老人医療NEWS第38号 |
老人の専門医療を考える会はよりよい老人医療を目指す病院長を主たるメンバーとして昭和58年より研究活動を開始し、一貫して老人医療の専門性を説いてきました。その間、定額制の導入についても関係各位に働き掛け、平成2年の入院医療管理料の創設にも大きく貢献しました。平成4年の介護力強化病院連絡協議会設立への前身として、入院医療管理料導入病院連絡会を組織し、介護力強化病院の果たすべき役割と団体活動の目的についても充分に話し合ってまいりました。
本会が主張してきた老人医療の専門性は、慢性期医療のみにあるのではなく、むしろ予防医療であるといえます。つまり、寝たきり症候群の予防、医原病(薬による副作用等)の予防、事故の予防、合併症の予防、混乱反応の予防等を行いつつ、心と身体の機能、社会的側面の機能を少しでもおとさないよう、病状を安定させていく全人的医療です。
したがって、老人医療は、急性期の初期医療から導入され、死に至るまでの一貫した継ぎ目のない医療として位置づけられなければなりません。高齢であればあるほど、身体上の問題だけに限らず、精神上、行動上、社会生活上の問題へと展開し、複雑に混合されて現れてきます。そのため、病状診断のみならず、その人全体、あるいは日常生活上の機能、能力面の評価が求められます。
これまでの医療は、治療的なマイナス面の評価に目を向けられがちでしたが、高齢者では、今ある能力、潜在能力などのプラス面の評価も重要になってまいります。なぜなら、老人医療では、『プラス面を活用して高齢者の満足度、幸福感を高めつつ、人生の終末をその人らしく過してもらう』といった、医療における心理的効果を重要視した対応が欠かせないからです。当然、そのような評価には医師とともに複数の専門家集団によるチームアプローチが必要となります。そして、このアプローチは早いほど効果があるのです。
老人医療の供給システムが慢性期医療のみに片よってはなりません。治療第一主義の弊害を受けた後に、老人医療がかかわることは、非効率というより悲惨といえるでしょう。
6月28日に開催された総会では、介護力強化病院連絡協議会との整合性についても検討され、本会は老人の専門医療をさらに探求し続ける医師の集団として活動を続けていく旨が決議されました。本会は今後も、老人医療の医師としての専門性を高めるために、医師ワークショップの開催、老人医療マニュアルの作成や、痴呆、リハビリテーションに関する研究事業などへの事業展開をはかるとともに、各種の研究報告を公表していきたいと思います。
本会の12年にわたる活動を鑑み、全会員の協力と団結のもとに、さらに新たな役割を担った団体として老人医療の確立を目指す所存です。
折りたたむ...プロダクト・アウトからマーケッティング・インへ
当院のある竹原市は、人口約3万4千の瀬戸内海に面した、農工漁業のバランスのとれた、気候も温和、人情も濃厚で静かな、歴史と文化の公園都市です。池田勇人元総理、池田行彦外務大臣父子、古くは頼山陽の出た所です。安芸の小京都、瀬戸内の公園都市とか、車で15分のところに広島空港が開設されてからは空と海のインタークロスシティーとも呼ばれています。
サブ医療園は当市と周辺4町の1市4町で構成され人口は約6万人です。市内には当院以外に1つの精神科の病院と2つの一般病院(各々42床)があります。
平成4年3月31日に、当時入院患者の地元依存率が35%であったのを憂い100床の一般病院として開院しました。地元依存率を30%アップするという大それた目標を持ったこともあり、100床の病院にしてはかなり重装備で、カラードプラー、トレッドミル、MRI、循環器撮影装置、手術用顕微鏡等を整備して、内科、消火器科、循環器科、外科、整形外科、脳神経外科、理学診療科を標榜しました。
開院後、脳神経外科や整形外科の急性期を脱した患者比率が48%であることから、病棟1単位48床を療養2群入院医療管理(T)にしました。これにより急性期と慢性期にはっきり別れた、いわば機能別病棟となり合理的で効率もよく利用者、職員ともに好評です。開院後の入院患者の地元依存率は約50%で、15%アップに過ぎず、規模による限界との認識から現在100床増床のために増築工事中です。ちなみに、平均在院日数は急性期病棟が21日、療養型病棟が101日で全国同規模病院の半分程度です。来月5月1日からは急性期病棟2単位110床、療養型病棟2単位90床に加えて開放型病床6床の計206床として再出発することになっています。
開院してまだ4年4ヶ月ですが、比較的うまくいっているのではないかと思っています。企業は人なりは職員がそれぞれ自分の病院なのだと実感することから始まると考えますが、『石の上にも3年』とはよく言ったものでこれには3年を要しました。48床を療養型に転換して後、看護婦と介護職員の関係がぎくしゃくしましたが、助手さん!と呼ぶのをやめてクリエイターさん(Life Creater)と呼ぶことにしました。同時にケアプラン作成のために毎日1時間病棟カンファレンスを持つようになってから、病院における独立した新しい機能を自他共に徐々に認めるようになり、他の部署からも療養型病棟に評価を得るようになりました。いわゆる寝たきりが24人おりますが褥創はひとつもありません。ある程度の責任と独立した仕事を与える事が人造りだと感じます。思えば開院依頼、基準看護の取得に始まり各種指定、認定に向かって職員一同休む暇なく行動した感がありますが、これが人造りの原動力であったかも知れません。
医師の卒後研修が義務化されそうですが、看護婦の実習も含めて療養型病棟の実習もICUと同様に必要と思います。
医療制度の変革は急速で、今後どのようになるのかと将来像を模索するのに懸命ですが、地域医療支援病院、介護力強化病院、単科の専門病院、小規模入院施設(療養型)、無床診療所が個々の特徴を活かしつつ『エゴ、対立、競争』から脱皮して『愛、調和、互恵』をベースに連携を強化した形でのサブ医療圏総合医療供給体制が浮かんでくるようになりました。医療施設も社会資本であるとの認識も市民権を得つつあり、待ちの医療から出かける医療へとか、医療はサービス業であるとか、プロダクト・アウトからマーケッティング・インへとの予想外の速さで圏民の中に浸透、融和してきており、医療側と受診側が共通の認識を持って理想的な医療像を追求していける環境になってきたと感じるのは私の誤りでしょうか?
世は本物だけを求める時代になった。医療制度の模索よりも、受診者側に立って真の医療の在り方を探求、実現することに情熱を傾注しようと心新たにしているところです。
折りたたむ...高齢者のニーズにグループ体制で対応
当院は富山市のほぼ中心に位置し、立山連峰を一望する国道41号線沿いにあります。
昭和61年に52床の特例許可病院として開設して以来、88床、123床と段階的に増床してまいりましたが、地域医療計画により、結局175床の建設物に対して123床の許可に終わっています。
平成元年に医療法人となり、平成4年に独立型老人保健施設シルバーケア栗山・100床を開設。しかし、老健開設時に病床を10床カットするよう指導があり、病院病床は113床となりました。
平成4年には老人性痴呆疾患治療病棟が98床の許可をいただきましたが、建設地の問題にて50床に計画変更の上、平成7年にコーデリアという名称で併設しました。
現在は老人病棟入院医療管理料Tで113床、老人性痴呆疾患治療病棟入院医療管理料で50床の病床数でありますが、本年5月より老人デイ・ケアを開設。医療法人社団城南会、医療法人社団信清、社会福祉法人富山城南会と協力体制をとり、富山県最大の医療・保健・福祉グループとしてあらゆる利用者のニーズに応えられるよう体制作りをすすめております。
また、昨年11月に7階建て、60戸の高齢者専用マンションもオープンしており、在宅で不安を持った高齢者が安心して利用できるよう、病院併設型としました。
さて、当院は今年の11月にて10周年を迎えることになりました。当医療法人では『その人らしさ、その人の意思、そしてその人の生活を大切に、可能な限り自立した生活を送っていただけるよう支援していきます』を運営理念と掲げており、実現に向けて職員一同、一丸となって利用者のサービス向上に向かってより努力して行きたいと思っております。
なお、本年6月に老人の専門医療を考える会の入会にあたり、全グループの病院、施設を役員の先生方に見学していただきました。その際、三医療法人のそれぞれでの天然温泉による入浴サービス、外観が西洋古城風の特養敬寿苑(内装は和風)、そして何より赤い絨毯を敷きつめた富山城南温泉病院にいたく感激していただきました。
先輩の諸先生方、もし富山においでになられる際には、こんな一風変わった私達グループに是非お立ちよりになっていただきたいと思います。
折りたたむ...私たち介護強化病院においても療養環境の改善が必要となってきています。昨年度、本院も療養型病床群に転換しましたが、その経過においていろいろな問題が起こりました。それらの問題を今後療養型に転換される時に少しでも参考にしていただければと思い、まとめてみました。
<療養型病床群への転換の経過>
1 療養型の必要性・総論的
ケアプランを導入していくにつれ、よりよいケアのためには個別対応が必要であることを再認識し、そのためには広さが必要なことを実感しました。特養10.2u、老健8.0uに対し、病院4.3uでは不十分であり、公的介護保険においては利用者が自由に施設を選択するという現実をふまえると、アメニティが要求され、療養型としての6.4uは必要と思われました。
アメニティの工事はJRの高架工事のようなものです。工事によって切符の売り上げは増えませんが、便利さを社会が要求するために必要が生じた工事といえるでしょう。
昔は家庭より病院の方が環境がよく快適な場所でしたが、世の中の進歩につれ、その位置づけが現在では逆転してしまっているのではないでしょうか。病院に入院する方が家より不便に感じることが多くなってきているように思われます。決して贅沢は必要ありませんがアメニティ、快適さは必要です。
そのことを前提にすると今までの4.3uの面積基準ではベット上しか休む場所がなく、ある意味では寝かせきりの一つの要素になっていたともいえるでしょう。6.4uの広さがあると、例えば4人部屋では真ん中にイスとテーブルを置いたり、畳を二畳くらい敷いたユーティリティースペースを確保でき、患者の環境改善が可能です。休む場所の選択枝も増えます。また職員側として、ケア(自立支援を伴った介護)を行うためにも必要な広さです。職員の働きやすさも忘れてはなりません。ケアをするのは職員なのですから。
しかし、広さは力ですが、逆に広すぎてもダメです。広すぎると患者のアメニティの向上より職員の労働条件悪化が浮き彫りとなります。
2 当院の工事内容
本院では前述のようにアメニティの向上を目指し、A.病棟工事、B.多目的ホール工事、C.入浴設備の充実、D.玄関まわりの工事を行いました。
<改造工事で検討した問題>
<工事後の問題・効果>
<改造後の反省点(今回工事できなかった点、失敗点)>
<療養型病床群を目指す施設で考慮すべきこと>
<まとめ>
療養型病床群に限らず、基準の4.3uでは現在においては充分な療養・治療環境とは言えないでしょう。最低6.4u、できれば大部屋で8〜9u、個室で14uぐらいの面積は必要ではないでしょうか。しかし、広すぎるのも問題です。職員の労働環境も考慮する必要がありますので、アメニティの向上として必要な範囲で充分でしょう。
療養型病床群の制度を採用する場合はハードとしての改造以上にソフト内容の改良が要求されます。医師、看護婦の必要数が一般病棟と異なる上に、介護職員の導入という大きな問題があります。介護職員は決して家政婦、看護助手ではありません。そのことを経営側、職員側ともに正しく理解する必要があります。介護職はケアのスペシャリストであり、そのように育てなければなりません。実際、職員数でも介護職員が一番多くなります。
療養型病床群、老人保健施設、特別養護老人ホームは介護保険適応施設となりますが、介護保険制度において選択権は利用者側にあり、ハードの充実、ケアの質が選択基準となりうるでしょう。そのためにも適切なアメニティ、空間と、よりいっそうケアの質を高めてゆく努力が求められます。そして医療の質の担保のため、急性期にも対応できるよう、ケアミックスや、急性病院との緊密な連携などのシステムを用意しておくことが必要です。介護力強化病院連絡協議会では、5年以内に療養型病床群への転換を機関決定し公表しています。厚生省の見解でも療養型への移行は、必要不可欠なことであると思われます。まとまりのない文章となってしまいましたが、少しでも参考にしていただければ幸いと存じます。
折りたたむ...どこの介護力強化病院においても、半昏睡状態や気管切開を受けた患者さんなどで、かなり手厚いケア、呼吸管理、栄養管理等を必要とする患者さんが入院されていると思います。こういう特別なケースにおいても定額のみで、特にその労力に対し加算はないように思っていましたが、なんと一定条件を満たせば加算があることに気づきました。それは基本診療科の項にある「超重症児(者)入院診療料」です。詳しくは社会保険研究所刊の“医療点数表の解釈−平成8年4月版−”の106ページをご覧いただければ載っていますが、1.運動機能が座位までで、2.810ページにある介護スコアの合計点数が25点以上の状態が3.6ヶ月以上持続した場合に請求できます。
調べてみるとこの点数は前回の6年の改定から設けられたのですが、小児の項目に載っていたためにこれまで気が付きませんでした。
対象者はかなり限定されますが、1日につき200点と結構大きな点数です。おそらく貴院に入院されている重症の患者さんの数人が対象になられると思います。
注釈を読めば、付き添いがつかない病院ならば請求可能と思われますが、一般病院や療養型病床群は対象になるが特例許可老人病棟は対象とならない、とする場合があるようですので、各都道府県でお確かめ下さい。
折りたたむ...6月28日、ストラーダ新宿(東京)において平成8年度総会が開催され、平成7年度事業ならびに会計報告、平成8年度事業計画ならびに予算案が承認されました。
平成7年度事業では、4回におよぶ医師ワークショップを開催し、各回ごとにテーマを決め、老人医療の専門性についての議論が交わされました。また、海外研修の実施、老人病院機能評価マニュアルの検討や、リハビリテーション、MSW部会の活動も活発に行われました。さらに研究事業として、今後の高齢者医療のあり方に関する検討委員会を組織し、『高齢者ケアの育成策に関する研究』報告書をまとめました。
平成8年度事業は、本会は医師団体としての活動に今後集約していくため、共催事業であったリハビリテーション、MSW部会は介護力強化病院連絡協議会で活動することとし、医師ワークショップの開催、老人医療マニュアルの作成、痴呆やリハビリに関する研究事業などへの事業展開を図っていくこととなりました。さらに、今後の活動の拡大により、平成9年度より年会費を36万円とすることが承認されました。
また、役員として、新たに日野頌三先生が本会監事に就任されましたので、あわせてご報告申し上げます。
折りたたむ...大蔵省の財政制度審議会は、7月10日、国債残高約221兆円、各種特別会計に組み込まれている「隠れ借金」139兆円、地方債残高136兆円を加えると、国・地方の借金の合計が、実に442兆円にもなることを公表した。
国内総生産が496兆円であることから、このままでは国内総生産を越える借金を抱え込むことになると予想されている。
厚生省は、平成9年度の政府管掌健康保険の赤字額を最小5400億から最大7800億円を公表し、現在8.2%の保険料率を最高9.3%にするか、それとも大幅な給付率の低下をしない限り、健保制度を維持できないと公表した。
バブル崩壊の爪あとは、ついに医療保険財源に波及し、国債の発行も保険料の引き上げも、現実的に難しく、強力な医療費抑制も限界にきているという状況となりつつある。
消費税の大幅引き上げか、それとも医療費をはじめとする社会保障給付全体の削減かという選択を国民に迫ることになった。
不思議なことに、医療機関への診療報酬の引き下げなどとはいわずに、老人や被用者保険の負担増や薬剤負担の強化などが課題となっている。老人専門病院にとって、これは喜ぶべきかどうかは別にして、何やら不気味に思える。
深く考えてみると、なにもかも金がたりないが、医療機関をいじめるのでなく、国民に負担をお願いするというスタンスが読み取れるが、これは、介護保険や医療保険制度改革を段階的に今後進めるため、取りあえず、正直に国民に負担増をお願いしようというスタンスであると思える。
しかし、このように楽観的に考えでよいかは別の問題である。なぜならば、医療費抑制は織り込み済みで、あまり効果的でない抑制策より、給付の低下と負担増の双方を国民に強いていると考えるべきであろう。
老人医療費については、療養環境の改善をはじめとする医療サービスの質の向上が求められており、その抑制策は、結局、薬漬け、検査漬けの解消のための包括化点数化ということになりそうである。
入院医療管理料は、ひさびさのヒットであったが、在宅総合診療科や外来総合診療科などの包括点数については、若干伸び悩みの状態にある。在総診については、診療所の理解不足か、それとも在宅医療を診療所で進めるという方針に問題があると考えざるをえない。
外総診については、険外処方をしていない病院では、定数設定が低く、包括化に協力したくとも、大幅な収益減となってしまう。
本会が包括化を積極的に評価しているのは、確かに薬や検査の使用量が減少することにある。しかし、老人の専門医療にとって、包括化点数の方が、適切な医療の質が確保できるからである。
しかし、包括化点数については、医療界全体の賛同があるわけではない。それを採用した医療機関は、少なくとも高く評価しているにもかかわらず「重症患者を追い出しているのではないか」「粗診粗療でないか」「もうけすぎではないか」といった批判は収まってはいない。
でも、こと老人医療について、これまでの出来高払いが必要であるという根拠にはならない。薬や検査を看護・介護・リハビリテーションおよび生活上の配慮に向けることは、老人専門医療のチームアプローチに不可欠である。
医療費の財源問題が大きくクローズアップされている今日、どのように考えても包括化を一層進めることが老人の専門医療を確立する近道であることを、疑う余地がないことを再確認する必要がある。
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