現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第49号
介護保険施行3ヵ月を経過して
湖東病院 院長 猿原孝行

介護保険法が施行されて3ヶ月が過ぎた。早いもので、介護認定審査会では2回目の審査が始まっている。審査会に出ていて思うことは、1回目の審査結果と2回目の審査での結論に整合性を持たせるような力が働くことである。

1回目は暗中模索というか五里霧中の中で、意識したわけではないが、1次判定を押し上げるような力が働いた、と今は思える。理由として、ソフト自体が痴呆を評価していないことに関する不信感や、ADLに偏重された介護度の判定の出方に対して医療側の一人として、どうにも割り切れないものを持っていた。

従い、医師の意見書の中から要介護度を引上げてくれるものはないかと注意深く見る傾向があった。

そのことにより、福祉系の委員と判定委員会で対立することもままあった。福祉系は「一人暮らしで可哀想」だとか「歳だからしょうがない」という発言が多く、科学的な分析ではないと思えたが、結果はその他の分野の委員が間に入る形で決着した。それは、要介護度を押し上げる、つまり蹴り上げ現象と言われるものである。大岡裁きではないが、中間で手を打とうとする意識はどこかで働いていたのだろう。私の場合1症例にかけられる時間が5分前後しかなく、時間をかけて議論することが困難であるという背景もあった。

このような傾向は、審査委員長会議で出た資料と対比して見れば大差ないことが分かった。

つまり、蹴り上げ現象は全国的な傾向であった、ともいえるかと思う。

問題は、今後のことである。

介護保険法は今後も続くから2次判定も継続されて行く。その時、蹴り上げて決まった介護度とどのように整合性を持たせた2次判定を2回目以降の審査会で出せるかが問題だ。

1回目の審査で要介護度がWと判定された人が、2回目では要支援とか介護度Tと出てくる事だってありうる訳で、蹴り上げて、このような状態を作り出していたとすれば問題が起きてくるだろう。それは、介護保険そのものに対する不信感となる。

従い、2回目以降の審査会では出てきた1次判定に科学的な根拠に基づき挑まねばならないものと考える。

要介護Vの人が仮にTになったとしても、それは介護保険法が、その人に上手く機能してADLが改善されたのであり、闇雲に要介護Vに持って行くような事があってはならないと思う。

友人の母親が脳梗塞でつい最近倒れた。素早く対応したので命には影響しなかった。その後の家族の動きに注目していた。病状が落ち着くにつれ嫁は介護保険法の申請をした。

脳外科から退院した次の日に自宅に町から訪問調査員がきた。主治医の意見書も出されて、要介護度はVと判断された。町のケアマネと嫁が協力してケアプランを作る事となった。それから約4日間嫁は奮迅の動きを示した。まず、在宅を決めると、受けるサービスを確かめるために近隣の施設の殆どを見て回り、単価も検討した。細かく10円単位まで。

私はこの経緯を見ていて、「施設は量りに掛けられている。」と思った。諸兄はイカに感ずるか?(12/7)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE