現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第48号
介護は医療の原点
柴田病院 院長 柴田高志

いよいよ介護保険が施行された。新しい、はじめての制度なので、問題点はいくつかあるが、ただの高齢者の方々に精神的にも、金銭的にもできるだけ負担のかからない姿になってもらいたいものだ。また、医療介護サービスを提供する私達にももっと納得のいくものであってほしい。

しかし、この介護保険導入は、私達の医療サービスの質の転換のいいチャンスでもある。
私は昭和35年医師になったその日から、陸の孤島と呼ばれ、医療に乏しい人口8〜9000人の猟師町の地域へとびこんでいった。昼間は大学院で病理学の研究をし、夜間診療から始め、ゆりかごから墓場までの医療、保健、福祉の施設、システムをつくりたいと思い、それから20年間を費やした(病院、保育所、特別養護老人ホームをつくることができた)。昭和40年中頃からは、当時、高血圧、脳卒中が多かったため、保健婦、MSWを採用して、毎日部落単位の健診、健康教育、訪問活動など地域活動をつづけ、一方、すでにこの頃から脳卒中リハビリテーションを始めていた。現在いわれている生活リハの考え方をもって行っていた。一方、人生最後の仕上げのときとしての「死」の看取りも大きな役割であった。

そうした地域の医療福祉の経験をもとに20年余り前から医療と福祉は一体でなければならないと主張してきた。福祉とは「その人の日常生活の中の不自由さを支え、より安楽に幸せに日々過ごしていただくこと」、身体的、経済的、また精神的な悩み、苦しみが少しでも軽くなるようにお手伝いすることだと思っている。現在の柴田病院(昭和55年9月開業)では、福祉の考え方を基礎に、その上で医療を施すことを基本理念としている。

現在、入院患者の平均在院日数をみると、約790日(約2年間)である。このように長期入院の方々にとって病院は治療、訓練の場である以前に、病院はその人にとっては「生活の場」なのだ。そこで生きておられるのだ。時には人生の仕上げの場でもある。病院での日々の生活の中のいろいろな不満、不安、悲しみ、怒り、苦しみ等のマイナスの心理状態は、その方の自然治癒力を明らかに低下させる。感染症にもかかりやすくなり、病の治癒も遅れてくる。人間は「こころ」が「からだ」を支配している。「こころ」の状態が明るく、前向きで笑みをもって日々過ごすなら自然治癒力は高められ、病を(ガンですら)乗り越えることができる。「生きがい療法」を実践し、末期ガンでありながら4807メートルのモンブランの登頂に成功されたガン闘病者の姿から、多くのことを教えられた。魂(こころ)が肉体に想像もつかない大きな力を与えている。

このようなことを実践している中で「ケア(介護)」が看護の原点であり、「ケア」が医療の原点だと考えるようになった。

入院生活の中でマイナスの心理状態になられるのは医療者に問題があることが多い。しっかりした、心豊かなケアができていれば、マイナスの心理状態から解放され、明るい、前向きな、笑みのある、希望のある日々を過ごすことができ、自然治癒力を大きく高めることができるものと信じている。

医者が病を治すのではない。患者、闘病者の方自身の力で病にうちかっていくのだ。医療者はそのお手伝いをするにすぎない。自然治癒力を高めるサービス、環境をつくることが私達の大きな役割として意識しなければならない。

医療の中で看護、介護者の役割は大きなものであり、介護が医療の原点である。 (12/5)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE