現場からの発言〈正論・異論〉 
老人医療NEWS第104号

地域医療連携の本質を問う!

長崎リハビリテーション病院 院長 栗原正紀

二〇〇八年四月より大腿骨頚部骨折に加え、脳卒中も地域連携パスが診療報酬上で評価されるようになった。ちょうど時を同じくして、都道府県毎に四疾病五事業の一つとして脳卒中診療のシステム作りが論議されていたこともあり、主に都市部を中心に一挙に連携の嵐が吹き荒れたようである。
  いろんなエピソードを耳にした。例えば、複数の急性期病院からプロポーズされた回復期リハビリ病棟を有する某病院は整形外科との会合に加え、急性期病院の数だけこなさざるを得なくなった年三回の会合に目を回してしまい途方にくれてしまったとのこと。「経済誘導の成せることか」、ただただかかわるスタッフが気の毒でならない。
  また他にも、脳神経外科医の呼び掛けで開かれた連携の会に対抗して神経内科医が別の会を立ち上げたり、あるいは大学病院の某教授がリーダーシップを取るために突然、既存の会に横槍を入れ、現場に混乱をもたらしたなどとも聞く。旧態依然とした縄張り・権威意識、一体「誰のための、何のための地域連携か?」全く本質を考えようとしないこのような動きには地域医療の崩壊の一因を垣間みる思いがする。
  いずれにしても現在、全国で運営されている連携パスを私なりに大別すると@クリニカルパス型(クリニカルパスを熱心に運営している急性期病院が主導し、急性期と回復期を全体としてクリニカルパス様に仕立て効率化および診療の標準化を図っていこうとするもの)とA連携重視型(連携において重要な情報交換のツールを地域全体で共有化し、密な連携を図る)が存在するようである。どちらも急性期・回復期から多くの専門職(地域によっては維持期からも)が一堂に会する場の設定が実現し、互いに顔の見える関係作りが構築されつつあることは非常に望ましいことである。今回の診療報酬上の評価で唯一良かったことと言えるのではないだろうか。
  実を言えば私は、この連携パスという経済誘導は、地域で必死に頑張っている多くの医療人の思いを無視した厚労省の「愚策」と考えている。本来、地域医療連携は明確な機能分化の必然の結果としてあらわれてくることである。重要なことは如何にして医療機能の分化を多職種のチーム医療で成立させていくかである。大学病院や公的病院など、いわゆる急性期医療を担う医療機関に勤務するセラピスト(PT・OT・ST)の数たるや僅かであり、また勤務するソーシャルワーカーなどは単に転院係りになっているのが実情である。マンパワーの充実を図り、多職種によるチーム医療が展開されてこそ、質の高い医療サービスが提供される。 急性期病院で高度に進歩した臓器別専門治療が多職種によるチームによって効率よく提供され、そしてその後、亜急性期医療を担う回復期リハビリ病棟・病院で集中的にリハビリサービスが提供されることで安心した地域生活へ繋げていくという医療提供体制の構築が重要である。このような体制が構築されれば、地域医療連携も、平均在院日数の短縮化も、また質の高い医療サービスの提供も必然的に解決されるものと信じる。新政権が地域医療を「住民の安心した地域生活を支えていく労働集約型地場産業」と捉え、地域医療の再構築を目指すことを期待する。

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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE