現場からの発言〈正論・異論〉
老人医療NEWS第101号

高齢者とそのご家族を支える介護職
介護職とその家族を支える給与?

北中城若松病院 理事長 涌波淳子

「う〜ん」次年度の予算案を前に、悩んでいる。厚労省が打ち出した「介護職員に二万円の給与アップができる改定」に期待をかけていたが、私以上に期待していた介護職員にはどう伝えようか。厚労省の試算の半分の一万円ぐらい上げられるかなと取らぬ狸の皮算用をしていたが、実際に試算してみると、予定の半分も上げられない。それどころか、人件費率は、六十三%を超えている。  

職員一人当たりの給与がずば抜けて高いわけではない。理事長の給与も医師の給与も平均的、いわゆる名誉職という人もいない。確かに職員数は、法定定数を超えている。しかし、それ以上に影響を与えているのは、「定期昇給」と収入の伸びのアンバランスである。「定期昇給額」の見直しをしても人件費は、毎年一千万上がっている。一方、ここ何年かのマイナス改定の中で、毎年、収入を一千万上げ続ける事は容易ではなかった。

急性期病院の平均在院日数短縮化に伴う療養病床の入院患者さんの重度化に対して、職員数を増やしてきた。回復期リハ病棟や特殊疾患病棟をたちあげたり、居宅支援事業所の特定事業所加算を取得し、社会のニーズに応じた事業所づくり、それに対応した施設基準の見直しを行い収入増を図った。また、病病連携、病診連携を強化し、病院も老健も利用率は、九十八%まで上げることができた。しかし、もはや収入増の道は限界に近くなっている。

一方、重度化への対応に加え、介護職の力も発揮してもらい、ターミナルの方の自宅への外出、外泊支援を行うようになった。重度の意識障害の方であっても端座位訓練を行ったり、急性期でバリバリの抑制をされていた認知症の方の身体拘束をはずす努力もしている。また、労務管理の視点では、育児休業はほぼ一〇〇%取得、年休取得率も七〇%、一ヶ月平均残業時間は、七時間と労働省の期待する管理はできていると思う。退職金制度も見直し、人事考課制度も導入した。職員の誇れる仕事と職場環境、そしてそれに見合った給与を出したいと思っているが、現状は本当に厳しい。小さな単立の事業所はもっと厳しいと想像する。

先日のテレビ番組で、介護職を離れた男性が「家族を支えられない。仕事の責任の重さに比較して給与が合わない」と言っていた。「厚生省」と「労働省」が一体化した「厚労省」において、「命の現場」にいる職員の給与や人生設計をどのように考えているのか。国民が、年をとっても障害を負っても安心して暮らせる医療・介護体系をどのように考えているのか。確かに、私自身の経営力に甘さがあるのかもしれないが、現場を見たら、もっと人を増やして細やかなケアをしたいと思うし、職員の給与を見たら、もっと給与を上げたいと思う。職員が幸せでなければ、命を取り扱い人生の終末期を豊かにすごしてもらうケアはできない。どこまでが、適正な医療なのか、どこまでが適正なケアなのか、そして、どこまでが適正な給与なのか。

今回の介護報酬改定は、不十分とはいえ介護職の待遇改善に踏み込み、プラス改定になった事は画期的なことだ。次回の診療報酬改定においても、評価される事を期待したい。また、現場においては、せっかく与えられたチャンスを大切にし、介護福祉士がその本領を発揮し、国民からも「さすが介護のプロは違う」と評価してもらえるような仕事をしたい。(21/3)

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