現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第55号
介護療養型医療施設の嘆き
財団法人仁風会嵯峨野病院 副院長 溝渕健介

介護保険制度が始まり、介護サービスは在宅サービスと施設サービスに分けられ、すべての高齢者は住み慣れた土地、住み慣れた家を望んでいるはずであると、専ら「在宅」が強調されている時代です。それはさておいて施設サービスのなかでもっとも世間の認知度が低いのは、介護療養型医療施設ではないでしょうか。オンブズマン的存在で施設に入ってこられる介護支援相談員と名乗る方々も、「何か病院らしいよ」程度の認識をされている現実からも世間の認知度の低さがうかがわれます。何故でしょうか。これはこの名称に原因があるのではないでしょうか。他の介護保険施設である介護老人福祉施設や介護老人保健施設は、「元の」がついていてもそれぞれ特養、老健として定着しているのに対して、介護療養型医療施設というのは旗色が悪いといわざるを得ません。

この名称はどこで、どなたが提唱されて決まったのかは知りませんが、病院であるということが認知されるような呼称が必要だと考えます。今の世は何でも短小化のもてはやされる時代です。古くはリストラやコンビニから今はやりのITでもデジカメ、メルマガからシスアドにいたるまで、口にしやすくて、耳に響きの良い熟語がもてはやされるようです。こうみてくると、トクヨウ、ロウケン、コンビニ、デジカメと4文字がインプットされやすいのかもしれません。介護療養型医療施設ももっと親しみやすく、省略したら4文字でインプットされやすい呼称に変えたほうが世間に定着し、認知されていくのではないでしょうか。3施設の一元化も取り沙汰されていることですし、他の施設との違いを強調し理解を広めていくことは当然のことですが、広く世間に呼称を認知してもらうことも重要なことと考えます。

さらに療養病床(療養型病床群)の医療保険適用病床と介護保険適用病床の問題があります。医療の必要なときは医療保険適用病床あるいは一般病床に、介護の必要なときは介護保険適用病にと机上では考えられるのでしょうが、身体・精神を病んだ高齢者が2つに分けられるはずはなく、医療なき介護は現実にはありえません。この両者の間には訪問看護や居宅療養管理指導など問題が山積していますが、その中でも現場を混乱させているのが、オムツ料金の徴収の問題です。医療の必要性も介護の必要性もほぼ同程度の患者様に、片やオムツ料金を別途徴収してもよいが、片や別途徴収はまかりならぬということをどう説明すればよいのでしょうか。介護給付費の中に包括されているからオムツ料金は認められているはずだということなのでしょうか。介護保険適用病床でも必要な医療は可能な限り提供するのですから、両保険を比較すればオムツ料金はそのまま赤字となってしまいます。好んでオムツを使用する人はいません。必要やむを得ない処置なのですから、医療保険と介護保険との区別以前に両者とも適正な実費と適正な人件費は認められるべきものと考えます。

介護療養型医療施設の申請がいまだに予定の数に達しないのは、様々な要因があるにしてもオムツ料金の徴収の問題も大きな壁になっていると考えられます。
(13/7)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE