総合司会 山上 久
老人の専門医療を考える会 副会長
13:30 | 開会挨拶 平井基陽 老人の専門医療を考える会会長 | |
13:40 | 特別講演「老人病院にリハビリテーションの風を」 浜村明徳 小倉リハビリテーション病院院長 |
講演資料(PDF:53.6MB) |
14:20 | 基調講演T「在宅を支えるリハビリテーション」 伊藤隆夫 初台リハビリテーション病院リハ・ケア部長 |
講演資料(PDF:268KB) |
14:40 | 基調講演U「クリニックから老人病院に期待すること」 土田昌一 在宅リハビリテーションセンター成城センター長 |
講演資料(PDF:228KB) |
15:00 | 基調講演V「認知症に対するリハビリテーション」 平井基陽 秋津鴻池病院理事長 |
講演資料(PDF:165KB) |
15:30 | シンポジウム〜老人病院にリハビリテーションの風を〜 シンポジスト:浜村明徳、伊藤隆夫、土田昌一、平井基陽 座長:齊藤正身 霞ケ関南病院理事長 |
講演資料(PDF:92.1MB) |
17:00 | 終 了 | |
開会挨拶 平井基陽 老人の専門医療を考える会会長 | ||
山上 | 「老人の専門医療を考える会 第28回全国シンポジウム」を開催さていただきます。私は、総合司会担当、老人の専門医療を考える会副会長の山上でございます。よろしくお願いいたします。 老人の専門医療を考える会のシンポジウムとして今回初めてリハビリテーションをテーマに開催することになりました。皆さんに老人医療におけるリハビリの位置付けというものをご討議いただき、皆さんのリハビリに対する見識を高めていただくためにも、「どうする老人医療 これからの老人病院(Part28)老人病院にリハビリテーションの風を」というテーマで行わせていただきます。 会の流れといたしましては、お手元のプログラムを見ていただきますと、まず老人の専門医療を考える会会長平井先生のご挨拶のあと、浜村先生の特別講演となります。そのあと伊藤先生、土田先生、そして平井先生から基調講演をいただきます。15時20分から休憩をはさみまして、お話しをいただきました4人の先生方にご登壇いただき、齊藤正身先生に座長をお願いする形で進めさせていただきます。それでは開会挨拶を老人の専門医療を考える会会長の平井基陽先生、よろしくお願いいたします。 |
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平井 | 皆様こんにちは。老人の専門医療を考える会の会長をおおせつかっております平井でございます。今日は年度末の土曜日、そして久々の天気のいいところをお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。 われわれの老人の専門医療を考える会というのは、昭和58年に結成され今年で23年目でございますが、シンポジウムの回数は28回目でございます。これは年間複数回行ったこともございまして、いつもメインのテーマは、「どうする老人医療 これからの老人病院」とさせていただいております。今年はまさにこのテーマの節目の時期に当たっております。現在、55名という非常に少ない会員数でございますが、本日は、われわれが結成当初から目指している老人の専門医療というものはどのようなものかということを一般の市民の方々に公開し様々な貴重なご意見をいただいて、それをまたフィードバックしてわれわれが活動をしていくというような場になればと思っております。 本日は老人病院をご利用される立場の方もご参加いただいておりますが、われわれの仲間といいますか、医療関係者も非常に多く参加されていると思います。昨年末に、老人医療を実践する場としての療養病床の再編が打ち出されましたが、おそらくベッド数が減らされていく流れになっていくのだろうと思います。国会の審議で、療養病床に必要でない部分があったといわれているようですが、われわれ老人の専門医療を考える会といたしましては、この療養病床の単純な平均在院日数の短縮、あるいは在宅の重視というような名のもとに、療養病床が減るということに対しては反対の立場でございます。しかし再編ということですので、何とかこれを機会に、老人の医療・ケアあるいは福祉も含めて、どうあるべきかということを追い求めていきたいと思っております。 本日は「老人病院にリハビリテーションの風を」というテーマで、リハビリを中心にシンポジウムを組ませていただきました。シンポジストはそれぞれリハビリの世界では第一人者の方々です。このようなリハビリの専門家のお話は何度もお聞きになった方も多いかもしれません。しかし、私がぜひご紹介したいのは、高齢者医療に関してです。座長を務めていただく齊藤先生はもちろん、それぞれ老人医療ということをベースに、リハビリを考えて発展・普及させていらっしゃる先生方でございます。今日のシンポジストは、すべてこの老人の専門医療を考える会の会員、ないしは会員病院の方でございます。そういった意味で、その老人医療を熟知し、老人医療のあるべき姿を頭に置きながら、リハビリについて分かりやすくお話しいただけるのではないかと思っております。 土曜日の午後を使って皆様方にご参加いただいておりますので、どうぞ有意義な時間をお過ごしいただけたらと思います。ご清聴のほどよろしくお願いいたします。 |
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山上 | ありがとうございました。本日ご講演いただきます先生方のご略歴につきましては、2ページに掲載しておりますので、ご紹介は略させていただきます。 それでは、特別講演といたしまして小倉リハビリテーション病院の院長でいらっしゃる浜村明徳先生です。日本リハビリテーション病院・施設協会会長であり、全国老人保健施設協会のリハビリ担当でもいらっしゃるので、いろいろな話をしていただけると思います。演題はこのシンポジウムの主題でもあります「老人病院にビリテーションの風を」という題でお願いしております。先生よろしくお願いいたします。 |
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特別講演「老人病院にリハビリテーションの風を」 浜村明徳(小倉リハビリテーション病院・院長) | ||
浜村でございます。久しぶりにこの会でお話をさせていただける機会を得ました。今日は、先ほどからございましたように「リハビリテーションの風」ということでございますが、この20数年間、日本の老人医療をリードされてこられた老人の専門医療を考える会でございますので、話題の診療報酬・介護報酬のことは少なめにいたしまして、これからの老人医療の中のリハを少しでも方向付けできるヒントになればという思いでおります。 まず、これから風が吹くのかどうかということなのですが、考えてみますと、今までも吹いていたような気がいたしまして、問題はそれをどうとらえていたのかということがポイントになると思えるところがございます。今回の介護報酬・診療報酬を見ましても、これから追い風が吹くというのはどうも考えにくい状態のような気が個人的にはいたしまして、吹いてもそよ風ぐらいかなと思っております。場合によってはむしろ逆風であるかもしれません。しかし、少しの風でも、逆風でも、われわれは向かっていかなければいけない。そこには高齢者で障害をお持ちで、一生を過ごさなければいけない方がおられるのだというところに、当会の一つの大きな意義があるのではないかと思います。 昭和53年、私は国立病院におりましたので、そのころの写真が右下のスライドでございます。寝癖の写真ばかりですが、老人病院におけるリハというものは、当時の状況としては、このような生活をしながら、ただ機能回復訓練をしていただくというような、そのようなものではなかったか、本当にそれで高齢者のリハと言えるのだろうか、高齢者の生活をあまり見ていないのではないかということをこの寝癖の写真で言いたくて、随分ご批判もいただきましたが、私もしつこいものですからずっと出し続けて、今でも使っております。小山秀夫先生からは「寝癖の浜村」といつも言われていた時代がございます。 高齢者の生活を受け止めるようなリハを考えていきますと、生活の拠点は多くの方が家庭・地域にあるわけで、当然、地域に根ざす医療・リハが求められます。私としては地域リハが専門で、随分出張致しましたが、この20年間で制度も含めてかなり変わりつつあるようには思います。しかし、本当に高齢者医療の中でこの生活をきちんととらえきるリハ、あるいは地域に根ざすリハというものが実践できているかどうかということについては、まだ課題が多いように思っております。 そこで、これからを考えるときに、外国のことを言っても何だとは思うのですが、なかなかネタがないものですから、三つのことを紹介させていただきたいと思っています。これからのリハというものは、やはり住み慣れたところで暮らすことを前提にして、その中で何をすべきかが問題となります。場合によっては、もちろん施設の中でずっと暮らしていくということもあるわけですが、日本語としては「暮らす」という言葉が一番フィットするように思うのです。暮らすことを支えるようなリハということを、もう一回、考えてみようというように思っております。 最近、ヨーロッパでは、「コミュニティーケアという考え方はどうも少し古いぞ」と言われております。障害のある人が望むケアやサービスを提供してもらうという、何か受身的なニュアンスが英語にはあり、これはもう概念的には少し古くなったということで、「コミュニティーケア」から「コミュニティーリビング」というようなキーワードに変わりつつあることは、これからのいわゆるコミュニティーケアのあり方を語っているようです。そのような考え方を私どもも理解しながら進まなければならないと思います。 また、最近のイギリスでの変化についてですが、サッチャー首相からブレア首相に替わったくらいから、ヘルスサービスと社会サービス、医療・保健・福祉を統合していこうとする動きがあります。これは日本でも同じことなのですが、その背景は、ご存じのようにいわゆるGP、家庭医がどうしてもうまく機能していないということがあります。要するに、プライマリーケアとセカンダリーのところでいろいろ問題があるということです。一つは、入院治療の待ち時間が非常に長くて、何か月も待たされること。それから、不適切な入院。これは、日本語で訳すと「不適切な」といわれるような入院があることが理由のようです。「中間ケア」という言葉を使っておりますが、これはあとで見ていただくと、かなり今回の日本の診療報酬・介護報酬の中で出てきた内容、あるいは制度改革の中で出てきている内容に近いものがあるように感じます。 総合病院をうまく利用するための方法、脳卒中の予防、多職種による専門的なリハ、転倒の予防、効果的な治療とリハ、高齢者のメンタルヘルスの充実、高齢者の健康増進、自立生活の促進。これらは、介護・予防にかなり近い概念ですし、この総合的な多職種によるチームアプローチも、今、私どもが目指しているところです。ここにある内容は、われわれと大きく変わるものではない、言葉としては大きく変わるものではないというような気がするわけです。 その中間ケアの中身ですが、医療と福祉が協力してサービスを提供するということが基本になっておりますが、ポイントは、家庭に近いところでサービスを提供しようということです。日本で老健が最初にできたときに、「中間施設」という言葉を使ったわけですが、それと同じような中間という意味のようです。家庭に近いところで、なるべく家庭から切り離すことなくサービスを提供するということを考えていこうと、簡単に言えばそのようなことなのだと思います。目的としては、文献に書いてある内容では、不適切な入院・入所の回避、病院から在宅への促進、医療的な依存から機能的な生活の自立を目指すというようなことで、一般的には、高齢者の家庭・地域でサービスを提供するということです。非常に総合的で包括的な中身のようですが、治療とリハを包括したケアプランを作り、通常は大体1〜2週間以内、最大でも1か月を少し超えるぐらいの期間、みんなでサービスを提供しようということのようです。 さて、資料にも少し書いてありますが、中間ケアの中身を5つご紹介します。Rapid response(ラピッド・レスポンス)というのは、読んで字のごとく、すばやく反応してサービスを提供するということで、入院を防ぐために迅速な診断・評価を行って、在宅での短期ケア・集中的なリハを行います。言葉だけ聞いておりますと、次の4月から始まる日本の新しい方針の中にあるような気がいたします。短期集中の訪問リハあたりはケアマネ付きリハマネ付きで、このようなことなのかなという気がするわけです。 次がHospital at home (ホスピタル・アット・ホーム)、家での治療というようなことなのでしょうか、おそらくイギリスでは、入院がうまくできなくて、言葉は悪いですが、だらだらとしたプライマリーケアになっていて、プライマリーケアで提供している治療を在宅で集中的にやらなければいけないということでしょう。それを考えますと今回の在宅療養支援診療所あたりは、このようなところと非常に符合する内容ではないかというように思います。 Residential rehabilitation (レジデンシャル・リハ)、これは施設の中のリハですが、医学的には安定しているが短期間のリハが必要な人に、病院あるいは老人ホーム等でリハや看護を提供して家庭復帰を目指す。まさしく今回の老人保健施設における短期集中リハが、そのようなところだと思います。 Supported discharge (サポーテッド・ディスチャージ)というのはケアしながらなるべく早く家に帰ってもらおうということで、その中身はテクノエイド、つまり住宅改修や福祉用具などをその人に合わせて提供して、短期間の看護やリハを実施しながら、家に帰っていただくということです。その概念は今回で言えばリハマネジメントにあたります。 それからDay rehabilitation(デイリハ)、デイホスピタルやデイセンターで短期間のリハを実施することで、これはまさしく、通所リハの短期集中リハということがいえるのだと思います。 このように見ていきますと、イギリスは世界の地域ケアを、いわば先陣きって始めた国ではありますが、抱えている内容そのものは極めて似通っているような気がいたします。やはりこれからの高齢者医療で大事なことは、プライマリーケアチームです。われわれは老人病院を母体にしていますが、老人医療とGPの連携が次の課題になってくるのだろうと思います。在宅支援診療所の先生方とネットワークをもち、一緒になって高齢者医療を考えることが、双方にとっていいことだという感じがいたします。 なるべく家庭に近いところでサービスを提供してくという考え方は、日本でも今後ますます進んでいくと思いますし、そのことを充分に踏まえた高齢者医療のあり方というものを考えていったほうがいいのだろうということになります。 そして、いわゆるボランティア活動も医療の中でかなり出てまいります。イギリスはボランティア発祥の地ですからそうなのだと思いますが、在宅ケアではボランティア活動抜きには語れません。日本の在宅ケアのこれからを考えたときに、施設ケアにおいても、インフォーマルなケアをフォーマルな中にどう取り入れていくかということをもう一度考えることが課題の一つになると、イギリスを参考に感じた次第でございます。 次はデンマークですが、私が行き始めたのが20年くらい前になります。すでにその頃のデンマークでは、地域での高齢者ケアを行うために市町村合併を進めていった結果、世界で冠たるデンマークの在宅ケアがありました。最近の動きとしては、権限を国から市町村に委譲し、個人の選択権を尊重する、年金でサービスを買い自立していくのだという、そのような考え方を進めようとしています。20年前はあまり使われなかったですが、デンマークでも最近は「民間活力」という言葉が流行って使われているようです。それから保護住宅ですね。住宅の建設に一生懸命取り組み、そこから出てくるのが高齢者対策・認知症対策ということで、割とこのようなところもわれわれと同じような気がします。 これはデンマークの北部の、ちょうどスウェーデンに近いエルシノアという人口が6万弱の町のスライドです。そこでやっている新しい動きというのは、多目的で統合された福祉センターで、約6万人を5つほどに分けてケアのシステムを組もうとしております。いわゆる老人ホームを核にしながら、福祉センターとしての機能を持たせて総合的なサービスを提供しようという、このような試みですね。小さな地域でかなり総合的にサービスが提供できるように考えていこうということのようです。それに似たのが、わが国の「小規模、多機能」ということになるのでしょうか。考えることはどこも一緒だということです。 このスライドはデンマークの老人ホームで、実は4年前の写真です。この老人ホームではそれまではあまりリハをしていなかったらしいのですが、リハビリを始めたというので、わざわざ訪問して見て来ました。今日本が始めようとしている老健の短期集中リハを、デンマークが4、5年前から試みようとしていたわけです。その背景には、あれほど充実した在宅ケアをやっても、どうしても生活機能の低下には対応できない方がおられるということで、短期集中で老人ホームに入所していただきリハを提供するということのようでした。その成果がどうなったかは分からないのですが。 それから、デンマークにあるエルドラセイエンという高齢者のボランティア組織は非常におもしろく、EUの中にもこのグループのネットワークがあるようで、政治的な発言もしております。私の見方はちょっと斜めから見ますので、変な見方になったのかもしれませんが、日本では介護保険がスタートしてから、若干ボランティア活動の影が薄くなってしまったのではないでしょうか。昔のほうがよく見えたなと思います。サービスが多くなったので、相対的な問題なのかもしれませんが、どうしてもそのように感じます。QOL、生活の質を高めていくサービスということになりますと、フォーマルなサービスと共に、このように地域全体で支援していくような流れを作っていくことが、やはり欠かせないのではなかろうかと思うところでございます。 以上、三つをまとめてみると、「住み慣れた地域で暮らしを支える」というのが、一つのキーワードではないかというように思います。二番目は、後期高齢者、特に認知症への対応をどうしていくのかというのは、どの国も同じように抱えている問題のようです。それから三番目に長期ケア。その中でやはり集中的なリハということをどの国も考えているみたいだということですね。またケア施設から住宅へという流れが、特にヨーロッパは強いというように考えます。ボランティアの方々の活動も含めて、インフォーマルなケアの育成というものが考えられています。特に住み慣れた地域で暮らしを支えるということに関しては、プライマリーケアチームによる総合的なサービス、小地域で多目的に統合されたサービス、多職種によるチームアプローチ、このようなところが、今、紹介した国々の活動からヒントになるキーワードとして、整理ができるのではなかろうかと思います。 結局、どこの国も同じような問題を抱えているということで、わが国ではご存じの通り三年ほど前に、高齢者の尊厳を支えるケアをやっていこうというのが、堀田さんのまとめでございます。地域包括ケアシステムというところまでは、この高齢者介護研究会の報告書に書いてありますが、私が手前みそで矢印をいれさせていただきましたが、地域包括ケアシステムが確立されるためにも、やはりこの高齢者のリハ、特に地域リハの体制というものが、非常に大事になると考えております。今回の報酬改定に関しては、高齢者リハ研究会の五つの課題が、いい方に活用されたのか悪い方に活用されたのかわかりませんが、基盤支えとしてリハ抜きにはやれないと思っております。 そこで、一つは高齢者リハの中で回復期のリハ。急性期は、なかなか私どもの仲間ではできないところがありますので、急性期はそれにふさわしい病院にお願いするとして、回復期は今後も私どもの課題であり続けるように思います。回復期リハ病棟というものが、回復期のさまざまなニーズにきちんと応える機能を本当に果たしているのであろうかということを考えていく必要があると思いますし、そこでのポイントとして、やはりその人の生活を専門的に評価していくということになると思いますが、きちんと見て、可能性を探っていくという、それが大事なことなのではないかというように思います。 そして三番目のところに、「生活していく勇気を」というように書きましたが、例えば、高齢期に障害を持った夫婦で、子供たちも近くにいない、あるいは一人暮らしという場合、生きていくということに対する気持ちの整理と、向かっていく勇気がいるのだろうと思うわけです。そのことも充分踏まえながら、この回復期を本当に支えきっているのかということを考えていきますと、右に書きましたように質の向上を図る意味でいくつかの課題があります。結果として、最もリハの充実した病棟として、制度的には恵まれた状態にあるので、間違っても課題を先送りせず、家庭復帰を目指すということが大事なのではなかろうかと思っております。もちろん、充分にうまくいかないこともあります。今うちでも簡単に写真は見ていただきますが、このようなことをいたしております。この多職種のチームというものはなかなか難しく、全然直接のサービスをしていないのではないかと思うぐらいに話し合いが多いように思いますが、スタッフが多くなればなるほど、難しい問題があるというのも事実です。課題等については資料に少しだけ整理しました。 私はリハ専門なので、本当に治療しているのかというところで気になることがいくつかありまして、おおまかに以下の4つを課題だと考えております。ひとつは、すぐADLに入っていくこと。ADLというのは、基本的に身体機能や精神機能によって支えられているので、まずは機能障害を適切に治療することが大切ですが、最近はその意識が薄くなり、ADLばかりに目が向き動ければいいということになりがちです。その動き方もやはり回復期リハ病棟ですから、歩行でしたら可能な限り普通の歩き方に近づけるためのリハをするわけですが、歩行できるからといって異常な歩き方をそのままにして家庭復帰すると、当然そのあといろいろな問題が生じてくるわけですね。生活機能はその歩き方のために落ちてくることもあるので、機能障害に対する適切な治療というのは、リハを専門でやっている回復期リハ病棟では欠かせないことだというように私は考えております。ただ、そのようなことをやろうにも、まだまだ経験の乏しいスタッフが多い中でやっておりますので、そこはチーム一丸となって研究・追及していく姿を、忘れてはいけないということです。 そして、高齢のため体力が落ちている方が入院・入所される場合が非常に多いので、可能な限り体力を回復するようなリハというものも考えなければいけないと思います。私の病院では、改良歩行でも歩行器で歩行ができる時期に入りましたら、すべて万歩計を持っていただいております。万歩計というのはいい加減な数字しか出ませんが、毎日計っていますと、その人の歩き方で歩数が平均化してきます。活動量が増えれば、当然歩数も増えてきますから、回診のときに「今どのぐらい歩いていますか」という話をします。私どもの1病棟が40床で、ちょうどオールスタッフを集めたときに40人ぐらいですが、誰かがそばにいないと歩けないという人の歩数は、看視ができる時間も限られていますので、3,000歩を超えるとまず無理です。そのぐらいマンパワーの限界があります。万歩計はそのようなことでも参考にはなりますが、生活機能回復ということの中で体力を意識したリハが大事だろうと思いますし、今後はそのための充分な治療時間の問題や教育の問題があると思います。 それから朝から晩までのリハも大切です。一日中いわゆる機能回復訓練をやるということではなく、最終的にはその人の生活がどのようにできるかということになりますので、朝起きたら着替えから始まって、お休みになるときはふろに入って、歯を磨いてという、その一連の生活リズムがうまくいくようにということです。人によってはADLの支援も日常的にやる必要がありましょう。 そして一番難しいのは、心をどう支えていくかということだと思います。若いころは「障害の受容」という言葉をこのテーマでは使っていましたが、「もうそんなのはいいよ」「そんな簡単に受け入れられるはずはないや」と思うようになりました。それよりも最近はエンパワメント、とにかく元気に頑張ってほしいという、そのような心の支援をみんなで言っています。これは退院時のまとめの段階の準備ですね。あとで話をさせていただきますが、回復期から維持期へというのは、このようなつなぎの課題があるのかなと。 さて、ちょっと話題が変わりますが、私は3年前からこの障害者施設と一般病棟というものに取り組んでまいりました。国立病院で重症心身障害児を20年間ずっと診ていたということと、また、小倉に参りましてからも、「歩けないのだがもうだめなのか、何とかならないのか」と訴える青年がいたこともあり、どちらかというと個人的には、このような障害の重い方のリハに興味があります。そのような方々を診ている中で、この病棟を、国の意図とは若干違うのではないかと思うのですが、家庭復帰、在宅生活支援を目標にしてやっているところでございます。 一例だけ、退院して頑張っている青年を紹介いたします。脳挫傷と脊髄、頸髄損傷、四肢麻痺で26歳。うちに入院するまでに1年半かかっております。見ていただきますと、A、B、A、C、D、C、D、Cという転院経過で1年半が過ぎ、ここに比較表を出しておりますが、入院時のバーセルインデックスが40で退院時が75。右に重度の失調症と左肩に麻痺があり、ステージが3。最初は全介助でしたが、どうにか電動車椅子での自立と、一部歩行が可能になり、いつも非常に暗い顔をしていた青年が、写真でご覧の通り、明るい表情をして退院しました。退院時は電動車椅子でしたが、現在は博多の病院で通院リハをし、通常の車椅子となっております。小学校の先生である彼のお姉さんが、彼の活動風景を写真に撮りアルバムにして送って下さるのですが、聞くところによると、彼はリハビリに通う際バスを使うのですが、天井のあるバス停の中にいますと、バスの運転手は彼に気づくことができないので、雨の日も天井のないところで手を振るのだそうです。ここまで元気になってくれたかという思いと、日本の社会福祉の現状をこの写真に感じ、うれしくもあり悲しくもありという思いです。去年の夏、とうとう彼は、障害は重いのですが、このようにスキューバーダイビングにチャレンジしてくれて、どうにか頑張ってくれております。 障害をもつ若い人の病棟でみると入院までに約1年半ぐらいかかっております。平均年齢47歳。60%ぐらいが電動車椅子だったり、非常に重い状態で家庭復帰をしております。長期の療養施設になっている障害者施設と病棟が多いようには聞いておりますが、このような病棟の使い方もあるということで、ちょっと老人から若い方に対象が広がりますが、今後の療養病床の一つの運営のあり方として、提案をさせていただきます。 それからこの病棟は、非常に障害の重い方・特殊疾患の方の病棟で、PT3・OT2・STが0.5ぐらいの配置です。昔は提案しても、このようなリクライニングの車椅子も用意できませんでしたし、PT、OTが張りつくという状況もできませんでした。例えば、普通の車椅子に乗せてもどうしてもずり落ちてしまう、あるいは非常に悪い状態の姿勢になってしまうという方の場合、PT・OTがいればその人に合ったものを選んだり、筋緊張をコントロールしながら座位を維持するということができます。これはあとで齊藤先生が話題にされると思いますが、非常に大事な視点なのではないだろうかと思います。肺理学療法・呼吸理学療法・呼吸リハビリというものがありますが、特に肺炎を繰り返すような嚥下障害のある方などは、理学療法士の関わりというものも悪くないなと思います。 少し古いデータですが、関節稼動域を調べてみますと、当院では、18関節120運動方向のうち、1,600関節を調べておりますが、その7割に制限のある患者さんが、回復期・維持期合わせてなんと91名。おそらく先生方のところも、似たような状況が出てくるような気がいたします。日本には関節可動域に制限のある高齢者が非常に多いということです。また、そのような方々に関節可動域の訓練をすればそれがリハビリだというのは、そのとおりですが、それをするにしても、もうちょっと楽しみながらやろうではないかと考えます。可能な限り座位生活をして差し上げたいということになりますと、環境・テクノエイド等が大きな課題になります。経管栄養の方も、外を眺めながら食べていただくようにしようとするのは当たり前のことです。 まとめたものがここでございます。「生命維持支援のリハ」という言葉でいいかどうかというのはちょっと疑問もありますが、ニュアンスは伝わっていくのではないでしょうか。筋緊張のコントロール・姿勢のコントロール・呼吸機能の改善を目指したリハを入れるということ、廃用症候群の予防。また、生活をしていくためのテクノエイドを含めた環境調整。そして生活支援のリハということで、ADLと生活リズム。時々はちょっと変わったことをやろうではないか、このようなことを、重い障害の方に対して日常的に行えるといいなと思ってやっているところです。 これは私どものデータで回復期リハを終わったあとどうなっているのかと調べてみますと、数は少ないのですが、48名の方が退院後の生活機能に向上がみられております。それではいつ向上するのかと見てみますと、このピンクのところが全部3か月以内なのです。項目によって違いますが、6か月以内でも上がるときには上がっていますし、それ以降に上がった方もおられますが、多くの方がこのような状態です。次に低下した方ですが、こちらはほぼ3か月以内に落ちるということですね。したがって、退院後この3か月間がポイントで、この期間の支援が生活機能を安定させる、あるいは向上させるのに非常に大事になってくるということがいえそうな気がいたします。3か月間の短期集中的なサービス。ここに通所・通院リハや訪問リハなどを含めていけば、非常にいいのではなかろうかということが考えられます。また、様々な理由で生活機能が落ちたときの対応が課題になるということです。 もう一つ、介護予防をどう考えていくのかということ。おそらく老人の専門医療を考える会としても、この介護予防の取り組みに関しては課題になっていくのだと思いますが、私ども日本リハ病院・施設協会の考え方をご紹介いたします。前半のところは、さして高齢者の考え方と違いませんが、その目的としては、生き生きとした尊厳ある生活の構築であり、自助努力を基軸としながら、保健・医療・福祉の機関・組織や地域住民が協力しながら行う包括的な取り組みなのだと。したがって個人の問題として介護予防を考える、それは原理原則でそのとおりであり、自助努力がベースですが、その人の人生生活というものが地域の中で行われている限りにおいては、やはり地域総体としてこの問題も考えていく必要があるだろうし、地域が支援していくという側面も決して欠かせるものではない、そのようなことを介護予防の概念として、今までやってきた地域リハの考え方を応用して整理をしております。 これは齊藤先生のお話しになりますが、当院の通所リハでは、40歳代から60歳代の方と、それから70歳代から80歳代というように大きく二極化しております。要介護でみても、軽い方と重い方を今までは分けてやってまいりましたが、実は介護予防に近い方がこの壮年者のほうの通所リハにたくさんおられたわけです。202名を調べてみますと、7割ぐらいは継続ということですが、3割ぐらいの方は終了という結果になっております。終了された方の中には、なかなかうまくいかずにやめられた方もいらっしゃいますが、本当の意味での終了ということで、就労したり、スポーツジムに通ったり、通所介護・ホームヘルプを利用、あるいはサービスを利用せずに生活されている方もいらっしゃいます。このように、年齢や障害の度合いによって目的は異なるので、目的や目標に合うようなサービスを考える必要があるだろうということです。 こちらは、2年間の併用サービスの変化を表していますが、訪問リハを使いながら通所リハに通っていた方がどんどん少なくなっていって、1年ほどたちますとデイサービスやヘルパーを使いながら生活をされているという状態になっています。これは医療系のサービスがなくても生活ができるようになって、割と自立的な生活をおくれるようになったということを推測させるようなデータです。 さて、これは独断で作ってみましたが、維持期の最初の3か月ぐらいは、やはり外来リハ・通所リハと訪問リハですね。これを先ほどのイギリスの例でいうと、デイリハという概念で、期間限定でやっていくことを考えていくと、理屈上はうまくいくような気がいたします。そのあと長期間のリハというのは、もうなくなるのではないかと。今回の報酬改定では80単位で残りましたが、短期集中ということに重きを置きますと、通所リハの長期化というのは本当にあるのだろうか。悪くなったら別ですが、ここが非常に疑問になってまいります。ではどうするのだと言われてもまだ決めていませんが、外来リハ・通所リハや訪問リハで安定してくると、通所介護になって、そして悪いときにはまたリハに戻ってくる、そのようなことを3年後は検討しなければならないと考えております。 あとは少し遊びですが、これはカナダ・オタワのリハセンターですが、真ん中のところにリソースセンターと書いてあります。ここにKnowledge is Power(ナレッジ・イズ・パワー)という英語がありますが、知識を持っていただいて、元気を出してほしいという、ことです。この中に、障害を持ちながらも元気に暮らす様々な知恵の本やビデオ、また個人の体験として語っていただけるコーナーがあります。やはり医療的なサービス・専門的なサービスのほかに、教養を高めるという視点から見て、障害を持っている方がお互いを支えていくことも、高齢者医療の中で欠かせない大事な視点だと思います。それから、やはり情報をもっと提供することが必要だと思います。オーストラリアに訪問したときにストロークウイーク(脳卒中週間)をやっておりました。皆さんのところでもおやりになっているとは思いますが、私のところはこのようなものが乏しかったので、職員向けに作りました。それから病棟にある、転倒予防のマンガが非常に気に入りまして、うちでもきれいな表示をするように変えていっています。また、一般の方はケースワーカーやソーシャルワーカーといわれてもよくわからないですね。オーストラリアの病院では、「ソーシャルワーカーとは」というマンガを使っていました。Community Development(コミュニティー・デペロップメント)、Family Therapy(ファミリー・セラピー)、Conflict Resolution(コンフリクト・リソルーション)、Education Social Policy (エデュケーション・ソーシャル・ポリシー)、Advocacy(アドボカシー)、Empowerment(エンパワメント)、Relationship(リレイションシップ)、Counseling(カウンセリング)、Group work(グループワーク)、Crisis work(クライシス・ワーク)、など仕事の説明が書かれ非常に分かりやすいですね。このように、自分たちはどのような専門性を持っているのかということを分かってもらえるよにすることも必要ですし、パンフレットももうすこし上手に、身近に使いやすくということですね。それから、すぐ壁にべたべた習字でも絵でもはりたがりますが、やめてくれと言います。せっかく人生最後に書いたものなのだから、「作品は品よく」、アートショー、ということも考えています。 最後に、今回の改定のところをまとめさせていただきます。診療報酬と介護報酬の改定の要点を、私なりにまとめたものなので少しおかしいかもわかりませんが、介護予防、急性期病院における早期のリハ。これはDPCや脳卒中ケアユニット・回復期リハ病棟における早期入院と入院期間の短縮ですね。それからチームによる集中的リハ、連携に強いリハ、退院後の短期集中的なリハ。リハマネジメント、退院・退所直後の十分なリハ、これは老健における短期集中リハということで、キーワードとしてはこのようなことだと思います。この報酬から見ると高齢者医療の中のリハが要点になりそうな気が致しますので、走り書きですがまとめてみました。まず、医療機関の役割・機能分担が一層促進される流れになっていると思います。質による連携、関連病院での連携が強化されるだろうと。結局質の高い急性期病院、あるいはリハ病院が役割を担う形が少しずつ進んでいくのかなと思います。したがって、われわれのありようとしては、連携と質を高めることで、とにかく落ちこぼれないように、指一本ででも食い下がれるように、頑張っていこうと思っております。2番目に、これから医療機関の情報が公開されますので、市民が病院を選ぶ時代が今よりももっと顕著になってくると思います。そういった意味で、ハードもソフトも、最高のものがわれわれに求められているのではないでしょうか。亜急性期と回復期はリハ中心の医療体制の構築ということになるでしょうし、回復期リハ病棟の熾烈な競争が始まるだろうと思います。したがってリハの質、サービス量を十分に提供するためにはマンパワーと連携が勝敗を決める。少々言葉が強いですが、そのように考えております。このような一連の流れを考えたときに、ベースに地域リハという考え方があるかないかでは、随分違うような気がいたしまして、流れのあるリハを実践するためにも、この地域リハの考え方が非常に大きな貢献をしてくれるのではなかろうかという気がいたしました。その中における連携は理念ですが経営戦略でもある、そのようなことになるであろうと思います。 少し時間をオーバーいたしました。今日は何年ぶりでしょうか、この会で発表の機会を与えていただきまして、平井会長に心から感謝しながら、雑ぱくではございますが、私の話を終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。 |
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基調講演T「在宅を支えるリハビリテーション」 伊藤隆夫(初台リハビリテーション病院・リハ・ケア部長) | ||
初台リハビリテーション病院のリハ・ケア部長、理学療法士をやっています伊藤と申します。よろしくお願いします。 このシンポジウムでの私の役割というのは、老人病院・療養病床がこれから再編をしていくときに、病院という施設の中で行うリハも、当然きちんとした考え方で行っていかなければいけないと共に、在宅のリハ支援体制をいかに構築するかということが、かなり大きなかぎになってくるのではないかということで、今回は、在宅支援のリハサービスの中で、私がかつて専門的にやってきた訪問リハビリに絞り込んで、サービスの提供のあり方や今後の訪問リハのシステムといったものをどう考えていったらよいのかというところを、皆さん方にご報告することであると考えております。 これは先ほど、浜村先生からも出ましたが、今の診療報酬や介護報酬のバックグラウンドになっている考え方の高齢者リハ研究会、そこでの考え方をシェーマ図にしたものですが、ここで訪問リハというのはどのような役割をすべきなのかということを、若干説明したいと考えます。 ポイントは、やはり予防的活動というところにかなり力点が置かれていくということです。そこで、リハの流れをしっかり作ろうとしていく中で、急性発症する疾患に関しては、急性期・回復期・維持期の流れをしっかり作りましょうとうたわれてはいます。ところが、実際に在宅や地域で活動するとよく目にするのが、こういった予防もできず急性発症するパターンで、病院などでリハの流れに乗らず、在宅でリハサービスを必要としている方が、実はたくさんいるのです。あとで調査報告も少しご紹介しますが、かなりの数です。例えばパーキンソン病などの難病の方などは、実はこの系列に乗らずに、在宅で徐々に徐々に寝たきりへ移行していっています。そこに訪問なり通所なりでリハが関わると、そのような状況をかなり改善していくことができるという経験をたくさんしてきています。ですから、これまでもサービス量が足りないといわれていた在宅の維持期に、リハサービスをもっときちんと構築していく必要性があるということを痛感しておりまして、その中で果たす訪問リハの役割というのは非常に大きいのではないかと思います。ただ、今回の診療報酬・介護報酬、特に診療報酬に関して、訪問リハに対して逆風のような改定がされましたので、これから訪問リハをやっていく事業体は、腹をくくってどのようなスタイルでいくのかということをきちんと考えていかなければいけない時期に、実はいるということも事実です。 同じ高齢者リハビリテーション研究会で出されたモデルの中で、脳卒中モデルは随分語られてきたのですが、在宅で多く遭遇する廃用症候群モデルに対するリハはどうするのかということは、訪問リハの中でもきちんと定式化・標準化していかなければならない一つの課題ではないかというように考えております。それからもう一つ、認知症モデルというのも出されました。これはあとで平井先生から展開されるのではないかと思いますが、在宅で支援を必要とする方々へのリハの標準化、あるいはこのようなことをやって、これぐらいの効果を上げたというということが、実はまだまだ十分になされていないのだという状況もあるということです。 これまで訪問リハに関しては全国的、正式な調査というものはほとんどされなかったのですが、昨年の6月から8月にかけて全国規模で厚労省のプロジェクトで行われた訪問リハの調査がありました。その結果から、訪問リハの現状はどうなっているかということをご紹介したいと思います。私はこの調査の結果が、今回の診療報酬・介護報酬の改定、特に訪問リハに関する改定に、大きな影響をもたらしたのではないかと感じています。 一つは、一人の人の、ADLの指標になっているバーセル・インデックス(以下BI)がどのように変わっていったのかという内容です。退院・退所後すぐに頻回の訪問リハを提供したというモデルで、その変化を追いかけているものですが、例えば出血性脳梗塞・70歳女性の場合、入院時15点だったものが、退院時に50点まで上がる。そして退院後週3回の訪問リハを行うことで55点まで上がり、在宅1か月目で週1回の訪問になりますが、さらに5ポイント上げて60点、在宅3か月目で65点まで向上が見られたというような結果が出ています。もう一つのケースでは、退院後の機能低下時に訪問し向上が見られたケースで、比較的BIが高めの方の例を挙げています。脳梗塞・65歳男性で、退院時が85点、在宅になったとたんに70点まで下がっていますが、そこから週3回の訪問で関わったところ、5点、10点という形で退院時のレベルまで戻しました。5ポイント下がって、それからはずっとフラットな形で機能維持したというケースです。これは、訪問リハにより一時的な機能低下を持ち上げたということで、浜村先生のところの、退院後3か月以内で少し落ちるという状況に対して、何らかの支えが必要だということと符合した結果といえるのではないかと思います。次に、やはり退院後機能低下、ベースもかなり低いケースで、65点まで退院時に上げられたものが、在宅に戻って一気に30点まで下がりますが、週3回の訪問リハを行いながら在宅1か月過ぎ頃に15ポイント、さらに2か月目ぐらいで5ポイント上げて、結果的に退院時の状態までは戻せませんでしたが、20ポイント上げて50点のラインまで機能向上が図れ、ここからはフラットな形になっているという状況です。個別に15例この調査を行いましたが、15例がどのような変化をしたかというと、退院時から集中的な訪問リハを展開することで、2週間から1か月目ぐらいの時期にかなり大きな変化が見られて、1か月目から2か月目にかけては、フラットな形が増えてきていますが、やはり機能向上が見られます。2か月目から3か月目は、もうほとんどがフラットな形になって、3か月目からは大体どのケースも落ち着いています。要するに、1か月目の関わりでかなり大きな変化が期待でき、さらに2か月から3か月の間のところまでフォローすると、維持することができるのではないかという結果が出ました。おそらくこれが、診療報酬・介護報酬の1か月目での加算や3か月目での加算という、一つの根拠になったのではないか思われます。関わったスタッフは平均2.8人で、7割がPTであり、常勤が7割、専従は3割で、キャリア5年以上のスタッフが6割以上。つまり、かなりキャリアのあるセラピストが訪問リハを実施しているという傾向にありました。また、1事業者当たりの実施件数は約88件、利用者数は22人。利用者の主疾患は脳血管疾患が5割、先ほど言った難病や筋骨格系の疾患で、なおかつ廃用症候群をきたしている例がかなり多いという状況が伺えました。ここからが問題なのですが、発症から3年以上が5割で、訪問リハ利用期間も1年以上が5割を超えていました。どうもこの辺が、長期間に渡る効果のないリハが行われていたのではないかという根拠になっているのですが、これは、高齢の廃用症候群の方や難病系の方の中には、関わりを長期間持ちながら、少しずつ持ち上げていく人たちもいるのだということです。確かに退院・退所直後の集中訪問で持ち上げられる方も当然います。しかし、廃用症候群をきたした方に対する生活の再建への関わりは、なかなか時間がかかります。これが、今回ばっさりと切り落とされたという形になって、非常に残念です。 では、訪問リハとはどういうことかということを簡単に説明しておきたいと思います。これはポピュラーな図ですが、訪問型・通所型のサービスがあって、ここに訪問リハ、これはあくまでも介護保険制度におけるリハサービスです。しかし、実際にはPT、OT、STの訪問活動の約6割が、実は訪問看護という形で行っているというのも現実です。訪問看護ステーションからの訪問看護7という形で行っておりますが、訪問看護が主役の訪問看護ステーションに、あたかもリハステーションのようなサービスばかりが行われ、それはおかしいのではないかということが今回上げられて、この訪問看護ステーションの訪問リハが、かなり制限されるという結果になっております。やはり、病院・診療所、あるいは老健からの訪問リハがもっと活性化して主役になっていく必要性があるのだろうと思います。もう一つは齊藤先生のところでかなり得意としている通所リハというのがありますが、この訪問リハ・通所リハが在宅を支えるサービスであり、なおかつ福祉用具や住宅改修、さらには短期入所された方に対するアプローチなどに関連を持った活動としてなされているということは、非常に大きなポイントではないでしょうか。地域における訪問リハ・通所リハがもっと普及していかないことには、逆にいうと、こういった福祉用具や住宅改修といった環境調整の役割も、レベルが低下するのではないかということがいえると思います。さらに、ケアマネジャーの質がうんぬんされておりますが、訪問リハや通所リハといった地域でのリハサービスが普及することによって、よりケアマネジメント能力を高めていくことができるのではないかということを、日々感じております。 今回、介護保険バージョンでは介護予防訪問リハというものも新しくでき、こういった形での訪問において、新たにSTがPT・OTと同様の活動ができるようになったという前進はありましたが、結局、訪問看護ステーションからのPT、OTの訪問に関しては、訪問看護71、72という形でかなり件数制限を受けることになりました。ですから恐らく、これからの訪問リハ活動というのはやはりこちらが主役になっていくべきだという、誘導だと考えられます。この中でも介護保険サービスを受けている高齢者の医療保険の併用は、訪問看護の特別指示書というパターン以外は認められないということですので、訪問リハはこの介護保険の訪問リハ、500単位という形でいかざるを得ないだろうと思います。ここでしっかりとした訪問リハの実績を作っていく必要性があるだろうし、療養病床、あるいは老人病院でもこういった訪問リハを提供するような事業体を併設していくということが必要になってくるのではないかと考えます。 どうしてもリハというと身体機能的要因がメインにきますが、特に在宅といったときには、生活の再建をターゲットにした支援をしていくという考え方からすると、やはり意欲など気持ちの問題へのアプローチが大切になると思います。そして、在宅では環境的要因が非常に大きくなってきます。家屋自体や家の周りの環境を含めた福祉用具の導入・住宅改修などがリハの中身として非常に大事なポイントになってくるのだということです。さらには、病院でも当然そうですが、一人の利用者さんの生活を、地域という現場の中で、様々な職種がオーバーラップしながら関わっていくわけですが、リハマネジメントもチームとして計画を立て、専門職が折り重なって関わりをもっていくという姿勢がこれからますます大事になってくるでしょう。訪問リハの目的は単なる機能訓練ではなく、ICFなどにうたわれているような、生活の活性化と社会性の獲得、そして活動と社会参加、そういったところをきちんと支援していくことにあると思います。 では、具体的にどのような業務を行っているのかといいますと、心身機能の評価と機能訓練、ADLへの助言指導支援、病院と一番違うところでは家族介護者への支援、家屋改造や福祉用具補助器具等の利用といった環境への働きかけ、そして外へ出て行くきっかけとして通所型のサービスにつなげていくなどですが、このようなことが今後、訪問リハの業務として非常に大きなポイントになってくるのではないかと考えます。そういった意味で、これからの老人病院・療養病床という施設に必要なことは、リーダーシップ、リハ機能の充実、マンパワーと協調性、医療系と福祉系サービスの併設、訪問系と通所系の併設などです。あとで土田さんからお話があると思いますが、小規模・多機能・地域密着で365日サービスといった在宅ケアサービス拠点となることが求められています。老人病院がバックとなりしっかり地域支援を行っていくという姿勢が、これから非常に大事になってくるのではないかと感じます。 これは当院理事長の石川さんから借りてきたシェーマ図なのですが、これで最後にします。ここで強調しておきたいのは、確かにここの一連の流れは大事なのですが、この部分です。療養を提供する機能、おそらくここが療養病床になると思うのですが、療養を提供する機能を持った病院から在宅へお帰りになる、さらには、介護サービス機能を持っている施設から在宅へお帰りになる、こういった一連の流れをさらに促進すると共に、この部分で在宅支援を展開するような拠点を作り、そこに訪問リハ機能を重装備化させていくという方向性が、これからのリハの風の一つになっていくのではないかというように感じています。 以上で、訪問リハを中心とした私の話を終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。 |
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基調講演U「クリニックから老人病院に期待すること」 土田昌一(在宅リハビリテーションセンター成城・センター長) | ||
土田でございます。2年ぐらい前から当センターへ参りまして、今在宅医療の現場に入ってやっております。現場にいるとよく感じるのが、われわれのリハビリテーションクリニックに在宅療養の方々がかなり見えるということです。急な病気になられて入院されたが、そこの病院にはリハビリのスタッフがおらず、1〜2週間で寝たきりになって退院された方々が、われわれの扉をたたいて来られます。そのような方々に対して、われわれは何ができるのかということなのですが、そのあたりのマネジメントはなかなか難しいというのが現状です。成城は東京都の中でも有名な高級住宅街ですが、住んでいらっしゃる方々も、お金があるからいい医療をというわけではなく、日本は平等だなと思いました。 世田谷区の現状を理解してから話しを始めていきたいのですが、人口は81万人、高齢化率が17%です。介護認定者数については、65歳以上の方々、40歳以上65歳未満で特定疾患にかかっている方々の増加率が16.6%となっております。平成15年の10月には2万2,000人だったのが17年には2万5,000人になりましたが、要支援の率は大体変わりません。要介護度の分布は変わっていませんでした。世田谷区では介護保険はどのように実践されているのか。訪問リハは16%、通所リハも18%増えています。 在宅で生活していくことが困難になった方々に対応できるのが介護保険施設で、増えている部分もあるのですが、介護療養型医療施設は減っています。看護師さんにみてもらうほうが、ご家族も安心できると思うのですが、このような病院が減ってきて、あるのは一般病院での長期入院です。リハビリもなければナースも忙しく、起きるどころか寝たきりの状態で、「点滴は必要ないようですから帰りましょうか」というような話で退院されるというのがいまだに続いているようです。 世田谷区の統計では、平成11年から平成15年の間に高齢者のみの世帯数が増え、一人暮らしの高齢者も増えています。この方々が、何かあって誰かにすがりたいときに相談するのが、町の開業医の先生方です。しかし何にでも風邪薬を出す先生もいまして、そのような診察をしながら、一方では運動しなさいと言われます。ではどこで、どのように、という話はなかなかされません。先ほどお話された浜村さんが、日本リハビリテーション病院・施設協会で、地域支援指導マニュアルを作られたそうです。その中に、「障害を持つ人々や老人が住み慣れた所で、そこに住む人々と共に、一生安全に生き生きとした生活が送れるように、医療や保健・福祉及び生活に関わるあらゆる人々がリハビリテーションの立場から行う活動のすべてを言う」と書かれ、それに対してどのようなことをしなければいけないかということが書いてあります。「障害を持つ人々のニーズに対し先見的で、しかも身近で素早く、包括的継続的そして体系的に対応するものでなければならない」。すごいことが書いてあります。これを実践するのが、地域で医療・福祉に携わる者の責任だと思いました。 当センターは、このような構造になっています。6階建てで、上の4・5・6階は都市整備公団の住宅になっており、当初は老人用だったのですが、今は若い方も入っています。われわれはそれとは別に1・2・3階を使わせていただいています。1階は、在宅サービス・介護保険サービスを中心とした展開になっており、クリニックからは、訪問看護と訪問リハという形で参加させていただいています。介護事業所は「キラメイト」という名前で日本医療事務センターがやっているのですが、そこで訪問介護・居宅介護支援、つまりケアマネですね、それから通所介護・福祉用具レンタルもやっています。このような介護一体型のサービスフロアがあって、2・3階がクリニックです。2階は外来のリハビリが特徴でして、4月からはリハビリ施設基準の1、脳疾患と運動器と呼吸器は取れそうなのでそれは展開することになると思います。外来は大体1日70人くらいのご利用者さんがいまして、医師は3名、うち1名が非常勤で週1回われわれの指導をしていただいており、PT7名、OT5名、ST3名、看護師2名、介護福祉士1名、事務2名という展開でやっています。病棟は16床で、平均在院日数は14日を切っています。16床で看護師7名、介護福祉士4名、専従でPT1名、OT1名。言語聴覚士は病棟と外来兼任なので0.5名、管理栄養士が1名入っています。この管理栄養士はケアマネの資格を持っており、ケアマネで採用して管理栄養士の仕事をしてもらっていますが、栄養という点でも、病棟できちんとみなければいけないだろうというので、栄養とケアマネの両方をできる人を探してやっと出会った次第なのです。これだけの人員配置でやっていてどうなのだということをよく聞かれるのですが、診療・介護報酬の改定がなければ、今年の夏には黒字になる予定だったのですが、今少し悩んでいます。それはさておき、これから生き残っていかなければなりませんので、このような陣容でがんばっております。 今お話したように、当センターでは医療保険・介護保険をワンパッケージで提供しています。当センターは3階まであり、その責任者が私です。病棟・外来ともに忙しくなってきて、1階までまわる頻度が少なくなってきていますが、それでもまわるように努力はしています。外来診療は私中心にやっていますが、今はあと2名の先生方にも手伝っていただいており、いわゆる包括的診断として、一人の医者で決めるということのないようにしています。医者はその方の健康状態や、どれだけの訓練を耐えていただけるのかといった予備能などを検討し、ご本人・ご家族の希望をお聞きして、その上で危険なことは何か、「このようなところは、もう少し調べたほうがいいのではないですか」「主治医の先生と相談しませんか」などと言いながら、ご本人・ご家族の病気に対する意識を少し高めさせていただいています。さらにPT・OT・STが必要であればすぐにそのあと診てもらい、夕方にカンファレンスを開いて、この方に対しては外来に通ってもらって、どのような訓練をしましょうかということを決めて、その晩電話で「この日に来てください」とお伝えして、訓練が始まります。また必要に応じては、訪問診療・訪問看護・訪問リハなどを手配をするためその場で話し合いをし、翌日、その利用者さんが使っておられる介護保険の事業所にご連絡する形を取っています。病棟の16床はプライマリーケアのために機能していると謳っておりまして、専門性と一般性という視点から、ぱっと見たときに、これはどういう病気だから、どういう専門家に相談すればよいか、どういう返事が来るかということを推定した上で、ご家族に説明して、選択肢を提供することが必要だと思っています。ですから、病棟に入院され、われわれが最低限できる検査をして、その場である程度の説明をさせていただいた上で、選択肢を選んでいただきます。実はこのような話をするのは、うちでは緊急入院の場合が結構多く、緊急入院された方にどのような診断をしたかという話をしています。 入院目的については、ご家族が大変なことになったときにレスパイトという形で緊急に入ってもらうこともありますし、予定として、とにかくここまで頑張るという目標を持って1週間弱入院していただき、また何か月か自宅で頑張ってという形でやっています。本来であれば、老人保健施設でいいのですが、世田谷の老人保健施設は3か月先のショートステイしか予約できませんので、行き場がないのです。また、訓練のための評価は外来に来てやるのが大変であれば、いったん入院し評価をさせていただいて、その上でどのような訓練をすれば、いきいきとした人生が送れるかについてもお話ししています。それから、回復期リハ的アプローチということで、脳卒中にしろ骨折にしろ、発症してから比較的早い方々で、われわれのほうでの判断をとご希望があれば、入院していただきます。そして内科的な緊急入院としては、肺炎・尿路感染症・足の血管が詰まった方・静脈がはれて足がパンパンになった方、それとせん妄といって、夜眠れなくなって叫んでしまった方。この方は原因が薬の副作用であることがわかり、3日ほどで元に戻られました。それから肋骨骨折・腰椎圧迫骨折、つい最近では足の骨折と、様々な方が入っています。 2004年の5月から現在までで、約627人の方が来られました。そのうち、約316人が脳血管疾患でほとんどの方が脳卒中です。脳挫傷の方は20人くらいです。それからパーキンソン病などの神経難病の方、認知症の方もいらっしゃいます。これが整形外科疾患、骨折や変形性の関節症。リウマチの方もいらっしゃいます。この21人の方々は成人脳性麻痺です。脳性麻痺で在宅にいらっしゃる方は、20歳を過ぎると小児科の先生が診てくれなくなるということで、ほとんどが家で閉じこもりになっていらっしゃるそうです。そのような方々が、去年の春ごろから、口コミで当クリニックにどんどん増えてきました。現在、60何歳で手足が動かないという方が何人か来られていて、その方々が独居だったりするのですね。そのような方々に対して、どのようなアイディアでもって対処するかということを考えながらやらせていただいています。 今私のほうで、外来をこのような単純型・在宅廃用症候群・複雑型とに分けています。ただ、これはいろいろな団体、あるいは厚生労働省が示している分類を全く無視して作っています。単純型というのは、私の中では骨・関節疾患単独の方。つまり自分の頭で自分の体が分かる方。脳出血・脳梗塞の単独例ですね。手が動かない、足の勝手が悪い、しかし自分で賄えそうだがうまくいかない方々のことです。そして在宅廃用症候群。この言葉は差別用語だと私は思っているのですが、これしかないのでそう呼んでいます。皆さんも20代の頃とは違う体の動きになっていますね。階段を登らなくなると本当に階段がつらくなる。使わなくなると使えなくなってくる、そのようなことが廃用症候群なのです。入院するほどでもない軽微な疾患、例えば風邪や花粉症などから具合が悪くなって、来る方がいますが、その方々は、元々の体の動かし方が悪いということになります。花粉症の場合よく眠くなるお薬を出されますが、それでなくてもよく寝る人が、どんどん寝てしまって、寝たきりになったという話もありまして、そのような方々はいったん入院し、洗い流してから帰っていただきます。他にも、腰を打った・頭を打った・肩を打ったというだけで、「ここが痛いから」とご家族に訴え、それを理由に動かなくなる方がいます。複雑型というのは、神経がどんどん障害されていって動きが悪くなる方。例えば、脳性麻痺は成長と共にいろいろな神経のバランスが狂ってきて、40歳ぐらいになると、四肢麻痺で両手足がだんだん動かなくなります。首の骨が曲がってきて変形し、脊髄の痛みのために動けなくなってくるという方が多いです。それとは別に、頸髄損傷といって首に障害のある方。そして脳挫傷、事故や転落などで頭を打った方。このような方々は複雑です。 原則として、うちのクリニックに来られた方には、スタッフから次のように言うようにしています。機能訓練はとにかく来られるだけ、週1、2回でも来てください。そして3か月で頻度を減らしましょう、と。すなわち、私どもは実施計画書というものを書くのですが、きちんと評価させていただいて、3か月でこの点とこの点を目標にしてよくなるようにしましょうと。逆にそれしかやりませんというのですが。というのも、いつの間にか元の体に戻れるとか、下手すれば元の体よりもよくなるのではないかと思われる方がいるので、やはり「この辺のところです」というメニューをお見せするということです。3か月でそのメニューを再確認させていただき「そのとおりにきましたね」というところで、あとは介護保険を利用される方であれば介護保険、そうでない方に関してはスポーツジムなどをご紹介します。とはいっても、別に個人的に提携しているわけではないので、ご自分で行ってもらって、向こうの人から電話が来て、「○○のようなエクササイズならやってもらえるのではないですか」などと応対しながら連絡を取るようにしています。このような方々は「リハビリというのは一生やるものだ」と思っていることがあるので、よく理解してもらえるようにもっていくのが大変なのです。最初に「リハビリにも終わりはありますよ」ということを話すとともに、その方が何をしたいのかを聞くので、40分ぐらいの話し合いうち、20分はその方の人生観を聞かなくてはいけない。そこからこのような話になります。 在宅に関しては、関与している様々な在宅サービスの方々と連携を取り、カンファレンスを開きます。そこで、何が問題であったかということを分析して、訓練自体はもうある程度よいところまできていても、月に1回は集まってもらい、それでどうだったかということを感想として聞きながら、大体半年以内でさようならという形を取るようにしています。 なかなか難しいのは、だんだん悪くなるところを悪くならないように診ていくことです。難病で来られた方で、「先生、病気治してください」と言われる方もいますが、その場で、「治りません、あなたは寝たきりになって死にますよ」という話から始め、そこから、ではどうやって生きていくのか、という話に進めていくことにしています。そのような方々は、おそらく長期的な取り組みの中でやっていかないといけないのでしょうが、「短期で機能評価をさせてください」と申し上げます。 それからご家族が冠婚葬祭でみられない場合、冠婚は予定が分かっているからいいのですが、葬祭は突然なので病棟をなんとか空けて入院してもらっています。また、急性期病院にいったん入って、そのあと家に帰るのが不安だということでご連絡があれば、ではどうぞ、ということで入院してもらいます。外科的疾患にも対応しております。 入院患者の年齢構成割合は、60歳、70歳、80歳代で75%を占めます。90歳の方もいますし、また、95歳の方で、家で転んで腰がひどく痛み、写真を撮ったらすごく曲がった背骨でどこが折れているのか分からないので、1か月入院してもらい帰れるようになりましたが、また転び、痛いというので再入院されている方がいます。そのようなことを続けている方は、痛いから入院するのではなくて、心配だから入院するという部分もあるのだろうと思います。心配の解消も、入院の一つの機能にはなっているようです。 入院目的別の入院日数です。1週間以内の入院の方もかなりいます。よくあるのは、夏場の脱水と花粉症によるダウンですね。その方々は短期で済んでしまう。一方、22日以上という長期の方もいます。一番長かったのは80日間という方で、家で腰を打って、痛いからと動かなかったら、全くの寝たきりになってしまった、とご相談があり入院されました。最初は寝返りも打てず、どこへも行くこともできないだろうし、ある意味ではお金もない。老人病院は遠くて家族が行けないというようなことも言われましたが、80日間頑張って、最後は歩いて帰られました。また、ご本人が脳性麻痺で、介護していたお母様が脳卒中になり入院されましたが、お母様がこちらに入りたいというので入院してもらい、ついでにご本人も入りましょうということで、二人入ってもらったケースもあります。 平均在院日数はこのようなものです。10.8日から19.2日。現在は11.8日ですね。平均すると約13日ほどです。そして6割ほどがレスパイトケアといって、在宅支援の入院です。評価入院も入れると大体60%〜70%ぐらいです。また、最近は、緊急入院が増えてきています。これは一次救急病院がすぐ一杯になってしまうことから、待てない場合はうちの病棟に緊急入院してしまうということです。平均在院日数が14日以内、つまり16床しかない病棟ですので、ひと月約30人ほどの入退院があります。ですから長期化する方が入ると、ほかの方々のサービスが滞るというようなこともあるので、この長期化が予想される利用者さんに対してはどうすればいいのかという手配が、今問題になっています。 あとは、地域リハの概念の中にある先見性と即時性、包括的対応が必要だということについても、できる限り対応するようにしているのですが、できない場合もあるということを説明することについての課題ですね。急性期病院への転送もタイミングが必要なのです。世田谷の場合は3つほどありますがいつも満員で、たらい回しになって新宿区の大学病院に行っています。そのような実情の中では、このタイミングを図るのが問題です。それから、適正配置についても考えなくてはいけないと思っています。この療養病床の環境ですと、今の人員配置というのは正直言って赤字です。やはり収益性を考えると難しいなということで悩んでいます。ただ、先ほど言ったように改正がなければ、年末には黒字の予定だったのですが。 最後に、老人病院にお願いしたいことなのですが、在宅療養中の方が何らかの問題があったというときに、「うちはできますよ」「何でも来い」と言ってほしいのです。それから、「準緊急的な病状変化に対しても、われわれが対応します。2週間以内で何とかします」と。長期化すると思った方に対しても、「分かった、よし、あとは私たちのほうでちゃんとやりますよ」というように連携してほしい。また、入院したはいいが、リハの考えがなく寝たきりでは何をしに行ったか分かりませんので、できる限りリハの充実について保障をしてほしいと思います。中長期的な対応についても、説明して納得できる療養環境を提示してほしいです。その上で、老人病院として、できる限りの在宅援助のネットワークを持ってほしい。在宅がすべてではないと思いますが、在宅でできるのだったらやっていただこうと。高齢化とともに老老介護も進み、殺人事件なども起きていますが、在宅生活を破壊的な環境にしてはいけないと思います。そのときに必要なものは何かということを、老人病院の中でやっていただきたいと考えております。われわれができることはせいぜい1週間の息抜き入院のようなもので、それにも限りがあります。「在宅療養者の良きパートナーであれ」ということを、老人病院に私はお願いしたいと思います。以上です。ありがとうございました。 |
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基調講演V「認知症に対するリハビリテーション」 平井基陽(秋津鴻池病院・理事長) | ||
平井でございます。認知症に対するリハを短い時間で話すことは、非常に難しく整理がついていないのですが、私なりに今までやってきた経過を追って、このようなことを考えてきましたというお話をさせていただこうと思います。 認知症高齢者のリハというと、ADL訓練が基本です。そして心理・社会的な療法として、IADL、いわゆる手段的日常生活動作の改善といった高次脳機能障害へのアプローチというものも必要です。当然これに関わる人は、コミュニケーションの技術と、生活障害者としての認知症、高齢者の病気としての認知症を理解していなければなりません。それから、家族介護者への助言・指導・援助が同時になされることが大事です。そのようなことを5年ほど前から言い続けてきたのですが、「そんなことは当たり前だ、おまえは何を言っているんだ」と言われております。しかし、高齢者リハ研究会で認知症のリハビリという項目が3本立ての一つにありながら、国のほうの政策として全くない。これはチャンスだということで、私はリハについて全く知らないので、この老人の専門医療を考える会の医師ワークショップに参加し、浜村先生や、石川先生、土田先生、齊藤先生といった、リハに造詣の深い先生方からいろいろ学びながら、なんとかリハと認知症とつなげてみようとしたのが始まりです。 オーストラリアで「認知症のリハ」と言ったら、「おまえたちは何をターゲットにしている、何を考えているんだ」というような話があったそうです。つまり、人様に認知症のリハということを訴えるときに、認知症を有する人の廃用性症候群などの身体面を主とするリハと、認知症そのものである高次脳機能障害を対象とするリハをしっかり分けないと混乱のもとになると、齊藤先生に教えていただきました。 次に、3、4年前から石川先生や浜村先生に言われていたことですが、認知症に対するリハを一般の身体的なリハと全く同じ発想にしたということです。短期集中リハという言葉に乗り、大胆にも、認知症に対する短期集中リハという考え方をまとめてみました。何でもそうですが、特に認知症の場合は、個別対応が必要だというのは分かっていましたので、同時に介護者・家族も組み込むことも考えました。できるだけ認知症のリハを身体的なリハに近づけるために、まず対象者を限定しないといけない。リハですから、医療行為として医師の指示の下に、しかも短期集中的に実施する。あとは当然のことですがアセスメント。目的を明らかにする。そして、もっと大事なのは一定のプログラムを準備すること。ここ数年で、どのような方に、どのようなプログラムがいいかという試行がなされると思います。そして、専門職が関わる。それから個別対応ですね。 今回介護報酬の改定等がありまして、厚生労働省から、認知症のリハの話をしに来てほしいと言われました。医系技官もいる中でいきなり、「平井先生、認知症といったら何ですか」と聞かれ、汗をかきながら、延々とこういったことを中心にしゃべってきました。あとで述べますように、今回介護報酬で、老人保健施設だけですが、認知症の短期集中リハが設定されました。 今申し上げたことが、私がこの5年間やってきたことなのですが、私どもの施設は、認知症を中心に考えてみますと、病院・老人保健施設・特別養護老人ホーム・グループホームと、いろいろありますが、当初は、認知症疾患センターを中心に、認知症のケアはどのようにしたほうがいいのかと考えておりました。そこで、実験しデータを収集して、いかにミスマッチを防ぐかということで、認知症のリハを始めるきっかけになったのが、3年ほど前から始まった「物忘れ外来」です。この物忘れ外来というのは精神科の外来なのですが、やってみますと軽度の方が非常に多くいらっしゃることがわかりました。MMSE・長谷川式30点満点で26、7、8点の方に、何かできないかということで、「物忘れ外来」開設から半年後に「物忘れ防止教室」というのも始めました。 「学習療法」ということばは、東北大学の川島隆太さんがパテントを取り、登録商標になっていますので、学習療法的、あるいは認知リハなどと名前を変えようとは思っているのですが、要は1時間のプログラムを週1回、患者さんと臨床心理士の1対1で行い、それと同時に、介護者の方にも必ず来てもらい、別の臨床心理士がインタビューをします。これを毎週1回、3か月ワンクールで2年間ぐらい追っていくと、レジュメを見ていただければわかりますように、MMSEが時々上がったりしながら結局は下がり、明らかに認知症は進んでも、介護負担は変わらないということが分かってきました。介護負担が変わらないということは、在宅でいけるのだということです。よく厚労省でも何か制度化するときに、「エビデンスはあるか」と言われるのですが、私は「エビデンスはありません」と答えています。「しいて言うのなら、22名の方を2年半追跡し、1人はお亡くなりになり、1人はショートステイ利用になられましたが、残りの20名は、今だもって在宅生活を続けられています。これがエビデンスといえばエビデンスですかね」と、お話ししてきました。 後に、浜村先生とチームを組ませていただいて、老人保健施設を舞台に、短期集中のリハのあり方ということで、先ほど述べましたように、認知症を対象とするリハと身体障害を対象とするリハ、二つに分けて実践したわけです。16年度と17年度に行ったのですが、プログラムは、個別のリハが20分、小集団のリハを40分、これを週5日続けることを原則としました。通所は週3日を目指したのですが、結果的には資料不足で、今回は制度化はされませんでした。では何を評価するのかというのは非常に難しいのですが、この事業では認知機能検査の代表であるMMSE、精神症状のスケール、ADL、介護負担などを評価項目として上げました。統計的な処理をしてみると、仲間の施設5つぐらいにも入ってもらい、結局は47例ほどのデータが得られたわけです。それで3か月原則でやってみるとMMSEはよくなっていました。ADLに関しては、生活圏という項目で改善が認められ、また、会話・記名・記憶などの項目に改善がみられるという結果が出てまいりました。ところが、5施設のプログラムを見てみますと、当初目指したOT的プログラムというのが、個別では非常に少なく、施設によってばらつきが多いことがわかりました。個別リハのプログラムに注目していただきたいのですが、ある施設は、集団はOT的なものをやっているが、個別ではPT的。これはわたしどもの施設なのですが、個別は今の学習療法を中心にしたプログラムですので、OT的と分類したところが増えています。それぞれにパターンも違います。 PT的・OT的と分けた中身ですが、PT的は、マシンの使用を含む筋力増強のプログラムや移動に関するプログラムなど。OT的は学習回想療法などです。プログラムによって、かかっている時間数にかなり差があります。今後は、プログラムをいかにして構築するかというのが課題になってまいりました。 これは老人保健施設だけに認められた、認知症短期集中リハビリテーション実施加算というもので、3か月以内に限り、1週間に3回を限度として1回60単位で、軽度の認知症の方に対して、在宅復帰に向けた生活機能の回復を目的として、短期集中的に個別リハビリテーションを20分行った場合に算定できます。軽度の認知症とは、MMSEで15点から25点ぐらいのところです。判断するのは医師なら誰でもいいのか、ということで8つほど条件が付きましたが、軽度の認知症と医師が判断し、生活機能の改善が見込まれた方が、老人保健施設においてこれを試行的に行ってみてエビデンスができれば、入所の回数、算定の回数も増やすことができるし、通所のほうで行ってもいいですということになります。また、プログラムとして記憶訓練・日常生活活動訓練等を行うことが条件の中に書き込んであります。これはなぜ出てきたかといいますと、現在比較的よく使われている回想法やRO・見当識訓練というのは、精神療法ということで医療保険で算定されているわけです。以前から認知症のリハビリテーションという言葉はありましたが、リハとして、いわゆる診療報酬で手当てされるという制度はなかったのです。外国の文献を検索してみると、記憶訓練・日常生活訓練・生活活動訓練等が、勧告の強さA・B・Cといった上位にランクされています。今回、認知症のリハビリテーションという名称が報酬の対象になったということが、わたしは一番意義あると思います。 では、何をやってもいいのかと言われていますが、これは今後エビデンスを作りますと言っております。何はともあれ、認知症のリハが従来の身体的なリハの仲間入りができました。しかも軽度の認知症から、どこまでが軽度かというのはこれからの課題ですが、とりあえず取っかかりができました。この2年のやり方次第で、定着するか、あるいは次の介護報酬改定で消えるかということになるのです。私個人といたしましては、認知症のケアから入って、この会でリハビリを教えていただいて、やっと身体のリハに認知症のリハを加えてもらい大満足です。短期集中とは何事かと、非難がごうごう出ていることも十分承知していますが、一度は制度にさせてみたかったということで、恐怖感と満足感でいっぱいの今日この頃です。以上でございます。ありがとうございました。 |
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シンポジウム〜老人病院にリハビリテーションの風を〜 | ||
齊藤 | それではシンポジウムに入りたいと思いますが、その前に私からは、座位をとるということについて、私ども病院、あるいは特別養護老人ホームが取り組んでいることをご紹介したいと思います。今日は一般の方も多くいらっしゃっていますので、4名の先生方にはできるだけ分かりやすい言葉でとお願いしたのですが、それでも難しい言葉があり、リハビリテーションについてもう少し基本的な部分で、「こういうことも充分リハビリテーションなんですよ」ということをお聞きいただいて、それから議論に入りたいと思います。 まずは、座るということに注目し、二つの例を挙げます。一つは介護度の重い方へのアプローチについて。これから療養病床では、介護度4、5などの方々を中心にみていくことになるでしょう。もう一つはそのような方々に対して、食事の時の椅子やテーブルの高さを工夫することで、充分自立してお食事を摂られたり、日常生活をすることができるのではないかという事例をご紹介します。 私が尊敬する大田仁史先生がいつも言われている、「基本動作は守るも攻めるもこの一線」という言葉があります。「とにかく人間が最後まで人間らしく生きていくためには、やはり座位をとることなのだ、座るということがすごく大事なのだよ」ということをいつも言われます。また「終末期リハビリテーション」ということで、半分冗談まじりに、「手や足が拘縮して曲がった状態じゃ、お棺にも入れないじゃないか」などとも言われます。 これを何とか実践できないかと、私どもの特別養護老人ホームで様々な取り組みをしました。まず、ほぼ寝たきりでご自分で座っていることがなかなかできない日常生活自立度Cランクの方5名に対して、「1日3回ベッドサイドに座ろう、3分間でもいいから座ろう」と、座ることをケアプランの中に取り入れました。一人で座れないのだからスタッフが寄り添ってお話をしたり、静養的なことをしたりしながら関わってみようではないか、ということです。その間、医療行為・身体機能・栄養面ではどうなったのか、睡眠時間には影響があったのかなどのエビデンスを出さなければいけないということもあり、それらを調べていきました。 その結果、ADLが一気に向上するとか、要介護度5から4、3、2となっていくなどということはありませんでしたが、座位の保持能力は少ない介助でできるようになり、自発的な行動についても、わずかですが、ご自分で何かをしようという意欲等が出てきました。また、座位をとるために、前後の時間も目を覚ましている状態が増えるので、覚醒度も向上していきました。それから、「対象者全員に感染症の急性疾患はなく臨時薬処方もなかった」という驚くような結果も出ました。これは、誤嚥のために肺炎をおこしたり、膀胱に老廃物がたまって膀胱炎になるなどして、抗生物質を使うということが全くなかったということです。食事摂取量も、徐々にですが全体的に増えていますし、血中のアルブミン、これで栄養の程度を見るわけですが、それもほぼ維持できた、悪くなるようなことはなかったという結果が出ました。 開始当初は、座ることが何となく落ち着かなくて、横に体が曲がってしまうようなこともありましたが、3か月もしてくると、だんだん落ち着いて座っていられるようになりました。ここでのポイントは、何かに寄りかかっているのではなく足が床についているということです。足をちゃんと床につけて、背中に空気が通っている状態。写真を見ると介護者もうれしい表情になっています。また、はじめはご自分で座っていられなかったのが、手をちょっと添えてあげると、それだけで座っていられるようになり、その座っている時間にデザートを食べる、というようなことも出てきました。もう一つ、これが一番よかったことなのかもしれませんが、起きている間に髪の毛をとかすので、寝癖がないのですね。このように表情も豊かになってくる。このような日常生活に関わる効果もあるのです。 リハビリテーションというと、専門家に付き添われ平行棒の中を歩くといったイメージを持たれがちですが、まず基本的な座位をとるということもリハなのです。療養病床がそういった取り組みをしていくことで、余計な医療費も減りそれに関わる新たなケア料も増えることなく、最後まで人間らしく関わっていけるのではないかと思っています。 次に、これは当院の昔の写真ですが、老人デイケアの利用者さんたちが食事をしている姿です。ご覧のように、この方は少し円背もありますが、机の位置が高過ぎて、肘が机の面よりもかなり下にあります。これではうまく食べられず、ビニールの前かけを使用することになってしまう。そこで椅子や机の高さを考えてみようということになり、円背で身長が130p台の患者さんの中から3名の方を対象に、テーブルの高さ70〜72pを60pに、椅子は座面までの高さ45pを37pにし、車椅子から椅子に移って食事をするということに取り組んでみました。すると、何といっても姿勢が変わりました。あごが引けて前傾姿勢になり、左手が車椅子から器に移動。それに加えて、車椅子だとなかなか机の中まで入れないのでテーブルから体が離れてしまいますが、適度な高さの椅子だとテーブルと体の距離も近づき、手も伸びるようになります。そして、足が床にしっかりついているということもとても大事です。些細なことですが、リハにおける環境面の調整とは、このようなことではないでしょうか。また、おかずが全部見えるようになったというのも実は大きなことで、食べ残しや食べこぼしも減り、食事にかかる時間は高さ調整前と変わりませんでした。 介護力強化病院といわれた当時から、リハビリテーションというと、リハの専門職を何人置くのかということが議論になりがちでしたが、そうではなく、リハの専門職が少人数であってもその他の職種と関わりながら、一つ一つ課題を解決していくということが大事なのではないでしょうか。そうしたことを積み重ねていくことは今からでも遅くないと思うので、じっくりと行い、そこに医師も関わりながら、あるべき姿を追っていくということが大事だと思います。 それではこれから議論に入ろうと思いますが、「リハビリテーションの魅力」と題してみました。この内容についてご意見を聞いていきたいと思います。 急性期から終末期まで、シームレスにリハビリテーションという言葉でくくられていまが、急性期から回復期、そして特に維持期に役立つリハとはどのようなことを指すのでしょうか。例えば、脳卒中を起こし、ベッド上にいるところから、起き上がって少しずつ動けるようになり、その後ご自宅に帰られるとしたら、帰るための取り組みをしなければなりません。しかし、社会的な問題や環境面の問題もあってなかなか帰れない。そのような状況を維持期などとよく言いますが、リハビリテーションには、その状態を維持するためのどのような効果があるのかなどということを、お一人ずつ具体的にお話していただきたいと思います。 |
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伊藤 | 発症直後から関わり、変わっていく時期をしっかり支えるというところが、リハの晴れ舞台のような感じですが、私は違うと思います。実は、在宅や長期で生活する場所に帰ったあと、いかにその人が活気のある生活を送れるか、というところがリハの一番大事な展開の場所だろうと思っています。生活の活性化、その人が人間として活性化されるという部分をきちんと支援することが、リハの真骨頂だと考えておりますので、在宅や長期療養の病院・施設でこそ、かなり重点的に展開されるべきだと考えています。 | |
齊藤 | 土田さんはいかがですか。 | |
土田 | リハは、その人の能力を評価して何ができるのかという分析をしなければだめだと思います。ご本人が自覚できる能力があれば、その設定をわかりやすく伝え、覚えるためのお手伝いをすることだと。私はリレハンメルパラリンピックの役員として同行したことがありますが、脊損や脳卒中になってスキーをしている彼らは、それをリハビリとは言いません。スポーツなのです。むしろ、病気になって悶々としていた時代に、どうすればいいのかを教えてもらったことが、ご本人たちにとってリハビリだったとアメリカの選手は言っています。ですから、そのご本人が、どうできるかという判断をするチャンスをわれわれが作れれば、それがリハビリテーションなのではないでしょうか。 また、自分で自分のことを分からない人は、ご家族が一緒に暮らしているのであれば、その人たちにとっての生活の中で、どうしたらいいのかを考えていくことが、問題点の整理になると思います。決してこちらの訓練が主体になるのではなく、その人たちの生活のこのような点を改善すると、もう少し肩の力も抜けてやれるのではないかなど、そういった視点も必要になってくる。もっとトータルなことだと思うのです。先ほどからADLと出ていますが、日常生活動作というのは、「日常性」「いつも一緒だ」「いつでもできること」を確認するということであって、「している」だの「する」だの「できる」だのというナンセンスな話はないと、そう思っています。以上です。 |
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齊藤 | 先ほどは最後にすごい内容のお話でしたが、平井さんは、お話の中で認知症がすすんでも介護負担が増えなかったということは、ある意味で維持だろうと思うのですが、その辺も含めていかがでしょうか。 | |
平井 |
この何年間かの試験では、認知症の方の生活自立とは何か、という口頭試問があるようですが、「一つでも多くのことが自分でできる」というように定義しております。進行性の病気ですので、介護予防にも通じると思いますが、いかに生活機能を維持するか、少しでも今の生活が続けられるように。良いほうに逆戻りするということではなく、猶予期間をいかに延ばすかというところが、認知症リハのねらいではないかとは思っています。 | |
齊藤 | それでは浜村さん、お願いします。 | |
浜村 | 非常に難しいと思うのですが、医療としてのリハと、「リハの魅力」とはかなり違うような気がします。 リハビリテーション医療というのは、生活の基盤を作るというこの一言でいいのではないかと思います。医療などで支援されながら基盤はでき上がってきても、人間が生活するためにはまだ不充分なことはたくさんある。そういう意味で、教育に非常に似たところがありますね。中学校を卒業したからといって、社会人として何でもできますかと言われても、不十分なことはたくさんあると。私は、退院してこれからデイケアに来ていただくというのは、「高校でいうと部活ですよ」という言い方をしています。また、職業リハビリテーションをされる若い方には、「大学に行こうね」と。退院後、どちらかというとあまり社会生活の展望を持ちにくく「どうしてもここにいたいんだ」とおっしゃる方には、「義務教育終了ですから、卒業証書授与式をやりましょう」と。するとお年を召した方でも何となく分かった感じという表情をされます。そのようにして、医療の場で基盤を作り、その基盤が何らかの理由で壊れたり侵されたら、もう一度立て直していくということが、維持期には当然あるのだろうと思います。リハには、その人が納得できる生活・人生を送っていただくための様々な要素が求められているのだと思うのです。 先ほど土田先生がパラリンピックのことを例にお話され、私も非常に重い障害の患者さんで、スキューバダイビングをしている方の症例を出しましたが、若い方には無限の可能性があります。中には、直接リハにつながっているとは感じられないものもありますが、その可能性を一緒に考えていくということがとても大事になってきます。また、どのようにチャレンジしていけばいいのか分からず、地獄のどん底におられるような場合には、私のポケットの中から「こんなことあるよ、あんなことあるよ」とお話しします。チャレンジして失敗したり、スキューバダイビングでがんばっていたり、パラリンピックに参加したり、と話すとかえって落ち込むこともありますが、それらと活動の中身を比較するのではなく、臨機応変に使い分けていくことで、またお手伝いができる場面にも出会えます。そういった意味で、学生のときからリハを学び、地域で障害を持った人が生活している中で取り組めたということは、私にとってはすばらしいことだったと思っています。障害を持ちながらチャレンジする姿に対して関わりを持てることが、自分にとっては自分をまた元気付けてくれる一つの理由になっています。 |
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齊藤 | それでは少し見方を変えて、「老人病院にリハビリテーションの風を」というテーマですので、看護・介護とリハの関係について伺いたいと思います。それぞれの職種としての関係でも、スタッフとしての関係でも構いませんので、平井さんからお願いします。 | |
平井 | 認知症の場合は、リハスタッフであるOT・PT・STはこれまであまり手を出す方法がありませんでした。認知症といえばケア。ではケアとリハはどう違うのかと言われると非常に難しいのですが。私は認知症のリハを導入することが、リハスタッフはもちろん、看護・介護スタッフに、認知症をどう評価するかというアセスメントの目を勉強させる機会になるのではないかと思います。ですから、認知症といえばケアというだけではなくリハビリという言葉を入れることによって、マンネリを打破する一つの手だてにならないかなということと、一見認知症に見えない人を、見逃してしまうことをなくしてほしいという意味合いもあります。 私どもの施設でも、認知症患者には今までリハビリスタッフはあまり関与していませんでしたが、現在は、臨床心理士3人を動員して、毎日OT・STに対して、いかに正しい心理的な評価ができるかという訓練をしています。そのような意味でも看護・介護と協同作業ができるのではないかと思っています。 |
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齊藤 | ありがとうございます。土田さんはいかかですか。 | |
土田 | 前勤務先で院長をさせてもらったときにも、病棟回診をしていたときにはよく介護スタッフに話しかけて、「どのようなことを思っているの?」と聞くと、その次に回ったときにちゃんとその話をしてくれました。 うちのクリニックで、一度すごくいい経験をしました。ご家族の都合で入られた方で、我々の言語聴覚士、それからナースが対応し、嚥下の状態を見てもあまり芳しくなく、よくむせてらっしゃる方がいたのです。それで、いろいろな工夫を試していました。そのような状況の中で介護スタッフは、やはり自分としては何かあったら、内科的な問題に対応できないという不安があるので、一歩引いてしまう。しかし、ご家族は家でそのように一歩引けないのです。 そのご家族の意見というのは、「私はいつもこういうの見てますよ」とおっしゃいました。そこで専門家という立場からナースが「だから危ないじゃないですか」と怒ったこともあって、「これだけ飲み込み悪い人なんだから」「そんなの分かってるわよ」と一悶着があったのです。ご家族が、こちらに安心して任せるということになったときに考えなければならないのは、「確かに今の方法は悪いからどのような工夫をしましょうか」という気持ちになっていただきたいなというのがあります。その中で、残念ながら介護スタッフの評価というのは、まだ少ないかもしれない。しかし、介護スタッフには家族との間に入ってもらいたい。そのために、言語聴覚士はどのような点に注意するかを指導して、看護・介護がそれを分かってケアしていくように、その一件以来変わってきました。 評価をすることだけではなくて、チームで動くときにやはり言語が中に入る。つまりこのリハと看護と介護というのは、どうしてもリハは自分のペースに巻き込む。看護はやはり自分の中で、安全を保証しようとする。介護はその中でどぎまぎしながら見ている。そこの会話をどうやってするかということで、この三者が持っているものそれぞれがいい味が出てくるのではないか。わけが分かったようで分からない話ですいません。 |
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齊藤 | では、伊藤さん、お願いします。 | |
伊藤 | 実は私の肩書きは「リハ・ケア部長」で、リハもケアも合体してそれを私の管轄下で行っているわけですが、なかなか大変です。先ほど私の報告の中でも出しましたが、できる限りオーバーラップしていくという姿勢を、この関係の中でもやっていく必要性があるだろうし、一方では専門職には専門職の得意分野があります。 生活全体に関わるのが看護・介護のケアスタッフだと思うのですね。ポイント、ポイントで関われるのがPT・ОT。ただ、全体を見ながらポイントにアプローチしないと、わけの分からない方向に行ってしまう。それをきちんとコントロールしてくれるのが、生活全体を見ている看護・介護だというように思います。本当にその専門性を生かしながら全体を見られる看護・介護と一緒になると、「あっ、ここで一緒になってやると専門性がよく見える」という話なのです。逆に離れ離れになっているときは、専門性はよく見えないですよね。そのような関係を作っていく必要性があるのではないかと感じています。 |
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浜村 | 一般に医学では、病気があり、生活が大変で、中には人生も大変になるという構造ですが、リハでは、病気と生活の間に障害があります。病気のために障害を抱え、生活がうまくいかない、これから人生どう過ごそうかと、このような構造になっていると思います。 しかし、医師も看護師も、障害によって病気と生活がつながっている場合、どのように違うのかということを分かってはいてもあまり経験していません。特に介護士は分かっているはずなのですが、聞くところによると、基本的な障害のことを学生としてある程度学ぶが、それを理解した上でどうお世話するのかというところまでは、まだ教育に組み立てられていないそうです。 先ほどの伊藤先生のお話ですと、医師・看護師は健康管理やリスク管理などを充分に配慮する専門性を持っているということですが、障害を持った人がどのように生活がしづらくて、それをどう上手に毎日の生活の中でやりこなしていくのか、という考え方がまだなく、看護や介護の専門性の中で、うまく整理がされていないところが多いのだろうと感じております。リハの専門職種の場合は、障害をもっている人にどのように対応していくのかということを、徹底的に習ってきますが、看護の場合は、病人にどう対応するのかということは習いますが、病気をもち障害もあって動けない人をどのように持ちこたえさせるのかということについては、あまり強化された勉強はされていないように思うわけです。 リハとして、障害をもった人にこれから生きていくための支える医療をしようとしている場合に、よく私は若いスタッフと半分親子ゲンカのようなものをします。「君よりも私のほうが患者さんに元気になってほしいという思いが強い」「おまえのほうはそれぐらいしか思っていないのか」などと怒るのですが、障害をもった人がどのように大変なのかということと、私たちが知恵を絞り出して何かを提供したいということを言いたいのですね。 そういった意味で言いますと、「リハビリテーション・マインド」という言葉を使ってもいいと思うのですが、クロスするキーワードが、一番肝心の、障害を通して生活を見て、「元気にがんばってくれ」と送り出す、そこのところでやや希薄な気がして、この一連の関わりを共有できると、もっと高いところが目指せるような気がしています。私も少々分かりにくかったですね。 |
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齊藤 | 今日の質問は回答者が困るような質問でまとめてありますので、次にいきます。 「利用者に理解してもらいたいリハビリとは」。先ほどからも出ていますが、リハに過大な期待をされる方々は多くいらっしゃいます。しかし考えてみれば、私たちが、リハとはこのようなものだと、ちゃんとご説明ができているのかどうかということも、課題であると思うのです。今日いらっしゃる一般の方々にも分かるようにリハビリテーションを説明してください。よろしいでしょうか。土田さん、お願いします。 |
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土田 |
私は今外来で、患者様に最初のあいさつをした後、「何に困ってるのですか?」と聞きます。ご本人が失語症の場合にはご家族に代弁してもらうこともあります。それから診察をして評価をさせていただくのです。そして、困っていることに対して「あなたはどうしたいのか」ということをその場で聞いて、例えば「歩きたい」とおっしゃったら、「歩いてどうしたいのですか」と。歩くことを目標にするのではなくて、歩いてどうしたいのかを聞いています。日常生活の動作を目標にするのではなくて、何をしたいのかというのが大事だと思うのですね。ご家族にどうしてほしいのかと聞く時も、それがどのような意味を持つのかを尋ねます。そのあとでリハビリというのは、「お手伝いはその程度しかできません」という話をします。それだけでしょうか。 | |
齊藤 | ありがとうございます。では、伊藤さんお願いします。 | |
伊藤 | 訪問活動などをやっていると、本当にどぎまぎすることが多いのですが、リハビリはイコール機能訓練です。しかし、マッサージをやってくれと言われる場合も結構あります。利用者さんの家族が言うのはまだよいのですが、ケアマネジャーからも「リハビリをやってください」「リハビリの何をやってほしいんですか」「いや、リハビリです。患者さんの家族が言ってます」というようなやりとりで、どうもリハビリという名前だけ浸透してしまっているようなところがあります。 そのようなときにどのように説明するか。利用者さんの家族の場合には、最初に求められていることを行います。例えば関節可動域がリハビリだと理解している場合はそれから入っていきます。そこまでの理解がない場合は、説明するよりは、「こういうことをこうするともっと便利になるし、このような環境を作ると、ひょっとしたら外へ行けるかもしれない」「来週やってみましょう」という形で、活動性などが変わっていくことを体験してもらったほうが、「こういうことなのね」と、分かってもらえるという経験はあります。ですから、あえて土田さんのように巧みに説明してしまうのではなくて、体験してもらって分かってもらうということが結構多いという感じがします。 しかし、ケアマネジャーさんには、やはり先ほどの土田先生のように、どんな目的でこのようなことをやって、どんな生活像にするのか、それが我々のアプローチなのだということをご説明します。生活像を変えていく、生活を活性化していくという部分を、その利用者さんの状況をできるだけ具体的に取り上げて説明するというやりかたをとっています。 |
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齊藤 | ありがとうございます。浜村さんお願いします。 | |
浜村 | 難しいテーマが多いですね。伊藤先生や土田先生のおっしゃったこととほとんど一緒です。 ある意味では、言葉巧みに言わざるを得ない場合がありますが、言葉巧みに言ってこちらは分かっても、患者さんはほとんど分かっていないのだろうと思います。ですので、お持ちになっている能力を体験し、チャレンジしながら、限界も知っていただく。そこに気持ちを向けてもらうというのが、医師としては、非常に大事なところだと思います。 目的・目標が非常に高い場合は、一つ一つこなしていくしかありません。しかし、かなり目標が高いということで困っておられる方もおられ、外来担当のPT・ОTからは「院長、もうこれで終わっていいですか」と、質問が出てくる。人間は「これで終わり」と言われて、「そうですか」と言えない場合が多く、そのときに分かったつもりでもまたすぐ元の状態に戻ることもあり、おつきあいが長くなってしまう場合があるのです。 両先生もおっしゃいましたが、いかに自分の持っている能力にチャレンジしながら、限界をそれなりに感じていただくかということになっていくと思います。うまくいけば自分に新しい希望を見つけられて、とても生活が安定し、それを終了に近づいた状態と受け止めている方がおられますが、普通はほとんどうまく納得していただけないというのが、この問題のような気がいたします。 |
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齊藤 | では、平井さん、お願いします。 | |
平井 | 認知症の場合は、認知症であると確実に医師の診断がついた人に限定するということを前提にお話ししますと、あえて訓練ということばを使います。 先ほどの物忘れ防止教室など、○○教室というネーミングと物忘れ防止ということばが非常に魅力的であるらしいのです。物忘れを点数化し、訓練をして、物忘れがよくなるという一つの保証があるわけです。しかしあくまでも私が今話している部分については、診断がはっきりついているということと、ご自分で納得されて始めるという条件があった上で、あえて訓練ということばと、物忘れを進行させない、忘れている部分の頭を鍛えましょうというような、従来のリハから言うと怒られそうなことばを使っています。 それはなぜかといいますと、ケアと一線を画し、現時点での物忘れと、年をとったことによる生理的な記憶力の低下とを区別したいからです。ここが崩れるとすべて失うということで、私自身は危機感を持っています。ですから家族の要望ではやりません。ご本人に納得してもらって訓練をします。理解してもらうというよりも、こちらが責任をかぶるといいますか、非常に危ない橋を渡りかけているというところです。 |
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齊藤 | ありがとうございます。伊藤さんの話にもつながるかもしれませんが、私は、初めはリハビリをすることが目標でもいいのかなというように、最近よく思っています。ご家族にもそのような話をします。しかし、そのリハビリをしながら徐々に、「○○をできるようにする」といった目標が新たに生まれてくるようにしましょうと。そして、○○ができるようになったら、どこどこに行けてこんなことができるといったように、より生活に密着した目標に段階を追っていくことがリハビリテーションなのだという説明をするようにしています。その辺は、今のような説明のほうが分かってもらえるかなと思います。初めから大きな目標を言っても、なかなかそこに到達できなかったりしますので、それよりも、その状況を見ながら目標を段階的に変えていくのがいいかと。 このような話の中で、これからの高齢者リハの方向性はといっても難しいですが、「老人病院にリハビリテーションの風を」ということを今日の結論にもっていかなければいけませんので、会場の中からご質問やご意見があれば、お聞きしたいと思します。どなたか、ございませんか。 |
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発言者1 | 神奈川県から来ましたAといいます。私が聞き漏らしたのかもしれませんが、平井先生のお話の中で、短期の訓練をすると、認知症の進行が2年から2年半ほど遅れるとおっしゃいましたが、アリセプトで大体11か月から12か月と言われているということは、薬よりは当然、学習療法のほうがいいということですね。 それで、私がお聞ききしたいのは、なぜ短期にこだわるのか。私は、認知症は長い習慣の結果、最後にくるものだと思っているので、慢性的な疾患であると。それをなぜ短期の治療にこだわるのかということをお伺いしたい。 |
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平井 | 一つは、「短期集中」という言葉を使わなければ、介護報酬に入らなかったというのが大きな点です。それと介護報酬に組み入れてもらわないと、認知症のリハビリというのは永遠に浮かび上がらない危機感を持ちました。先生がおっしゃるように、確かに認知症にリハビリというのはそぐわないというのはよく分かっています。ですが、実際に我々のデータで2年半を見ますと、短期集中をかけるとMMSEは上がるのです。認知症の早期で、どんどん進む一方だとか、もうこれでおしまいなどと告知しますと、やはり張り合いがありません。やれば上がります。「上がってなんぼや」と言われれば、なんぼでもないです。だが、介護者は点数が上がったということだけでずっと沈む一方ではない。だから短期集中というのはあくまでも浜村先生と一緒にやって、身体のほうに合わせたかったというこだわりだけですね。それだけです。 | |
発言者1 | 分かりました。 | |
齊藤 | 他にはどうでしょうか。一般の方でもぜひ、このような質問をしたらおかしいかなとか思わずに、ご質問下さい。では真ん中の方どうぞ。 | |
発言者2 | Bと申します。看護教員をやっております。一つお聞かせいただきたいのですが、特に老人病院でのリハを進めるということになりますと、先生方のご意見の中にもありましたように、看護・介護がどれだけその力を発揮できるかというところが大きいかと思うのです。リードをしていただきながら、実際の日常生活の中でそれを生かしていくということが、とても大切になると思うのですが、これもお話の中にありましたように、実際のカリキュラムの中では、介護保険施設の中でリハにどう携わっていくかというところまでは入りません。多分介護職に関しても、より教育期間は短いわけですから、難しいのではないかと思います。 就職戦線の中で、介護保険施設に就職するのは、ある一定の条件を持った看護職の方々だという状況があるかと思いますが、そのような方々の再教育や訓練といった部分を考えていく必要があるのではないかと思うのです。 話は飛びますが、今後外国人の看護職が活用されるというときに、その方々に関しては、「受け入れ機関が責任をもって研修をする」ということが一つの条件になっているそうです。それらのことを考えましても、その前に現状の職員の必要な現場研修が、施設の責任ではなく、全体として保証できるような形になっていかないものかとつくづく思うのですが、その辺に関しての動き、あるいはお考えをお聞かせいただけると参考になりますので、よろしくお願いいたします。 |
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齊藤 | これは、平井さんと浜村さん、いかかでしょうか。 | |
平井 | 私はあまり理解できなかったのですが、要はリハビリテーションが老人看護の中に入っていないということですか。 | |
齊藤 | 私の理解では、看護・介護がリハについてのしっかりした教育を受けているかと言ったら実はそうでもない。特に介護現場などでは。そこで、現場スタッフに対してどのように研修していくのか、あるいはこれから入ってくる外国人に対してどう教育していくのか、何か対策があるのなら教えてくださいということだと思います。 | |
平井 | では、私のほうから簡単にお答えします。確かにカリキュラムでなかったかもしれないのですが、だからこそわれわれが目指しているのは、あくまでもチームアプローチなのです。私がリハを素人でも教えられたように、病院の体制ができていればだんだん習ってくるのだと思いますし、カリキュラムで教えられたからといってできるわけでもないと思います。だから不幸にしてリハビリのないところに行ったら、そのようなもので終わるのではないかという懸念があります。やはり病院としては、リハをしっかりやっていき、実習に来ていただけるような施設を目指すということではないかと思います。 | |
浜村 | 私は長崎から小倉に移って8年なのですが、やっと大学の教官の方々とも知り合いになりまして、今、国立大学と公立の看護学校、私立大学の学生の研修を引き受けております。ジャンルとしては老人看護で、その中で1週間、リハビリテーション、あるいは慢性期の非常に障害の重い方々の現場に実習で入ってもらいます。実習に来ても就職につながらない点が個人的に不満がありますが、ギャップや思いのすれ違いもあってなかなかうまくいきませんが、それが今、できていることでしょうか。 多くの病院や老健施設でもそのようなことはありますし、改善されれば理解は深まると思いますが、学校で教育をされている先生方のリハへの理解が必ずしも高くないということが、全国的にあるような気がします。昔とは状況が違うため仕方ないのかもしれませんが、もう少しそのあたりを分かっていただくと違う答えも見つかるかもしれないと思います。 |
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齊藤 | 私もリハビリの教育について感じることがあったのは、現場の職員の研修についてです。 うちでは入院時早期自宅訪問や、退院前自宅訪問などをしているのですが、そのときに、介護職のスタッフを一人連れていきました。患者さんのご自宅に行った経験が全くない人です。そのお宅は和式トイレで、貸家なので改造ができず、どうすればよいかとみんなでディスカッションしましたが、彼女が、帰ってくる車の中で涙目なのです。患者さんとは、病院の中だけで関わり、しかも決められた時間にだけ関わることが自分の仕事だと思っていたのが、「この人にはこんな生活があったのか」と感じたのです。「こういう人生があるのかということを考えたら、もっと真剣に関わらないといけないと思った」と言い、結局彼女は在宅を中心にやりたいということで、うちのヘルパーステーションに行きました。「リハビリテーション・マインド」のようなものを持って在宅に旅立って行ったのです。 病院の中だと、看護も介護も医者も、どうしても患者としてのその人しか見ていない。だからこそ、どのような生活をされていたのかということを目の当たりにするということは、どんな教科書よりも大事なことなのかなと思います。ご家族も病院で会うご家族と、おうちで会うご家族とは全く違うと私は思っています。老人病院は、帰れる方のお宅には見に行くが、帰れない方のお宅は見に行かないではなくて、全ての方の生活をもっと目の当たりにして関わっていくということが大事なのではないか、過去を見ることが未来につながるのではないか、と思うのです。 ですから看護・介護の教育の中でも、訪問介護の研修などもありますが、ずっと自分が見ている患者さんのところに行くわけではないので、そのようなところにも関わりをもっていくと、見方が変わるのではないかと思います。 |
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齊藤 | はい、どうぞ。 | |
発言者2 | 老年介護ができたのが平成2年なので、それまでは成人と一緒でした。それで老年看護の実習が分かれてできるようになったのが、平成8〜9年です。確か介護の学校ができたのも平成2年ぐらいからだったと思いますので、新しく教育を受けた人は、それなりのマインドは植え付けられています。ただ、現在働いているのはもう少し前の教育を受けた方々が多いように思いますので、実際にそういった施設で働くための現任教育がより重要なのではないかと感じているのです。私どもも実習には出しております。ご回答ありがとうございます。 |
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齊藤 | もう一人ぐらい、いらっしゃいますか。前から2番目の方どうぞ。 | |
発言者3 | 一般参加です。私は看護師で今ケアマネをやっております。伊藤先生のお話の中で、ケアマネからのリハ依頼について触れていたのですが、私たちがリハを申し込むときは、主治医意見書に沿って申し込みます。そして申込書は、施設が発行している申込書を単に埋めるだけのような形で日常流されています。私は看護師でありながら、きちんとリハ的にアセスメントをして申し込んでいるかというと、その辺りは恥ずかしい限りなのです。主治医意見書は、医療系サービスですから必ず添付しますし、全部アセスメントを任せたいというところがあるようです。しかし、どのように自覚して、どこまでやって、ちゃんと申し込みをしなさいということを言われているのか、ご指導いただければと思います。 | |
伊藤 | こちらが恐縮してしまうのですが、今度新しく訪問リハサービスを行うにあたって、リハマネジメントというのが義務づけられます。そのときにリハ実施計画書というものを作らなければいけません。作成する時にはケアマネジャーさんやリハをする人間や、できればかかりつけ医や関わっているほかの支援サービスの方にも入っていただき、いわゆるケアカンファレンスのような形で、リハビリの計画をみんなで立てます。それを立てて初めてリハマネジメント加算につながり、きちんとチームで計画を立ててやっていきましょうという形に変わるのですね。 今までは、言われていたように、ケアマネジャーさん自身もよく分からないが、訪問リハを必要だとご本人たちが言っているので、かかりつけ医に頼んで指示書を出してもらってというスタイルで進んできて、うやむやのまま経過してきたという感じがします。今度は、かかりつけ医とケアマネジャーさんとの情報交換の様式も提示されて、それに基づいて様々な手続きが進んでいくという形になるということです。そうするともう少しすっきりするのではないかと思います。 もう1点は、例えば訪問リハのPTがケアマネジャーさんと関わり、利用者さんの変わっていく経過を共有していくと、ケアマネジャーさんの見方はずいぶん変わりますね。ですからそのような形式的なものだけではなくて、リハスタッフとケアマネジャーさんが、利用者さんを共通にして一緒に仕事をしていくという経験をどんどん積み重ねていけば、ケアマネジャーさんの視点も非常に深くなる方向へ向かうのではないかと感じています。補足がありましたら、齊藤先生お願いします。 |
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齊藤 | 浜村さんが委員長になり半年かかって、リハビリテーションマネジメントの流れ、フローチャートというものを作ったのです。例えば入院から在宅へ、あるいは通所から在宅へなど、様々なパターンを考えながら、施設版・通所版・訪問版を作りました。共通としてリハ実施計画書が軸にあるわけですが、これは多職種で作らなければだめだというルールになりました。入り口と出口のところで、医師とケアマネの情報提供書というものが、今度から発生するのです。ですから、医師にももっとリハを理解してもらいたいということも含めて、ケアマネも一人で頑張らなくてもよくなりました。今までケアプランというと、結局はケアマネが一人で立てなければならなかったのですが、リハに関しては、ケアマネが一人で悩むのではなくて、みんなで一緒に作りましょうという意味でも、流れを作ったのです。 3月31日だと思うのですが、事例集もできて、フローチャートの流れとその意味と書式が公表されることになると思うので、ぜひ楽しみにして下さい。その流れがないと、実施計画書を書いただけではリハ加算はもらえないのです。実施計画書を書いて情報提供書も書かないともらえないシステムになっているので、まだ完全な形とは言えませんが、一歩前進したかなと思います。本当は浜村さんが話すことですが、そのときの事務を担当していましたので代弁いたしました。 |
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発言者4 | 大阪から来ました外科の医者です。わけあって回復期リハ病棟に関わるようになったのですが、リハビリというものを全く知りません。昔、乳がんのリハに触れた程度ですが、現在は脳梗塞や骨折の術後のリハビリのため、医者として指示書を書かなければなりません。機能訓練や、言語でしたら嚥下評価などにチェックをするわけですが、現実にリハメニューを、先生方はどのようにPT・OT・STに対して指示をされているのでしょうか。ただ単に「やっておいてくれよ」というおまかせメニューなのか、それとも「このようなメニューで、このような進行でリハビリをしてほしい」というような、細かい指示までされているのか、その辺をお聞きしたいのですが。 | |
齊藤 | リハ医がどう思っているか、私はどうしたかということを各シンポジストに話してもらいましょう。 | |
浜村 | 参考にならないかもしれませんが、PT・OTの治療に関する内容は、私のところでは指示していません。基本的な考え方は、PT・OT・STの権限の中にあると思います。禁忌事項であるとか、リスク管理の問題等に関する情報提供は、指示書の中にあると思いますが、その障害の評価から始まってプログラムを立てる部分は、PT・OT・STが独自に考えるべきだと思います。考えたものを持ち寄り、共通した目標の合意に基づいて、プログラムが本当に適切であるかどうかは、各専門所・部署の問題としてあると思いますが、ただ、その調整は医師の問題だろうと考えています。順次ゴールが高くなっていくと思いますが、そのゴール設定の合意、あるいは調整等に関しては、主治医に責任があると思いますし、それが実行されているかどうかチェックする機能もあると思います。 今私は整形外科をベースにしたリハをやっています。運動学、例えば歩行に関しては、専門的に関われる部分があります。イタリア人の小児科医でミラニーという方が、ほとんど手足は触らないでじっと動作を見ながら、CTの子どもさんの発達障害を診察されるのですが、私は歩行などの基本動作の中に基本的な治療過程が全部反映されると思いますので、その歩く動作をチェックしながらコメントをします。当然上肢に関しても同様のことをします。 それから、日常生活に関するチェックについては、みんなからのコメントを聞きながらチーム全体が共有した目標に基づいて進んでいるかどうかということを、院長という立場上、全体的なアドバイスする役割として関わりをもっています。 |
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齊藤 | では、現場で一番活躍されている土田さんからお願いします。 | |
土田 | 私は元外科医です。消化器外科を担当して、脳外科へ移ったのですが、消化器外科のあとでいきなりリハビリをやれと言われて、それから脳外科を勉強したのです。それがベースにありまして、PT・OT・STに指示をするためにやってはいけないことは何なのか、それをとにかく知りたいということがあったのです。それが答えられない医者だったのですね。 私は、PTに「それから、どうするの?」と必ず聞きながらゴールを設定します。患者さんに対してどのような評価をし、訓練プログラムを立てているかということを、自分で考えもらうような形にしかできないのです。そして1か月ぐらいたったときに「あのときこうだったよね」と話し合います。われわれが提供する訓練プログラムを、みんなで話し合い共通のものにするため、交通整理のような役割をするのです。だから私がPTに、これこれは何回だとか、角度は何度だとか、そのようなことは言いません。「あなたはどう思うんですか」と言うことから始めて、それぞれのプログラムを聞き、それがある程度一緒になれば「よかったね」「じゃ、それでいこう」というまとめ役です。その代わり責任を取るのも医者だと思っています。 |
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齊藤 | では今度は、医者にどうしてほしいかというのを聞いてみましょうか。 | |
伊藤 | 今、土田先生がおっしゃられたような、「おれがいるから安心してやっていいよ」という後方支援的なスタンスでいることが、ドクターの役割ではないかと思います。リハビリテーション医学にかなり精通していなければできないと周りから思われているようですが、初台リハ病院の大半のドクターはあまりリハには詳しくありません。その代わり、全身状態をしっかり診て、「責任は我々が持つよ。だからやっていいよ」と、そのようなスタンスで関わってくれています。 逆にいろいろな科のドクターがいたほうが、細かい疾患に対応できるのですね。特に皮膚科のドクターはいるといいと思います。細かい皮膚疾患をパッパッと診断してくれて、すぐ適正な処方をしてくれます。うちの病院は心臓外科・脳外科など様々な科のドクターがいて、自分の担当患者を乗り越えて診てアドバイスをしてくれます。そういった関係をドクター陣で持つことが、とても大事なポイントではないかなと感じています。 |
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齊藤 | ちなみに私は外来リハの担当をしていますが、PT・OT・STのセラピストと話す時、「どうしようか」と切り出します。医者は、何か指示を出したり答えを出さなければいけない、と考えるのはきついのです。特にリハに関しては、各々が見た結果でどうするべきかをディスカッションするのが一番いいと思っているので、私は「どう思う?」という話をします。ソーシャルワーカーなどには、「それが本当にベストかい?」と聞きます。あなたの考えている選択がベストなのか、それが一番いいのかと。ずるいかもしれませんが、私が答えを出そうとは一切思わないので、みんなの意見を聞いてから調整する役に徹することがどうもよさそうだと思っています。 また、特に回復期に感じるのですが、全身状態の管理をきちんと押さえておけば、あとは徐々に徐々に上がっていきます。そのバックアップをしていくのが医師なのだなと感じています。私はよく医者の役割は「相談と共同」と言っていますが、一緒に動かないとダメで、それから相談していこうということです。 さて、時間も過ぎてきましたので、伊藤さん、土田さんの話の中にも出てきたかもしれませんが、老人病院に在宅の機能を持ってはどうかという話をお二人にはしていただいて、平井さん、浜村さんにはそれぞれのお立場でお好きなように話をしていただくということでよろしいでしょうか。では伊藤さんからお願いします。 |
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伊藤 | 自分の発表でも強調したつもりだったのですが、これから老人病院あるいは療養病床が再編されるというときに、在宅支援機能をしっかり持ち、地域に根ざして、地域に開かれた病院を作っていく必要性があると思います。それを再編の軸にすべきなのではないかと。その中に是非とも訪問リハ機能を入れた病院づくりを行っていただきたいというのが、一番言いたいことです。以上です。 | |
齊藤 | ありがとうこざいます。では、土田さんお願いします。 | |
土田 | 在宅の観点で言いますと、「何か困ったことはありますか」と聞くと言いましたが、誘導が効かない方がいらっしゃいます。その場合、その方が本当に困っているということをわれわれが見守るという形にすることで、安心される方はたくさんいると思うのです。ただし、分かるだけの評価は自分が得ておかなければいけません。それがご本人の病状の変化なのか、ご家族の精神的な苦痛なのかを判断していくときに、老人病院は生活全体の中でどのようになっているかということを、理解するために訪問リハスタッフ、あるいはケアマネさんからの情報を活用してほしいと思います。 在宅でぎりぎりでがんばっているご家族がたくさんいらっしゃいます。その中で私ができるのは、リハビリと称するカウンセリングかなと感じます。特に難病の方は、カウンセリングに近い部分が多いですね。以上です。 |
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浜村 | 私は、スライドもまとめさせていただきましたが、やはり流れのあるリハをいつも考えるということなのではないかと思います。あとは、慢性期・維持期でもいろいろなポジショニングがありますので、自分の施設の中で何をどうやっていくのかは、これは選択の自由ということになるのだろうと思います。 伊藤さんがおっしゃいましたように、大前提として、積極的に地域に開かれた社会資源としての機能をもっていくようになると、かなり存在価値は違ってくるような可能性を感じています。以上です。 |
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平井 | 私の立場からは、老人の専門医療の確立という話をごあいさつで申し上げました。私たちが申し上げている老人の専門医療とは、一つはプライマリーケアに通じていること。2番目に、老年性疾患に通じていること。3番目として、リハビリテーションに通じていること。つまりこの3点が老人の専門医療の中核をなすもので、かつ必須であるという提言をしております。 さらには老人の特性を重んじて、ケアと医療を一体的にチームで取り組むということも、この10年ぐらい言い続けております。ところがリハについてはこれまで全国シンポジウムでとりあげたことがなかったので、「老人病院にリハビリテーションの風を」と、本来はそよ風どころかもっと吹き荒れていないといけないのですが、あえてこの時期に取り上げさせていただきました。以上です。 |
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齊藤 | ありがとうございます。時間がオーバーして申し訳ありません。 私が院長になったのが平成2年ぐらいだったでしょうか。近くの駅でタクシーに乗って、まだ近隣では院長と知られていなかったものですから、「霞ヶ関南病院って、どういう病院?」と運転手さんに聞きましたら、「あそこはいい病院だよ、いいケアしてくれるしね。だけど人生病院に入ったらおしまいなんだよ」と言われました。それが非常に悔しくて、どうしたら「最後までいい」という話で終わるのかと考えたのが、在宅の機能を持つことと、たとえ帰れなくても最後を迎える場として最適だったと認めてもらえる病院にすることです。その両方をかなえることができたのがリハビリテーションの存在だったと思うのです。ですから、在宅復帰・長期療養のためのリハの役割はまだまだあるのではないと考え、今回このテーマにしました。 直接かかわる現場の方や一般の方々も含めて、このようにがんばっている人たちがいて、これからの高齢者のケア、リハビリについて真摯に取り組んでいるところがあることをぜひ分かっていただきたく思います。まだ来年のテーマは決まっていませんし、もしかすると東京でないところで1度ぐらい行うことになるかもしれませんが、ぜひ多くの方のご参加をお願いしたいと思います。 シンポジストの4名の方々に盛大な拍手をお願いいたします。うまく司会ができませんでしたが、これでシンポジウムを終わりにしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。 |