現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第51号 |
慢性期の高齢者医療にドップリつかるようになって2年余り、これまでそれほど気にとめなかったことに反省も数多い。
その1つが高齢者の座位生活の実態である。離床の重要性が叫ばれて久しいが、車椅子での座位しか考えてこなかったように思う。病棟に椅子は少なく、あってもごく普通の椅子であった。動けない高齢者が、車椅子から椅子に移って生活するなどの情景は、援助の手間がかかることもあり多くはなかったと考える。いきおい、車椅子で長時間の座位生活となる。
体力の乏しい高齢者は、頭部が前方か後方、側方に倒れる。ハイバック・チェアかリクライニング車椅子なら幾分かはその辛さも解決されたであろう。座ることが大切だからといって、座位耐性のない高齢者があのような姿勢で座っていることが快適だったはずはない。通常の車椅子は移動用に作られていて、座位での活動にはそぐわない。これから、高齢者が少し長い間、安全で快適に座ることに配慮したケアに努めたい。
言うまでもなく、座位効果の一つは廃用症候群の予防である。廃用症候群といえば、褥瘡に拘縮、筋萎縮となるが、褥瘡は予防マットや中心静脈栄養などにより少なくなった。
しかし、拘縮予防は簡易で決定的な対応法がないこともあって、積極的に取り組まれていない現状がある。麻痺や関節障害のない高齢者でも、安静を続けることによって容易に拘縮が発生する。では、起こして座ってもらい、関節可動域の訓練をすればいいじゃないかとなるが、1人1人に個別の対応をする余裕がない。結局、拘縮はあっても褥瘡がなければよしとする暗黙の了解が生れる。
そこで当院で長期療養中の91名について、拘縮の実態を調査した。
驚くことに、91名の合計1619関節の中で、約7割(1145関節)の関節に可動域の制限があった。また、発症からの期間が長くなる程、制限関節数が増える傾向にあった。このような療養の長期化と制限関節数の相関は、一度生じた拘縮の改善は困難であることを窺わせ、今更ながら、予防の重要性を思い知らされる結果となった。一定の期間を過ぎると改善が固定する麻痺などに比べ、拘縮予防は長期に継続して対応する必要があることも再確認した。
長期療養では、肺炎、骨折など多くの事態が併発される。その時々に、適切な座位生活を保障し、必要な訓練を提供する対応法が限られるマンパワーの中で実践できるのかどうか、これからの課題となる。各種の椅子そして車椅子、アクティビティーやレクリエーションの仕方、介護方法とリハビリテーションのあり方など多くの課題があるが、最も重要なことは、医師と看護の安静の意識とその根拠の再検討にあるように思う。
いつまで臥床が必要なのか、根拠に乏しい安静神話が蔓延してはいないだろうか。
実態の詳しい把握を重ねながらいくつかの試みを開始したい。(12/11)