老人医療NEWS第21号 |
ひと昔前、当時の武見太郎日本医師会長に呼び出され、"難病の治療と看護の研究班"に参加するように命令された。武見先生の発想によると厚生省の研究は患者にストレートに還元されるべきであり、特定疾患といわれる難病の研究も、疾病個々の研究よりも患者の状態像に着目した処遇体系に目を向けるべきだというのである。「専門外の仕事だから」とお断わりすると「これからの医療担当者は老人間題を避けて通ることはできない。難病患者のケアはそのモデルになり得る。医師会として是非取り組みたい」と説得された。
それから15年、難病医療は飛躍的に向上し、その延命効果も大幅に伸びた。最近では難病患者の多くが老人医療の対象者にさえなっているのである。それに伴なって"難病の治療と看護の研究班"も"難病のケアシステム研究班"と衣変えして、ターミナルケアにまでその範囲を広げることになった。武見先生が教えられた老人間題のモデルとしての難病研究も、現在ではそのまま老人医療の一角を占めるに至っている。ことほど左様に世の中は変わっていくのである。
医療法の一部改正が国会に上程されて、医療社会の論議を呼んでいるが、マト外れの意見が多いことに落胆させられる。医療法はたとえて言えば舞台の書き割りのようなもので、医療担当者と患者である国民が医療という芝居を演ずる背景である。現在の日本では演技するために健康保険法や老人保健法という舞台衣裳を着けなければならない仕組みになっているので、書き割りから舞台衣裳を連想することは無理からぬことであろう。しかし、そのために芝居の台本まで書いてしまうような意見には賛成しかねる。これからの医療は国民の希求に応じて展開されるのであって、それは人ロ構成や疾病構造の変化によってもたらされる時代の価値観によることになろう。その意味で老人処遇体系の整備は避けて通れないのである。
"生態パラメーターの加齢による変化"という研究テーマに取り組み四苦八苦している。加齢による変化は老人になるほど固体変動が大きく、バラツキの少ないパラメーターを探し出しても、それが社会医学的にどれほどの意味があるのかという難問に突き当たる。しかし、老齢人口が国民の20%に近づくであろうといわれる20世紀を目の前にすると、こうした問題に決看をつけることも医療担当者の貢務といわざるを得まい。
折りたたむ...医療と福社の連携
−包域的医療と健康長寿のまちづくりを目指して−
医療法人社団主体会の経営する小山田記念温泉病院は、三重県四日市市郊外、小山田地区にあり、東に伊勢湾を望み、西に鈴鹿の山なみが迫る丘陵地にある。小山田老人施設群の発詳は社会福祉法人青山里会が1974年に小山田特別養護老人ホーム(以下特養)を開設したのに始まる。現在、施設群には小山田記念温泉病院(一般病床91床、特例許可病床239床)、一般特養200床、痴呆性老人専用特養100床、A型・B型軽費老人ホーム各50床、身体障害者療護施設「小山田苑」80床、厚生省のモデル事業として始まった老人保健施設(以下老健)100床、デイサービスセンター(A型)、地域交流ホーム、四日市福祉学院(本年4月開校)がある。また、本年8月にはケアハウス50室を開所予定、平成2年度事業で在宅介護支援センターを建設予定である。
高度医療とケアを
老人医療・福祉に情熱を注ぐに至った動機は脳卒中で寝たきりになった祖母を5年間在宅で介護した母親をみて特養の設立を思い立った。特養は生活の場であり、病院は治療の場ということになっているが、ホームの老人は様々な慢性疾患もさることながら、癌をはじめ肺炎などの感染症や骨折などでの緊急の医学的対応が求められることも少なくない。そのためにはぜひ緊急医療、高度医療の必要性に迫られる。
施設群での病理解剖は1000例に近いが、剖検のCPCから検討すると老人医療に高度医療の導入の大切さが理解できる。それを可能にするためガンマーカメラ、全身用CT、超音披、血管造影撮影、などの非侵襲的な最先端の診断器機を導入し、近く超電動MRIも入れて診断機能の向上を図る予定である。外科、整形外科や眼科を中心に2つの手術室はフル稼働している。本年1月より泌尿器科と連携して老人の失禁外来を行い好評である。
老人医療、とくに要介護老人の医療にこそ、「信頼」と「安心」の医療を心がけながら、先端医療の恩恵を与えることが大切である。福祉の世界では一にケア、二にケア、三にケア、四に医療とケアのみに視点がおかれるが、老人医療も福祉も第一に医療、そして二に三に四にケアとくるのが本来的な姿であろう。
QOLを重視した環境設備を
小山田記念温泉病院は小児科、産科を除く全診療科を擁する。本年4月より神経内科のスタッフを充実した。リハビリは老人病院にかかせないポイントであるため、PT、OT、STの3本柱で充実させている。施設内より湧出する50度の弱アルカリ単純泉を利用して温泉療法を試みており、治療効果を高めると同時に、お年寄りにQOLの面からも非常に喜ばれている。
外来、病棟とも介護面に配慮した構造上の工夫や、老人の離床を促すための談話コーナー、食堂、デイルーム等を配慮した。そして、何といっても多額の金を費やしたアトリウムは3階吹抜けのオールシーズン全天候型、内にレストラン、売店、美容・理容院、銀行などがあり、外来者、入院患者、地域の住民、面会家族の団らんなどに利用されている。
病院周辺の自然環境を生かして色々の工夫をした。豊富に湧出する温泉のため、杉木立の中に露天風呂を造った。時々お年寄と一緒に入浴し、大変喜ばれている。また患者がレクリエーションをかねて散策できるよう日本庭園、小動物園、馬場、野外リハビリ施設、放牧場、キャンプ場などを配し、お年寄りが張り合いのある療養生店を送れるよう配慮した。これらの施設は多忙な日常生活を送る小生にとっても、また自らのオアシスともなっている。
老人医療の3つのキー・ワードは、1.良質の医療、2.介護の専門性、3.生活の質(QOL)の向上につきると思う。
将来への課題
最近、「高齢者保健福祉推進十ヶ年戦略」とか「寝たきり老人ゼロ作戦」など随分勇ましい戦略が出てきたが、病院、施設と在宅医療、福祉を車の両輪のごとく対等なレベルまで上げるため、在宅の推進事業が緊急課題となっている。老人医療においても在宅に大きく挑戦すべきであろう。
老健施設ではすでに諸施設がデイ・ケア事業などに取り組んでいる。第二次医療法改正の療養型病床群と特例許可病院との関連性、老健施設の位置づけなど不透明な部分が多く不安が残る。
また、老人福祉法等の改正では、市町村を中心とした地域福祉の推進が進められようとしているし、市町村と都道府県による老人保健福祉計画も策定されようとしている。老人医療は老健施設、老人福祉と深く密接に連携している。老人医療は一般医療にも視点をおきながら、福祉との連携を保つ必要がある。そういった中で、寝たきり、呆け、失禁、褥創など老人医療特有の症候に挑戦すべきである。
今、小山田施設群では、「めざせ!ノーマライゼーション」を合言葉に、どこに住んでいても、呆けても寝たきりになっても安心して暮せる街づくりを勉強中である。老人病院はそういった理念の中での施設であり、老健施設、福祉施設も同じ責務を負っている。
折りたたむ...近年、診断機器の研究と開発が進み、比較的被検者の肉体的負胆が軽くてすむ検査が可能となってきた。
特にCTスキャンの出現は、それまでの検査法と比べて隔世の観があり、当初、頭部のスキャン像をみて驚嘆した事が昨日の事のように思い出される。また、MRIの出現で更に骨による影響が少なく鮮明な像をみせられるにあたり、医師として驚きと喜びにひたったものだった。
