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老人医療NEWS第106号

報酬改定の前提がおかしい

 診療報酬改定議論の渦中で、次のような指摘がなされた。
「医療療養病床における入院患者の重症化傾向等を考慮して人員配置の要件を見直すとともに、医療経済実態調査の結果等を踏まえて療養病棟入院基本料の適正化を行う」。
医療療養病床で重症化傾向があり人員を多く配置している病棟は評価するが、それ以外は引き下げるかもしれない。なにしろ医療経済実態調査をみれば、医療療養は相対的に経営が良さそうなので、全体的に引き下げの方向で考えている。このように読むのであろう。
何をいわれているのか、意味不明な文章が多いのが、官僚の文章なのではあるが、その根拠が示されていないのは、はなはだ不親切である。
そこで、平成二十一年六月に実施された中医協の第一七回医療経済実態調査の報告を見直してみた。該当しそうな結果は「療養病床六〇%以上の一般病院(集計2)一〇九ページと次の「療養病床を有しない一般病院」というページであろう。
国公立病院を除く一般病院のうち療養病床六〇%以上の病院の二一年六月の損益差額は三・七%で、二年前の一九年六月は、四・七%であった。つまり、この二年間で主に医療法人立療養病床を有する病院の経営状態は悪化したといえるのである。
施設数一九五病院で平均病床数は一四一床、六月の医療と介護収益の合計は、九四三六万円で、損益差額は三五〇万円である。心配なのは、減価償却費が〇・五%、設備関係費が〇・三%減となっていることである。建物や医療機器への投資を減らし、設備関係費を節約した結果であり、経営状態が良いとはいえない。これまでの調査でも、民間医療法人の損益差額がここまで圧縮されたのは、昭和四十八年のオイル・ショックや平成二年の危機的状況以来なのではないかと思う。
もっとはっきりいえば、医療法人の損益差額が三%台だとすれば、そこから税金が差し引かれるので、税引後の総損益差額は、ほんの少ししか残らず、金融機関から融資を受けたくても、難色が示されるのが当たり前の状態だ。
それはそうとして、療養病床を有しない一般の医療法人病院は、施設数一四五病院で平均病床数は一一五床、六月の医療収益は、一憶七五七四万、損益差額は一三万五千円で、医療収益対比で僅か〇・一%である。おどろくことに、税引後の総損益差額はマイナス一・三%という、さんたんたる結果である。
これでおわかりのように、報酬改定議論で主張されたことは、医療法人の経営状態は良くはない。しかし、療養病床を有しない一般病院より、療養病床六〇%以上の一般病院の方が損益差額が三・六%高い。この結果を踏まえて、療養病棟入院基本料を引き下げるというものであろう。
本当に理解できないことが起こっているように思う。療養病床六〇%以上の民間病院の診療報酬を引き下げれば、損益差額も引き下がるはずである。一方、療養病床を有しない医療法人の一般病院は、診療報酬を三%引き上げても、一九年六月の状況にはならないのである。
冷静に考えなくてはならないのは、療養病床を有しない医療法人の経営が危機的状態であり、療養病床を有する医療法人の病院は、なんとか生き残っているという事実の確認ではないのであろうか。
診療報酬が高い方がいいとか、もっと引き上げるべきであるという議論より、中医協が自ら行った医療経済実態調査の結果を正確に吟味することなく、相対的に一%でも高ければ引き下げるなどという感情論が横行することに恐怖を感じる。医療費をただただ抑制するよりも、医療や介護を経済成長戦略に組み入れることが大切だと主張したい。
 

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