紋を呼ぶことは、確実である。
第一に、高齢者の1割負担については、介護保険制度との整合性という観点から、やむを得ないことであると考えられる。現行では、外来の一部負担が200床以上の病院で1ヶ月の上限が5000円、それ以外の病院で3000円、さらに診療所では1回の診療が800円で、1月に5回からは無料としている。それぞれの利用機関の利益を考慮してのことであろうが、仕組みとしてわかりにくいし、病院への受診抑制効果があるのかどうか疑問である。
第二に、高齢者医療の対象を75歳以上とすることについては、反対も賛成もできない。どちらかといえば、反対ということになるが、高額療養費との関係でいえば、高齢者にも一定の負担をお願いせざるを得ないことも確かであり、なんでもかんでも反対では、議論が先に進まない。つまり、高齢者に負担をいただく代わりに、医療の質の維持・向上を約束するといわれれば、それはそれで議論になるのである。
第三に、高額療養費の上限引き上げには、反対である。これは介護保険制度との整合性もないし、高額療養費制度が機能しているので、高齢者医療が確保されていると考えるからである。この制度は、わが国独自のものであり、なんでもかんでも引き上げ、財政的つじつま合わせをすればよいというのであれば、厚生労働省の進める医療政策の放棄といってもよい。
多くの国民は、わが国の置かれている経済状況を理解しているし、政府の進める政策展開になんとか協力したいと考えてもいる。しかし、一方では「カネがないからしょうがない」的な手法は、あまりに短絡的で、少なくとも深く考えていないように思えてならない。
なんだか「改革」といわれ、それには反対すると「抵抗勢力」だとか「守旧派」だとかいうレッテルを貼り、人々の意見を無視するかのような進め方は、どう考えても知的ではないばかりか、人の命と暮らしを守るという医療本来の理念をあざ笑うかのように思えてならない。
医療費については、保険料の引き上げとか、診療報酬の引き上げなどということも、検討スケジュールに載っており、そのための作業も進んでいるらしい。しかし、国民に一方的に負担を押しつけるのではなく、制度全体の整合性の確保とか、財政的政策であっても、必要な医療の質の向上については、別枠で検討するとかいう「医療の心」に訴える政策展開も必要である。なぜならば、医師だけでなく共に働く看護職や多くのスタッフの努力と協力が医療を支えているのであり、これらの人々がやる気をなくすことのないような配慮は、最低限必要であると考えるからである。
老人の専門医療を考える会は、会員のみで運営する任意団体であり、少しでも質を向上させるために多数の研修や研究を進めてきた。そして、多くの人々の理解を得る努力をしてきたし、老人医療そのものの質の向上にも、ささやかな貢献をしてきたと自負している。
それゆえ、老人医療制度や介護保険制度についても、経済的裏付けという意味でも、質の向上という意味でも、是々非々の立場を貫いてきた。このような立場から、今後の高額療養費抑制政策についても反対なものは反対したいと思う 。(13/9)