現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第52号 |
高齢者のターミナルケア(終末期医療)において、ご本人の意思はどの程度尊重されているのであろうか。多くは認知障害を有する90歳近い方が次第に経口摂取できなくなった時、本人にどの様な治療を希望するか確認し得る事は極めて稀であろう。点滴、IVH、経管栄養などをとても嫌がり、抜去してしまうなどの行為で本人の意思を多少とも推測できる程度である。この様な時は通常、ご家族、特にキーパーソンの方と話し合い、方向性を決めている。これで良いのだろうかという疑問も少なくない。リビングウィル(尊厳死の宣言書)で自己の意思をはっきり表明している場合はわかりやすいが、それにも問題がないわけではない。現在、尊厳死協会に全国で93000人が入会している(平成12年10月29日、北海道新聞朝刊)4年前より約2万人増えているという。しかし、国民全体からみれば0.01パーセント程度である。臓器提供意思表示カードは全国で9パーセント、札幌市で19パーセントの人が所持している(平成12年11月5日、北海道新聞朝刊)。このカードはとてもすっきりしていてわかりやすい。
リビングウィルは前文に続いて次の3項目が記されている。@私の傷病が現在の医学では不治の状態であり、既に死期が迫っていると診断された場合には徒に死期を引き延ばすための延命措置は一切おことわりします。A但しこの場合、私の苦痛を和らげる処置は最大限実施してください。そのため、たとえば麻薬などの副作用で死ぬ時期が早まったとしても一向にかまいません。B私が数ヶ月以上にわたって、いわゆる植物状態に陥った時は、一切の生命維持装置をとりやめてください。そして後文となる。ところでBの生命維持装置のなかに、水分補給や抹消点滴が含まれるのか、衰弱してく高齢者の最期をいわゆる植物状態という言葉に包含されるのか、また、一度始めた経管栄養やIVHを中断する勇気を多くの医師が持ち合わせているのか、と思う。このリビングウィルは、癌や難病などを対象としてつくられ、高齢者の終末期医療向きには作られていないと思うし、意思表示の形がもう少し簡素化されないかとも思う。私は己の終末期に対し経口摂取できなくなった時、「経管栄養の開始」を希望するか否かを中心に意思表示をしておく終末期医療意思表示カード所持の普及を期待する。それには、@終末期には次の医療を希望する(緩和医療、延命医療、どちらかに○をつける)。A次の医療は希望しない(経管栄養、中心静脈栄養、人工呼吸、心肺蘇生、その他( )、該当するもの全てに○をつける)、署名年月日、本人の署名、家族の署名。このカードに記された意思の下に、ご家族と相談してターミナルケアの方向を決める、というのはいかがであろうか。ご意見いただければ幸いである。なお、私はリビングウィルの普及に反対するものでは勿論ない事を申し添えておきたい。(本原稿は、介護療養型医療施設連絡協議会機関誌『LTC』投稿中の原稿の一部を転載した。) (13/1)