こぼれ話
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老人医療NEWS第57号 |
◆お見舞いの品の定番
昔は「病人」といえば「くだもの」でした。子供の頃、風邪で寝ていると必ず、すったリンゴを与えられませんでしたか?
果物は病気見舞いの王様でした。葉のついたパイナップルの入った籠盛りのフルーツなど、八百屋の店でも奥まった棚に載せられて、偉そうにしていたものです。
果物の缶詰も、いただくと嬉しいものでした。赤や透明のセロファンに包まれた籠入りの缶詰は、高度成長に入る前、まだ貧しかった時代の日本の子供には、まぶしいほど御馳走に見えました。
モモ、パイナップルが入っていれば豪華版です。ミカン缶にフルーツカクテルやミツマメの缶が混ざっているのは少し安いセット。そういうのはパイナップルも輪っかではなく「ブロークン」と呼ばれる刻んだものが入っていました。
◆果物を楽しむ
病院で患者さんにご要望をお伺いしたところ、果物をもっと出して欲しいとのお声がありました。
そういうことなら、単にお食事やおやつとしてお出しするより、もっと楽しめるようにしたいと考え、「フルーツタイム」という催しを実施することにしました。
季節によって果物の種類にも変化をつけながら、病棟ごとに月に1度行っています。
果物の種類により、好みの違いはあります。グレープフルーツの独特の酸味が苦手という方もいらっしゃいますし、パイナップルなどは充分に熟れていないと、酸っぱくてイヤという方もいらっしゃいます。
ただしバナナはあまり好き嫌いなく、ほとんどの方が好んで召し上がってくださるので、毎回必ず用意する定番フルーツとなりました。よく熟して、外側がヒョウ柄になったものがエグみがなく、ジュースには特によいようです。
フルーツタイムには、デイルームにジューサーやミキサーを並べて、患者さんにも作っていただきます。
大勢でワイワイやっていると、普段はあまり前に出ない男性の患者さんまでが、「どれワシも」と、スクィーザー(半分に切ったオレンジやレモンを上から圧迫して絞るプロの道具)のハンドルを押してオレンジを絞ってくださいます。
刻んだ果物のどっさり入ったフルーツポンチを作れば、香りづけの白ワインに「もっと!」と声が掛かったりして、なかなか賑やかなことです。普通に果物を召し上がっていただくより、何倍も笑顔が見られるということで、この催しはなかなか好評です。
◆フルーツセラピー
とりどりのフルーツが並ぶと、豪華なもてなしを受けているようで気分がいいという方がいらっしゃいます。フルーツタイムの思いがけない効果です。
果物は見た目にも美しく、楽しめるので、フルーツタイムに使う材料はいつも3日ほど前に病棟に届け、デイルームなどに飾ります。籐のバスケットに盛ったり、ガラスの花器を利用するなど、見せ方の工夫もしどころでしょう。果物の様々な形や香り、鮮やかな色合いは五感を刺激し、また「待つ楽しみ」をつくってくれます。
中にはバナナを1本失敬していく方もあったりしますが、食事制限のない患者さんなら見て見ぬフリもケアの内といったところです。
アロマテラピーでも、果物の香りには気分をリフレッシュしたり、爽快感やエネルギーを感じる効果があるとされているようです。
昨今は○○セラピー、○○療法というのが盛んですが、果物を楽しむのはフルーツセラピー(果物療法)といえるでしょうか。(13/11)