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老人医療NEWS第105号

政権交代は政策後退か

政権交代した。この先、何がどうなるのか良くわからないが、厚労省の官僚は沈黙したままた。これまでの医療政策の展開は、すさまじいものであり、毎年のように制度変更が実施され、ついて行くだけでも大変であった。
診療報酬も介護報酬も引き下げられ、毎年二千二百億円医療費の伸びを抑制し、一方では医療供給体制を大変革しようとしたことは、なんとなく理解できたが、なぜそうしなければならないのかについて論理的根拠があったわけでもないし、政治的な選択だったとしかいえない。後期高齢者医療制度についても、同じことで、国家財政の再建とか、健康保険組合が負担できなくなったとか、国民健康保険財政が成り立たなくなったといわれていたが、民主党が「老人保健制度にもどす」といえば、もどれるものなのかどうか判断できない。
鳩山政権は、連立内閣であるものの、民主党のマニフェストをなにがなんでも実施するとの姿勢をくずさない。医療について、医師数を一・五倍にするとか、インフルエンザ対策とか書いてあるが「老人保健制度にもどす、療養病床の削減はしない」といった明確なメッセージは、あまりない。
問題は後期高齢者医療制度にあることは明らかで、七十五歳以上の人々が、現状に満足しているわけでないものの、民主党が見直すといっているのだから、いずれそうなるのであろうと思っているにすぎない。ただ、世論は、この名称にどちらかというと反対で、福田元総理と舛添前厚労大臣が「長寿医療制度」と名称変更したものの、なんの解決にもならなかった。この先時間をかけて制度の見直しを進めるべきである。
民主党のマニフェストをはじめ、医療あるいは介護政策に関する考え方を示した文書を読む限り、具体性がないように思う。それは、これから考えるといわれれば、そうなのかもしれないが、大病院、公立病院における、救急、外科、産婦人科、小児科等は充実するが、開業医は敵であること、老人医療政策について「老健法にもどす」以外のことでは、政策らしい政策がないようだ。
われわれが不安になるのは、政権交代はしたものの、政策が後退してしまい、マニフェストに書いたことだけに多額の公費を投入し、あとのことは来年の参院選後にしてしまおうとしているのではないか、ということである。
われわれが知りたいのは、来年の診療報酬の方針、二年半後の介護・医療同時改定の方向性、医療法改正のゆくえ、そして、医師法、保助看法をはじめとする医療従事者の業務分担の見直しはどうなるのかといったことである。もちろん、介護療養型医療施設はどのようにするのか、療養病床はどの程度必要なのか、そして高齢者を中心とする慢性期医療はどうするつもりかについての、明確な政治の意思決定を知りたいのだ。
小泉政権時代の社会保障給付の抑制策は、短期的に成功したようにみえたが、医療崩壊をはじめ無理な政策展開のひずみを生じてしまった。結果として国民に大きなつけを残しただけであった。いくら政策を立案したとしても、市場や経済が解決する事項と、政治が解決できることは同一ではなく、いくら政治判断しても、市場が対応しなければ、何も変えることはできない。
多くの高齢者が介護と同時に医療を必要としている現状において、マニフェストだけで改革しようとすれば、また新たなひずみを生むだけである。きちんと当事者である高齢者の声を聴き、現場の医療従事者と話し合い、その上で政策立案して欲しい。
沈黙の厚労省官僚がどのように考えているのか知らないが、政策後退局面で無策だとすれば、おそろしい。
   *へ ん し ゅ う 後 記*
頑張っている現場をみると明るくなる。スタッフが丁寧にケアし、老人にあふれる笑顔は人の本来の姿を見せてくれる。こんな素晴らしい職場をもっと多くの人に知ってほしい。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE