アンテナ

老人医療NEWS第54号

老人医療の担当課はどこか?

厚生労働省が発足して、半年が経過した。久しぶりに省内に入ってみると、どこにだれがいるのかがまったくわからない。そこでまず、省内の売店で「ガイドブック厚生労働省」(本体価格1800円)を購入した。この本は必需品で、各局各課の机の配置図と担当者の名前、内線番号や各課の分掌事務が短い文書で書かれている。

長年お世話になっている老人保健課は「医療以外の保健事業の企画調整、調査、運営、計画の推進に関すること、要介護・要支援認定に関すること、介護報酬に関すること」と書いてある。

老人保健課といえば、「老人診療報酬点数の設定」のために医療系があったはずだがと思ったが、その係がない。聴いてみると「昨年の6月に保険局医療課にうつった」といわれたので、そのページをみた。確かに医療課に医療系があったが、それは「老人医療系」ではなく、ただの「医療系」であった。

「老人医療はどこか」と改めてページをめくってみると、保険局総務課内に「老人医療企画室」があり、「老人医療に関する総合的企画調整及び調査研究」と書いてある。ほかにも「老人医療」と書いてあるところはないかとさがしてみたが、どこにもない。これは大変なことになったような気がした。

厚生労働省の方々と話し合ってみたが、「老人医療は、医政局総務課ですかね。老人診療報酬は保険局医療課。そして老人医療制度の総合調整は企画室が担当することになっています」とのことであった。

10兆円を超える老人医療費、全入院患者の約45%は70歳以上という現実、そして老人医療費の負担問題とともに老人医療を医療の世界でどのように位置づけるかといった課題は、20世紀から持ち越されてきたことである。それにもかかわらず、老人医療を包括的に担当する課がなくなってしまっていることに、危惧を抱かざるをえない。

老人医療の負担が大きな社会問題であることは十分に理解しているし、負担能力がある高齢者もいることもわかるが、一方で負担ができない人々もいる。負担可能な人々と負担できない人々を同一制度で対応するために、負担が可能でない人々を前提として給付を組み立てるのか、それともその負担能力に着目した制度にするのかといった基本的な枠組みをどうするのか。少なくとも「金がない、医療費が高い、負担できない、負担したくない」というステレオタイプの議論を続けるよりも、老人医療の基本とは何か、その質の確保と向上のために何が必要なのかを議論することが得策であると思う。

このようなことから、厚生労働省に老人医療を包括的に担当するセクションなり「老人医療総合対策本部」というような省内プロジェクトを立ち上げて、老人医療に関する国民的な議論を展開して欲しいし、また、不毛な医療費問題より質の議論をして欲しい。 (13/5)
前号へ ×閉じる
老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE