現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第102号

顧客(患者)を選別して成立するサービス業

南小樽病院 病院長 矢野諭

『医療はサービス業である。サービス提供側の都合で、顧客である患者を「選別すること」や「長期間待たせること」はサービス業の理念に大きく反する』

これに異論はあるだろうか。次の文面をご覧いただきたい。

 『(前文略)入院判定会議の結果、以下の事由により、当院での受け入れは難しい状況であると判断されました。現在の患者様の医療区分は一相当、要介護度は三です。(中略)せっかくご紹介をいただいたにもかかわらす、ご希望に沿えず、誠に申し訳ございませんが、ご了承のほどお願い申し上げます。(以下略)』

紹介医にあてた文面の抜粋である。作成したのは筆者であるが、毎回多くの懸念が頭をよぎる。当院への入院希望を「断られた」患者側も紹介医も、納得してくれたであろうか。患者や家族に、『医療区分とは何ですか。なぜ区分一なら入院できないのですか』と問われて、紹介医は、十分な説明ができるだろうか。「入院判定」と称して、患者(顧客)と一度も会わずに、文書の情報だけで「選別する」ことが、適切な対応といえるのか。それどころか、傲岸不遜な態度ではないだろうか。

 「医療区分」の内容には、確かに現場との乖離が存在する。だが、医療区分は逆に、「社会的入院」を「お断りしたい」患者に対して、説得力を持つツールともなり得る。当院では三年前から、医療療養病棟の入院判定基準を対外的に明確化し、「医療区分三と二のみ」に「徹底」させた。「徹底」とは、ある意味非情なまでに「例外を作らない」ことである。

その結果、区分三と二の比率は常時ほぼ一〇〇%となり公平性も保たれた。判定基準が十分に浸透し、急性期病院からの区分一相当患者の紹介が激減した。他院のMSWが主治医に囁くのだろうか。「先生、区分一ですから南小樽は無理ですよ」と。

当院は、介護療養病床八十三床の医療療養と回復期リハへの転換を決定し、介護療養病床への新規受け入れも、「医療区分三と二のみに限定」することにした。医療区分は、患者にとって「錦の御旗」ではない。入院中の区分一の患者への、十分な説明を行い、納得していただいた形で、老健や在宅系への退院を促進することは病院の責務である。

次に入院受け入れ決定患者の主治医への文面を紹介する。

 『(前文略)患者様の医療区分は三相当ですので、医療療養病棟への入院を予定します。(中略)現在のところ、転院まで約四か月(根拠のある数字ではない)を要する見込みです。待機期間が長く、大変ご迷惑をおかけいたしますが、可及的早期の受け入れが可能となりますように、努力して参ります。(以下略)』

 特に入院待機期間が長かった患者に対しては、お詫びの気持ちと共に、『長く待った甲斐がありました』と言って頂けるような診療を行う、動機付けが生まれる。

 「入院の断わり」「長期の待機期間」「退院促進」は、通常のサービス業の視点からは、容易に受け容れ難い対応である。いずれにおいても、患者側が納得する説明と対応を行う義務がある。

  医療は、他の「社会的サービス資源」を、有効かつ効率的に活用するための、積極的な援助をすることにより、「顧客を選別するサービス業」として成立できる。その基盤には、より多くの顧客満足を実現できる、良質な慢性期医療の提供がある。
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