こぼれ話

老人医療NEWS第54号

歌は世につれ
博愛記念病院 理事長 武久洋三

介護保険の勝ち組の1つに通所サービスがある。これは在宅療養の介護者にとっては、日中、介護から開放され、施設側としても1日6時間程で入所の70%位の収入となる。さらにサービス利用者は入所予備軍の意味もあるから、当然といえば当然である。

これにはデイサービスとデイケアがある。英語のほうが言いやすいと思うが、ケアマネジャーを介護支援専門員と云うようにするなど、日本語でないといけないと決めたのはほかでもない小泉元厚生大臣であった。

昨年の10月頃から、医療機関のデイケアからデイサービスへの転換が盛んになっている。従来、デイケアはリハなどの医療要素が強く、デイサービスではレクリエーション主体に運営されてきたが、両者で利用者の争奪戦の模様を呈している昨今、デイケアもレク機能を充実させないといけないといわれている。

この通所サービスのレクの中でも人気なのがやはりカラオケ。入所者へのサービスにも音楽療法が増えているが、やはりここでも人気はカラオケ。平均80歳以上の要介護者のお好みは東海林太郎か並木路子か!軍歌や童謡もある。美空ひばりや石原裕次郎もそろそろ出てきた。歌うことは、精神的にはもちろん、呼吸器をはじめ身体的にも大変よろしい。しかし、ここでも人間社会そのままの状況が見てとれる。マイクを握って離さない人は勿論、人の歌などろくに聴きもしないで必死に次に歌う歌をさがす人もいる。そしてやはり数少ない老紳士は人気がある。介護するスタッフもおかげで演歌には強くなっている。いかにうまく雰囲気を盛り上げるかが、優秀な職員の条件ともなっている。

さていう私は、今や60歳手前の老年予備軍であるが、青年時代は50年代、60年代のロカビリー全盛期であった。ポールアンカやプレスリー、ニールセダカとビートルズ世代の1つ前の世代である。そのころの大学ではそこかしこで学生バンドが大はやり、ジャズコンボやフルバンドのほかハワイアン、デキシー、マンドリン、ウェスタンと多彩であった。今の学生は、ロックバンド一辺倒で芸がない。私自身、高校の文化祭に、にわかロックバンドを作って出演していた経験から、大学時代はコンボバンドでピアノを弾いたり歌ったりしていた音楽好きである。

小泉新総理も音楽好きとか。生年月日もたった2日私が先に生れただけなので親近感があるし、何とか古い体質の日本を新しく改革してくれるのではないかと大いに期待もしている。

しかし、私達の世代もすぐ老人となってしまう。最近ふと、あと10年少々で場合によっては介護保険施設に入所したり、デイに通うかもしれない不安を感じ出している。

そうしたらどうだろう。今の老人は軍歌や歌謡曲を喜んで歌っているが、私達の年代はロカビリーになるのか?「ダイアナ」や「恋の片道切符」をウェスタンカーニバルよろしく平尾昌晃や山下敬二郎と一緒に入所して歌うのだろうか。人間は、その青春時代に歌った歌に郷愁を覚える。すなわち、年代によって好みの歌が分かれてしまっている。

そして、さらに飛躍して考えてみた。今20歳前後の若者が50年経って老人施設に入ったとしたら、桑田やグレイやラルクアンシェルやモー娘の歌を、しかも舌を噛みそうなくらい早口でむずかしい歌を大声で皆で歌うのだろうか。

そしてその老人達を介護する50年後の若者の間では、リバイバルした従来のような典型的な演歌がブームになっていたとしたら、介護をする若者達は老人に、「どうしてそんなに早口でむずかしい歌が歌えるの!」と驚くに違いない。正に「歌は世につれ、世は歌につれ」である。流行は繰り返すということを想いながら「クスッ!」と笑ってしまう、今日この頃である。 (13/5)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE