現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第57号
痴呆性老人への向精神薬の使用
上川病院 理事長 吉岡充

痴呆性老人の問題行動とは、「記名力や判断力が低下して、不安だらけの混乱した状態で行動を起こすが、それが現実とミスマッチとなる」ことである。これが本人や周囲にとってやっかいな、困った行動となるわけである。しかしここで、やっかいなととらえないで、不安と混乱の中で困っている人に親切にしてあげようするとスタンスを全スタッフがとり続けることが重要である。

5つの基本的ケア
@起きる 起きていると周囲への関心も高まり、次の行動の準備にもなり、人間らしさを保つ出発点になる。
A食べる 人は口から食べ物を食べている間は元気なものである。感染にも強いし、脱水にもならない。点滴等の必要もなくなる。
B排泄 人の尊厳にかかわる。できるだけトイレで、特に便は。
C清潔 快適さのためのケアである。不潔でかゆみ等も生ずると不眠や不穏のきっかけとなる。清潔であった方がケアの意欲もわく。
Dアクティビティ よい刺激と呼んでいるが、単なるレクリエーションだけでなく、日常生活でまだできることを見つけ、繰り返し行ってもらい機能を維持していくことである。その人らしさを取り戻していくことが目標となる。

この5つの基本的ケアを行うことによって85%の問題行動は軽減される。それでも暴力等の攻撃や長く続く不眠やせん妄等も加わった夜間の大声等に向精神薬の使用が効果があることは多いが、使用方法を丁寧にしなければならない。『身体拘束ゼロへの手引き』では、「行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる」ことはいわゆる薬物による抑制としている。この過剰か否かの判断は医師が行うことであろう。昨年、上川病院の36床の痴呆療養病床で148回の転倒があった。骨折は腰椎圧迫骨折2件、大腿頚部骨折1件の合計3件であった。骨折転倒回数の14%位は向精神薬の影響は否定されないが、この中には骨折はなかった。

さて、向精神薬の多くの副作用はパーキンソン症状に代表される錐体外路症状が一番多く重要であろう。元気で乱暴だった人がよだれを出してロボットの様に歩いたらこの典型である。喉に嚥下くれば嚥下障害となる。眠気やふらつき、口や舌の不随意運動、血行低下、頻脈、便秘等、どれもADL低下をもたらす結果となる。

@少量投与(最小量剤形の2分の1とか4分の1の量。
A頻回な減量や中止を含めた変更。
B看護婦による副作用チェックを行ってもらい、副作用が出始めそうになった時に、その場にいる医師と相談し中止する。

特にAに関しては毎日、特に夜間の連絡を行い調整しているが、いまだにおっかなびっくり使用している。

最近の薬の添付書にも高齢者への使用量を具体的に提示しているものもある。いわゆる薬漬けで寝たきりといった話も少なくなっている。より副作用の少ない新薬も開発されてきた。しかし、向精神薬の使用そのものが抑制になってしまう可能性があることを、やむを得ず向精神薬を投与する医師は強く認識していなければならない。(13/11)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE