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老人医療NEWS第49号 |
4月の診療報酬改定も介護保険制度施行からも4ヶ月を迎え、表面的にはおちつきを取りもどしている。総選挙後の組閣もすんだが、どうもスッキリしない。それは、医療保険制度改革のスケジュールがみえないことが原因である。
負担増は選挙にマイナスということで、与党は医療保険制度改革をあっさり見送ってしまったし、高齢者の介護保険料を6ヶ月間徴収しない方針を示した。これは、政治の世界の話であるが、高齢者医療現場は混乱した。確か、4月1日からは、医療も介護も一割の負担と厚生省は主張してきたし、「医療と介護の整合性に配慮する」という発言もあったように思う。
その結果、病院のことはともかく、訪問看護ステーションでは、変なことになっている。難病などの高齢者が医療保険の場合には、1日250円で、看護婦の交通費も請求できるが、介護保険になると、30分未満でも425円、1時間以上1時間半未満だと、1,198円になる。その他、地域加算、夜間、早朝訪問、24時間対応など、まったく整合性がない。
医療保険と介護保険は、まったく別の制度だとしても、ステーションも利用者も大混乱したことは確かな事実である。政治や行政の世界は、わからないことが多いが、現場の混乱を最小限にするという姿勢は、まったく感じられない。
同じような話だが、昨年来の介護保険制度の混乱は、実はおさまっていないのではないだろうか。たとえば、短期入所の利用に対する厚生省の対応をみるとわかる。短期入所は区分限度支給額内で6ヶ月以内の利用日数の上限があるのみであった。昨年末に、特養関係者から利用日数の拡大が求められると、訪問通所系から振り替えてもよいことになったが、それでも、短期入所の利用者が減少するのではないかといわれていた。実際、4月になってから、短期入所の利用者は、特養で70%、老健施設が40%程度減少した。あわてたのは、施設側だけではなく厚生省も対応せざるをえなくなった。どうなるかはこれからだが、訪問通所系を合わせて、利用者の居宅サービスの利用頻度は、それほど高くなく、何らかの対応をしないと、秋からの介護保険料の本格徴収にも問題をなげかけることになる。
問題は、厚生行政自体が、何か政治的圧力をかけられると右往左往しているように思えてならないことである。我々、医療を提供する側にある者は、制度改革に対応するために時間が必要であり、一度決定したことが、簡単に変更されると、大変困難な状況に陥ってしまうことさえある。
高齢者医療制度では、医療保険に残った療養型病床群等の定額医療のあり方と、定額にならない一般医療における高齢者医療の問題を整理する必要がある。どのような制度改革をするかという以前に、検討課題を示し、利用者や提供者の意見を集約する一層の努力が必要だと思う。なぜならば、選挙後はただちに医療費抑制に向かうというようなことになり、老人専門医療の質の経済的裏付けがあやふやになってしまうことを恐れるからである。
それとともに、高齢者医療制度は、まぎれもなく医療制度の一部である以上、医療全体の21世紀のあり方の中で、慎重に検討されるべきだと思う。少なくとも、薬剤使用方法や検査などには、何らかのガイドラインが必要であるとともに、療養環境にも一定以上の最適基準の設定が必要であろう。昭和50年代後半の医療費抑制策のように「安ければよい」という一方的な抑制ではなく、科学的で合理的な医療費の適正化と質の確保向上という原則を再認識すべきだろう。 (12/7)