現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第54号 |
長い間日本の医療は医師を中心に行われてきた。主治医は患者に関する全責任を負うという建前で、他の職種に対して優位な立場にありその指示は絶対であった。
しかしながら、主治医になるための資格について議論されたことは稀で、資格試験が行われたという話は聞かない。大学病院では、患者の診断、治療はカンファレンスで決められることになっているが、実際は教授の指示や、助教授、講師などの意見で決定され、主治医はその実行者に過ぎない場合がある。また、病院によっては卒業間もない研修生が主治医であったり、同じ病院に入院しても主治医によって患者の運命が決まるという話も聞くことがある。
さて、病院の機能や医療の質を評価するとき、診療の責任体制がきちんと取れていることは重要な要素である。特に疾患の診断と治療を主な目的としてきた日本の医療では、1人の医師が全責任を負う主治医制がよいとされてきた。グループ診療の名のもとに、医療事故が発生したとき責任者が明確でなく大問題となったケースもあった。
しかし、前述したような現実の中で、単に主治医の氏名を明らかにするだけで本当の診療責任体制が整備されていると考えてよいであろうか。主治医制をとるのであれば、主治医になる資格を定め、その資質を保証するとともに、診療科の管理責任者、主治医、担当医の業務責任を明確にすることが必要ではないだろうか。
療養病床における診療科の役割は、単に疾患の治療を主とするのではなく、療養患者の慢性疾患コントロール、医学的全身管理を行い、また、リハビリテーション、在宅復帰への支援を行うことである。そのためには看護職、介護職、リハビリスタッフ、栄養士、薬剤師、MSW等、多職種との協業が重要である。
この観点から、1人の医師に権限の集中する主治医制は、療養病床においては必ずしもふさわしいとは考えられない。実際、主治医の意思でケアの方針が一方的に決められたり、診療優先のため看護介護職がプランを実行できないといった声も聞かれる。あるいは、指示を受けるため忙しい業務の中で主治医をさがす、近くに医師がいるにも関わらず医師間の連携が悪く簡単な指示も受けられないなどいくつかの弊害も見られている。
老年専門医としてのgeneral physician の養成も出来ていないわが国では、各種の専門分野の医師が高齢者医療に携わっている。ひとりの患者に対して複数医師が有機的に連携することが複数疾患を持つ高齢者には良いように思われる。
人の意見が聞け、リーダーシップのとれる診療科の責任医師を明示する。毎週カンファレンスを行い検査、治療の方針の統一をはかる。そして、毎朝申し送りとケアカンファレンスに必ず出席してどの医師でも入院患者全体に対応できるようにすること。さらに、インフォームドコンセントの関わる場面では、医師だけでなく関係するスタッフも一緒に患者、家族に対応し、その情報を全職種で共有することが重要と考えるがいかがだろうか。 (13/5)