巻頭言
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老人医療NEWS第57号 |
介護保険制度も施工後1年半が経過した。スタート時の混乱も収まり、国民の間にも定着し、事業者や市町村自治体も大分慣れてきた感がある。しかし、保険料の全額徴収は始まったばかりであり、サービスの利用率も50%前後の水準で移行している。本当の介護保険時代はまだこれからである。これまでの介護保険給付を在宅、施設で見ると、在宅が35%、施設が65%となっており、約3分の2を施設で支出している。在宅では、通所サービスが60%を占め、訪問介護、訪問看護と続き、サービス基盤の整備と共に徐々に伸びている。全体的には、生活支援の目的どおりの運営となっているようだ。
一方、早くも平成15年4月の介護報酬や保険料改定、そしてその後の制度そのもの見直しのための議論が始まっている。事業者に対する経営実態調査や利用者へのアンケート調査と平行し、通所系サービス、訪問サービス、そして施設サービスについて、従来の医療、福祉の枠組みごとに類型化されているサービスについて、そのサービス内容や機能を差別・明確化することとそれに応じた報酬が検討される。
特に、来年4月の診療報酬改定に関係する療養型医療施設、訪問看護、訪問リハ、通所リハといった介護報酬については、早い時期に方向性が決まることになる。政策的課題として、この制度の大きな目標とされた社会的入院の是正が挙げられるが、医療機関の介護療養型医療施設への転換について、多くは慎重であり進んでいない。介護保険制度の発足で医療保険財政の好転を期待していた向きには、その効果は老人保健の医療費で約半分に止まっていることに不満を匿さない。本来、この時点での介護保険制度の財政評価は、介護サービスの量や質の在るべき論が先行すべきが故に時期尚早であろう。しかし、医療保険制度、特に高齢者医療保険制度創設の議論には、両保険制度の一体化論もあり、混迷しているのも事実である。
そもそも、我々は一部の医療をも包含した介護保険制度に医療者の立場から参加し、制度そのものを支えていると自負している。医療保険制度下にあっても、高齢者1人当たりの医療費が若年世代の5倍であるとか、また一般病院に長期入院している社会的入院の是正が進まないといった議論は、医療施設の機能分化が進められる前から取り組んだ経緯がある。我々は高齢者医療の現場に福祉サービスを積極的に融合させ、予防的な看護やリハ等を取り入れたチームケアを実践し、そのための包括払い制も提言、実行している。我々にとってこれらの議論は整理済みであるといえる。
これまで、制度や報酬に関わる議論は、主にサービス提供側と支払い側の対峙の構図の中で行われてきた。利用者や患者の立場は見え難い印象が強いが、心身の疾病や障害を持った高齢者の確かな医療ニーズは高い。これら利用者や患者のニーズを中心に捉えた議論が制度を成熟させることになるのだ。(13/11)