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老人医療NEWS第55号

骨太構造改革と老人専門医療

小泉内閣の真価を問う参議院選挙戦がたけなわである。問題は骨太構造改革の具体策がみえないことであり、関心は老人医療の行方だ。6月26日、政府は経済財政諮問会議の「基本方針」を正式に閣議決定し、@民営化・規制改革、Aチャレンジャー支援、B保険機能強化、C知的資産倍増、D生活維新、E地方自立・活性化、F財政改革からなるプログラムを示した。

社会保障制度の改革については、「国民にとっても最も大切な生活インフラ(基盤)である。年金、医療、介護、雇用、生活扶助等で構成される社会保障制度は、国民の生涯設計における重要なセーフティネットであり、これに対する信頼なしには国民の『安心』と、生活の『安定』はありえない。しかし、年金、医療、介護などの社会保障の分野には、『ムダがある』『負担が不公平』『将来は大丈夫か』などといった指摘が数多くある。社会保障に対する信頼は、まず国民にとって『分かりやすい』制度であることが不可欠であり、改革はこの点に十分配慮する必要がある。また制度の『効率性』『公平性』『持続性』が十分に担保されたものでなければならない」という原則が示されている。

次いで、「社会保障が、長期にわたって経済の伸び以上に拡大を続けることは事実上不可能である。今後は『給付は厚く、負担は軽く』というわけにはいかない。社会保障の三本柱である年金、医療、介護は『自助と自律』の精神を基本として、世代間の給付と負担の均衡を図り、相互に支えあう、将来にわたり持続可能な、安心できる社会保障制度の再構築が求められている。そのためにも、国民の1人1人が社会保障の意義、役割、内容をよく理解し、痛みを分かち合って、制度を支えるという自覚をもって取り組むことが大切である」としている。

医療制度の改革に関しては、医療機関、保険者、国民のそれぞれが痛みを分かち合い、医療サービスの効率化に取り組み、質が高くムダのない医療を実現するため、「医療サービス効率化プログラム(仮称)」の策定を、そのメニューとともに提示、同時に、医療費総額の伸びの抑制方針が示された。特に、「高齢化の進展に伴って増加する老人医療費については、経済の動向と大きく乖離しないよう、目標となる医療費の伸び率を設定し、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する」とされている。

注目されていた「介護」については、「高齢者医療から介護サービスへの円滑な移行と連携を促進するとともに、介護サービスの供給体制の整備充実を図る。特に、痴呆性高齢者のグループホームやケアハウスの拡充が急務である。また、地域住民やNPOなど新たな担い手による創意工夫や民間活力、ケアマネジャー等の専門家によるサービス利用の支援、市場原理を活かした効率的で質の高いサービス供給を確保する」とされているにすぎない。

どう読むのか。介護については介護保険制度によって一応改革が済んでおり、今後の重要なテーマが高齢者医療から介護サービスへの移行と連携のみであるとも読める。しかし、一方では、「医療、介護など従来、公的・非営利の主体によって供給されてきた分野に競争原理を導入する」とし、医療機関の経営主体については「株式会社による経営などを含めた経営に関する規制の見直しを検討する」と明言している。

厚生労働省は、医療の質を重視しながら伸びを抑制するというかなり困難な選択をするのであろう。ただ、高齢者数の増加による医療費増は避けられない問題であり、それ以上に老人専門医療の確立が最優先課題だという認識がないわけではなかろう。(13/7)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE