こぼれ話
|
老人医療NEWS第51号 |
先日、テンセグリティの不思議に思いを馳せるチャンスを得た。発明者の一番弟子の梶川泰司先生と一献傾けながら、テンセグリティ構造と人体の本質的構造の関係を拝聴した。曰く、以下のような内容である。
テンセグリティ(tensegrity)とは、バックミンスター・フラー(1895〜1983)が作った造語で、張力(tensile)と完全無欠(integrity)の合成語である。実物を見ればすぐにわかるが、言葉で説明すると、30本の丸棒を正12面体の対称性に基づいて空間配置し、ちょうど一筆書きのように1本の細い糸で連続的に繋いだもので、それぞれの棒同士は全く接触していない。ところが、糸(張力部材)が全体をバランスよく引っ張り、個々の棒(圧縮部材)がその力を受け止めるようになっているため全体は統合されて極めて安定である。ボールのようにバウンドするが、すぐにもとの正12面対体に復元する。
冷戦下における「宇宙ステーションからの都市へ」の研究で、1963年NASAの「超軽量構造体―テンセグリティの開発」が行われた。その中で、テンセグリティ・ジオラック球構造が、最小限の建築資材で最高の建築物を可能とした。
この圧縮力と張力という相反する力の釣り合いによって構造が自己安定化する構築システムで、自然の形状や人工的な形状に形態や強度を与えるテンセグリティは、注目されてきている。ハーバード大学のD.E.イングバーによると(日経サイエンス22〜34頁1998年4月号)以下のように体のあらゆるレベルで適用されているという。大きなものでは、人体骨格がある。206個の骨がバラバラにならずに垂直に立って安定しているのは、筋肉や腱、靭帯による張力があるからで、これらの張力を圧縮力に耐える骨が受け止め、全体として複雑なテンセグリティ構造を作って身体を支えているという。細胞レベルでは、細胞骨格としてのマイクロフィラメント・中間径フィラメント・微小管という三種類の繊維がある。そのうち、張力性素材として、収縮性のマイクロフィラメントがクモの巣のように細胞内に網目を広げ、細胞膜と全ての細胞内構成部分を核の中心部分に向かって引っ張っている。圧縮性素材としては、微小管、互いに交差して繋がっているマイクロフィラメントが、梁の役割をする。中間フィラメントが微小管と収縮性マイクロフィラメントを相互に結び付け、それらを表面膜や核と結合させて、核を適切な位置に固定する働きをしている。このような働きの中で、細胞は上から押しつぶすと平たくなるけれど、押さえる力を解除するとほぼ球状に戻る事が可能となる。
引っ張る力と圧縮に耐える力の安定構造は、禅問答的になるが今後の社会構造に何らかのヒントを与えてくれないだろうか?最高の福祉医療サービス(引っ張る力)と経済的効率(圧縮に耐える力)なんかは面白いかな。報酬制度を適度に設けなければサービスは改善させられないであろうし、緊張感あるサービスがあれば、顧客・従業員とも満足感が高くなるであろう。無駄を無くし、最短距離で対応できるサービスシステムを構築することにより、最大限の力を出すことが可能であろう。そのためには、ツマラナイ御役所的手続きを解消しないとだめだと思う。
さて、耐震性が強く、軽量で(通常の10分の1)ドームに装着した太陽電池でエネルギー問題を解消し、十分な採光で園芸等も可能なドームができるらしい。それでも重量と容積の関係から、球形構造だと内部温度が外部より3度上昇するだけで、空中に浮かぶという。天候の良い所へ移動可能なコミュニティができる。そんなテンセグリティ・ドームを作るのはどうだろうか? (12/11)