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老人医療NEWS第48号

介護保険制度で老人専門医療はどう変わったのか

ゴールデン・ウィーク前後に介護保険に関する新聞報道が多数あった。施行1ヶ月ということで、いろいろなことが書かれていたが、いずれもデータ不足で、そうかな、という感じであった。

新聞各紙をならべて読むと、各社ともニュアンスに差がある。さすがに「介護保険悪玉」報道は少なくなったが、厚生省を悪者扱いした方が良いと考えている新聞は少なくない。しかし、読者の目にも、攻めあぐねているなあという印象が強い。特に、介護療養型医療施設の記事はまったくなく、病院がどう変化していくのかについて、秒進分歩の状況は理解しにくいのであろう。

当会員施設の介護保険制度への対応は、まちまちである。まったく介護保険の適用を受けないもの、半分は介護保険にしたもの、そして、ほとんど介護保険にしたもの、などに大別できる。

そのそれぞれが、何が問題であるかについて、十分分析が済んでおらず、当面は様子見の状態にあるといってもよい。考えてみるまでもなく、受け取る報酬に差が生じたとしても、行っている老人専門医療の内容を大幅に変更した病院は皆無である。病院にとってみれば、入院費用の請求方法と請求先が変わっただけである。

ただし、回復期リハビリテーション病棟への転換を意図している病院では、大きな変化がある。人員や構造基準への対応のみならず、患者層にも変化があるからにほかならないが、定額病棟から療養型、そして回復期という三段跳びは、そう簡単ではない。

今のところ表面的には大きな変化がない病院でも、いくつかの動きがある。第一は、通所リハビリテーションの需要が、かなりあるということである。厚生省は、訪問介護を中心としたサービスを中心に考えていたフシがあるが、利用者やその家族はデイケアに関心があるようで、どこの病院でも新規利用者の受け付けをしている。また、6時間以上のデイケアよりも4時間以上6時間の方が人気がある。

このことは、利用者の多くがサイフと要介護者の生活リズムを考えた結果であると思う。限られた支給限度額の中で、通所リハビリは割安のサービスである。入浴や食事に簡単なリハビリテーションを行っても1万円以下であり、利用者負担も1000円以下である。入浴介護と訪問看護を同日に受けることを考えれば、通所リハビリが有利である。また、朝から夕方までのサービスであり、その間家族は自由であることも人気のヒミツであろう。

第二に、僅かであるが、要介護度が高い新規利用者が増加しているようである。要介護度が低ければ、老健施設や特養という選択がまずなされる。療養型の一部負担が若干高いこともあって、病院でなければならない利用者が増加するのは、当然といえば当然である。

第三に、確実にリハビリテーションを希望する利用者が増加している。特養や老健施設と比較しても、病院のリハビリの方が濃度がある。ただし、リハビリテーションのスタッフや施設がない病院は、この限りではなく、いずれ競争に負けてしまうのかもしれない。

この3点から考えてみると、介護保険制度によって、老人専門病院や老人を専門とする診療所に対するニーズが顕在化しつつあるように思うのである。特養や老健施設の建設ラッシュ中で、選ばれる老人専門病院の条件が、明確になりつつあるとも考えられる。

介護サービスの供給量が増加すればするほど、顧客である利用者の選択肢が増えることになり、冷静に消費選択が進む。選ばれる老人専門病院であることが求められている。(12/7)

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE