25年間続いた老人保健制度に替わって、今年度から新たに後期高齢者医療制度(通称、長寿医療制度)が施行された。これに伴なって、老人の定義も65歳以上から75歳以上の高齢者に変わりつつあると思う。「老人の専門医療を考える会」では、1992年の「介護力強化病院連絡協議会」発足と時を同じくして1987年から使われていた「老人専門病院機能評価表」の改訂作業に着手し、1993年に「老人病院機能評価マニュアル」を発刊した。大塚宣夫先生を編集委員長として作成された本マニュアルに基づく第1回目の機能評価が同年、104病院が参加して実施された。その後、それぞれの病院の質の向上を目指して毎年、自己評価を実施してきた。ちなみに日本医療機能評価機構が設立されたのは1995年7月、審査が開始されたのは1997年である。
老人病院は1983年の老人保健制度創設(老人保健法の制定)に伴なって制度化された。その後、介護力強化病院、療養型病床群、療養病床と制度上の名称を変えつつ、今日にいたっている。高齢者の患者を多数受け入れてきた老人病院も機能分化の波にさらされ、回復期リハビリテーション病棟や、特殊疾患療養病棟を選択する医療機関も増えてきたことから、「老人病院」とひと括りできなくなっているのが現状である。
これまで、社会の環境変化に応じて、ハードルを高くする方向で評価内容を見直し、数度の改訂を経て今年の2月に第15回目の評価を行った。その結果をここに報告する。対象は「老人の専門医療を考える会」ならびに「日本療養病床協会」の会員病院あわせて726病院に属する『65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床』である。
調査方法は前回と同様で、@老人病院機能評価表、A病院データ表、B職員意識調査の3つの内容から構成されている。2007年版では病院データ表で次の3点を追加した。
1)設問8の「調査日現在の入院患者の状態」につき褥瘡の項目のあとに尿路感染症に関する項目とインフルエンザワクチンの予防接種に関する項目を加えた。
2)設問9の「過去1年間の退院患者経路」のうち医療機関への退院の場合には、そのうち「予期しない一般病床への退院、転棟」の項目を加えた。
3)慢性期医療の臨床指標(CI:Clinical Indicator)として前回の転倒・転落件数、骨折発生件数、身体拘束件数、褥瘡発生件数の4つに尿路感染症発生率、インフルエンザワクチンの予防接種率および予期しない一般病床への転院ないしは転棟の3つを加えた。
@回収率
調査対象病院数は前回より2病院減って724病院であったが、回答が寄せられたのは161病院で回収率は22.2%となり、前回を0.4ポイント上回った。なお、連続して15回の調査に参加した病院は18施設、平成10年度から19年度の10年間でみると連続して参加した病院数は40に達した(図表1と資料4)。
A医療保険病床と介護保険病床
対象病床の内訳は医療保険適用病床と介護保険適用病床の比率は6:4と昨年度と同様の割合であった。病床区分では療養病床が全体の88%を占めていた(図表2)。医療保険病床と介護保険病床の構成割合は介護保険制度施行後の4年間は50%を境に毎年逆転を重ねていたが、平成17年度から医療保険病床が介護保険病床を上回るようになった(図表2.2)。
B評価チームの職種と人数
平均8名の多職種からなるチームで機能評価が実施されたことがわかる。職種の構成比で見ると看護が29%と最多であるが、医師、事務職、リハ専門職がそれぞれ10%を越えていた。なお、評価チームの最少人数は7人で、前回の3人を大幅に上回っていた(図表3)。
C得点の変化
イ.総得点
総得点の平均は361.1(得点率で72.2%)で前回を約2点上回った(図表4)。
ロ.項目群の平均点
得点率の比較で見れば、「構造・設備・器具」(79.8%)、「病院の機能」(79.5%)が高く、例年通り「医療・看護・介護」(63.3%)が最も低かった。前2者がスペースの拡張やスタッフの加配やリハビリテーションの基準取得状況がプラスの影響を受けるのに反して、後者は経管栄養(胃ろうを含む)やオムツ・尿留置カテーテルを装着した患者が多ければマイナス方向に作用するという評価構造に起因している。
他の項目群の平均値が70%から80%の間にある中で、「医療・看護・介護」は60%の前半に留まっており、施設の努力のみでは改善を重ねることが困難であることも事実である。今後、慢性期の臨床指標と併せて再検討が必要である(図表4.2)。
ハ.各項目別の得点
前年比10%以上の幅で変動した項目数は6項目に留まった。その内訳は低下したのが4項目、上昇が2項目であった。
低下した項目は「尿留置カテーテル着用者割合」,「抑制の回避」、「抑制等の発生頻度」および「訪問看護実施状況(実施件数)」であった。一方、上昇(改善)した項目は「植物状態等患者の受け入れ」と「介護職員数」であった(図表8)。
ニ.病院の主要属性別にみた総得点
病院特性別(複数回答)でみると今回も「終の棲家型」のみが平均点を下回っている。また、本調査で一定の方向が示されたのは「MSWの数」と「リハ専門職の数」が多ければ多いほど、総得点が高かったことのみで、他の属性については一定の方向性は明らかにならなかった(図表5、図表6)。
D職員の意識調査から(資料2)
160施設の職員6,263人から回答が寄せられている。ただし、終末期に関する質問項目(JとM)で無回答ないしは分からないと答えた職員が20から30%いた。これは回復期リハビリテーション病棟など死亡退院が少ない病院の現状を反映していると思われる。また、「自分の勤務する病院に家族や知り合いを入院させたいと思いますか」の設問に対しても分からないとする回答が3割あった。設問の意図が曖昧になってきているのかもしれない。
この意識調査は、それぞれの病院の経営者にとって有益な情報となりえるであろうし、職員間で自分達の提供する医療サービスを振り返る格好のテーマとなりえる。大切なことは自院の調査結果をどれだけの職員が共有しているかであると言えよう。
E参加病院のプロフィール(資料3−1)
病院データ表から得られた数値をもとに示された参加病院の平均像、老人病院の実態である。この4年間の推移をみると前回調査報告とまったく同じ傾向が認められた。すなわち、
1)平均入院期間は短縮の傾向があり、1年間を切った。その一方で病院間のバラつきがますます大きくなり、老人病院の機能にも大きな違いがあることを推定させる。2)新規受け入れ者のうち継続して濃密な医学管理を必要とする患者の比率が年々、増加している。3)患者の状態像からは寝たきりの比率が年々増加し、尿留置カテーテルとオムツ常時着用者が増え続けている。さらに、経管栄養(胃ろうを含む)も前回調査より増加した。4)介護保険適用病床においては要介護度が重度の方向に移行し、WとXで8割を越えた。5)一方、この4年間で、3食ともベッドで摂る患者の割合は減少の傾向にあり、寝食分離の努力は行われている。6)人員配置に関しては、リハ専門職が増え続け、医師・看護職は横ばいであるが、介護職は減ってきている。
F病棟種別でみたプロフィール(資料3−2)
ここ数年、報酬上で区分される病棟種別と機能評価結果を比較する試みを行ってきたが、例数不足のため失敗を重ねてきた。今回、病床数は十分ではないものの、何とか比較できそうなデータが得られたので、一覧表にして示した。
介護保険の療養病床(介護療養型医療施設、n=20)、医療保険の療養病床(療養病棟入院基本料2、n=19)および回復期リハ病床(一般+療養、n=5)の3種類の病棟の実態をさまざまな角度から比較できる。これまで、イメージとしてはなんとなく病棟の特徴をつかんでいたが、こうして改めて数字でみると非常に興味深いものである。今回の調査に参加した老人病院(入院患者の60%以上が65歳以上の高齢者)の57%が「リハビリテーション注力型」を、40%が「終の棲家型」をそして32%が「在宅ケア支援型」を得意な分野として選択した(重複回答可)。
このようなバリエーションを頭に入れて、今回の調査から老人病院の入院患者をみてみると、老人医療の本質的な部分が見えてくるように思える。75歳以上の後期高齢者が77%を占め、平均年齢は81歳であった。入院経路をみると、約14%が家庭から、約75%が医療機関からであった。そして入院患者の9割以上になんらかの認知症があり、経管栄養が実に35%以上の患者で実施されていた(胃ろう24%、経鼻管12%)。さらに、植物状態・気管カニューレ装着状態の患者は約10%、常時オムツを使用している患者が66%、尿留置カテーテル装着は13%であった。
入院患者100名あたり医師4名、看護職24名、介護職24名、そしてリハ専門職が8名従事し、夜勤体制は6名の看・介護職で行っていた。退院先については36%が家庭に復帰するものの、23%が死亡退院であった。以上が、今回の調査から浮き彫りになった老人病院の実態である。
高齢者医療の実態はあまり知られていない。私たち、老人医療に携わるものにとって、老人医療の実態を広く社会に知らしめることと、このような評価表を用いて改善を重ね、より質の高い老人医療をそれぞれの施設で実践していくことが責務であると考える。
最後に、今回も32医療機関から「感想・意見」が寄せられた。これらを本報告書に掲載させていただくとともに、調査に参加していただいた161の医療施設に厚くお礼申し上げる。