現場からの発言〈正論・異論〉
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老人医療NEWS第50号 |
老人医療は入院医療を中核として展開されてきた。高齢者ケアは施設ケアを中核として展開してきた。これからは施設サービスの限界、弊害について見直す時期にきている。費用対効果といった視点でも。
病院といった環境は高齢者、とくに免疫能力の低下した要介護者にとってはMRSA、緑膿菌、セレチア菌等に感染しやすい最悪の場なのである。病院といった環境は生活の場となりえていなく、一方的にサービスを提供しており廃用性の機能低下、能力障害(生活障害)を起こす場なのである。病院といった環境は生命の多面性(肉体的生命・精神的生命・社会的生命・文化的生命)といった全人的な配慮がなされていない無味乾燥の場なのである。
施設ケアの一律の人員配置基準では集団的、画一的処遇の場の域を出ず、決して個別ケアとなりえていない(これからは人員配置基準をなくし、個別のケアプランに基づくサービスの保障、報酬体系にしていくべきであろう。)さらに現状の高齢者医療の実態はサービスの視点が家族に向けられ、利用者が高齢者であることを二の次としている。
このような病院といった環境が人生終末の場として相応しいのか。高齢者自身が望んで入院、入所しているのか。この期に及んで優先順位を何にするのか。入院医療、治療方針において本人の意思を確認できているのか。自分の立場(利用者)で考えてみようではないか。社会保障の一翼を担っていく立場からして(税金、保険料を財源としているかぎり)病院、介護施設は社会のニーズにマッチしたあるべき姿を追い求めた利用者本位の個別のサービスを提供していくべきであろう。その一歩として介護保険が誕生したと私は考えたい。
老人病院こそ地域に展開していくべきである。高齢者を地域で支えていくために我々が何をなすべきかはすでに明らかである。コミュニティケア、個別ケアの具現化を図っていくための訪問診療体制の整備、在宅医療、ケアをされている方々のための緊急入院用のベッド確保(稼働率100パーセント、1年の入院待機ではなく)。居宅での医療、介護の安心、安全を24時間、365日応援していくための政府ティーネットの構築。予防、予測的ケア、リスク管理等々の技術革新。などやるべきことや、メニューは出尽くしている。要は我々の行動の変容である。高齢者がサービス提供側にあわせていくのではなく、高齢者のニーズにサービス提供側があわせていくといったごくごくあたりまえの社会常識に我々の業界も早急に脱皮すべきであろう。
高齢者医療を実践し、実態を直視してきた者だからこそ医療界の先頭に立ち、我々の業界を、サービスを変えていこうではないか。高齢者の医療に携わってきたからこそ変革すべきことが見えるはずである。
いつの間にか我々の仲間が我々の業界の中枢と何ら変わらなくなってきているのではないだろうか。入所オンリーの施設医療、ケアにしがみつき、業界保護、保守のため何でも先延ばしのパターンに陥りたくないものである。我々こそ医療界のパイオニアに成れるチャンスがあると私は確信している。いかがなものか。 (12/9)