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老人医療NEWS第52号

保険外負担徴収基準

昨年11月10日、厚生省保険局医療課長通知「保険医療機関等において患者から求めることができる実費について」(保険発第186号)が公表された。内容は、「実費徴収に関する手続きについて」「実費徴収が認められるサービス等」「実費徴収が認めらないサービス等」「その他」から構成されている。

いわゆる保険外負担の徴収については、これまでにも再々通知がなされているが、今回は、中医協の10月27日の総会の席上示された「保険診療において患者に求めることができる費用の整理(案)」を通知化したものである。主眼は、保険外負担に関する医療機関と患者間のトラブルの多発で、特に、差額ベッドが中心となっている。この通知は、明らかに1月から実施の老人医療定率1割負担の導入をにらんだもので、介護保険料の徴収や1割負担が、家計を圧迫することや、年金改革の方向が年金額の減額に向かいつつあることを前提としていることは、確かであろう。また、長引く不況は、勤労世帯の可処分所得を低下させ、その分保険外負担に対して、世間の厳しい目があることも影響しているように思う。

老人病院の保険外負担は、一時期、「お世話料」「施設管理費」等のあいまいな名目での徴収が問題視されたが、外来患者が一般患者より著しく少数であるにもかかわらず、入院患者に対する職員数が多く、十分なケアを実施するには、経営上困難であるという背景が一方にあった。特に大都市の人件費が問題であり、公立病院と同等の給与体系では、ほとんど事業を継続することは無理であった。

その後、老人診療報酬や介護報酬あるいは地域加算などで、かなり改善されたが、それでも基金や連合会からの報酬だけで、大都市部で病院経営を行うことは、難しいという声が強い。おむつ代や病衣貸与、テレビ代やクリーニング等については、実費徴収が認められているが、何が「実費」なのかが問題である。少なくとも多くの病院が、生活保護基準以上の料金を徴収していることは事実であるが、それでは生保の基準が実費なのかどうかは、かなり議論があるところである。

老人保健施設で認められている実費徴収と病院のそれとが、同様であれば問題がないということであろうが、そもそも費用構造に差があり、何らかの補助金がある施設と、全てを自給し、多くの場合、納税をきちっとしている病院とに差があっても、考え方によっては当然といえなくもない。

問題は、保険財源にまったく余裕がなくなり、制度を続けるためには、何らかの患者負担がやむを得ないという理屈と、基準外の負担はまかりならないという指導の間に、明らかに倫理の整合性が乏しいことである。病院が勝手に徴収するのは一切まかりならないが、制度が負担増加するのはかまわないというのであれば、病院経営上の努力は認められないし、サービスの向上は考えないというのと同様であると思うのは、うがった考え方であろうか。

多くの老人専門病院の同志は、この国の経済状況について、患者さんや家族から沢山のことをすでに学んでいる。そして可能であれば一切の保険外負担徴収もやめたいと考えている。もっと正直に言えば、何らかの保険外徴収によって、高齢者ケアの質が確保されている部分がある一方で、何ら質の向上に努力していないのに保険外負担を求めている算術病院もあることが気になるのである。ルールはルールとして、指導には従うが、なんでもかんでも安かろう悪かろうでも先がない。今一度、よく考えてみたい。 (13/1)
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老人の専門医療を考える会 JAPAN ASSOCIATION FOR IMPROVING GERIATRIC MEDICINE