ところで、老人医療においては、CTスキャンは、頭部、体部ともだんだんなくてはならない医療の武器として、手近に利用されるようになったが、それでも種々の問題が提起され、まだまだ改良されねばならないと思われる。ここで、利点や注意せねばならない事などを、勿論ご存じの事ばかりであろうが、列挙して、「老人医療ワンポイント」の執筆の責をはたしたい。
まず、老人、特に痴呆性老人において、入院して来られた時、CTスキャンを記録しておくことは絶対必要なことと考えられる。
老人の入院患者の転倒は皆様日常周知の問題点で、しかも、しばしば頭部外傷を伴うものである。従って、その際発症する慢性硬膜下血腫が入院前の事故によるものか入院後のものであるかが、まず問題になる。特に家族との面談の場合に大事な問題点となろう。勿論、血液であるか、またエフュージョンであるか、経過を追わねばならない例もときにはあるが、大体適格な回答を与えてくれる。
また、陳旧性の出血巣や梗塞巣など、手軽に情報を教えてくれる。
比較的検査時間が短くてすむことは老人達の身体的、精神的負担が軽くてすむという利点がある。しかし、痴呆性老人の中にはCTスキャン機器の理解ができないため、CTスキャンのガントリーの中にいれられることを怖がり、叫んだりする患者さんも時にはある。従って、時には鎮静剤の投与を必要とするような例もあるが、大体なんとか記録できるようである。
以上のことより、今後、老人医療においては、CTスキャンが機器の性能の向上と金額の低下と相まって、ますます利用されて行くものと考えられる。
折りたたむ...5月12日午後3時30分より、老人の専門医療を考える会平成2年度総会が開催された。会員25名が出席し、議案審議および意見交換がなされた。
冒頭の会長天本宏氏挨拶では「今回の診療報酬改定においては、当会の意見が反映された内容となっているが、特例許可老人病院入院医療管理料(定額払)の新設などにより、他施設との機能の差を増々明確にしていかなければならない。老人医療は慢性期のみではなく初期医療にも対応していくことが必要である。会員諸氏の実践から得た知恵や技術を元に、よりよい老人医療を目指し、今後とも力を尽くしていきたい」と述べた。
議長には木下毅氏が選出され、事務局長吉岡充氏より事業報告、事業計画案等について説明が行われた。監査報告は監事南溢氏と公認会計士小串安正氏が行い、以上、満場一致をもって承認され、午後四時に閉会となった。
記念講演 老人保健をめぐる最近の動向
伊藤雅治
同日、同会場にて厚生省大臣官房老人保健福祉部老人保健課課長・伊藤雅治氏を迎え、記念講演が行われた。
昨年末に、老人保健審議会より中間意見が出され、保健、医療、福祉にわたる幅広い視点から基本的方向についての提言が行われた。費用負担については更に検討を重ねていく。
今回の診療報酬改定では、在宅医療の推進、病院における看護・介護機能の強化、早期リハビリの評価、痴呆性老人対策の推進、四点に重点を置いたものとなっている。
「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略一の中で、特に重視していきたいのは、まず、市町村における在宅福祉対策で、ホームヘルパー、ショートステイ、デイ・サービスセンター等の整備である。そして「寝たきり老人ゼロ作戦」の展開と、特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウス等の整備も緊急とされる要件である。
折りたたむ...本年4月1日の診療報酬改定によって、「特例許可老人病院入院医療管理料」が新設された。看護・介護力の強化を図ろうとするもので、介護職員4対1では1日573点、同5対1では537点の定額制である。当会会員病院でいち早くこの方式を選択した2病院からの報告を紹介したい。
特例許可老人病院入院医療管理料の採用について
光風園 院長 木下毅
5月1日から特例許可老人病院入院医療管理料いわゆる"まるめ"方式を採用した。内容や気付について少し書いてみたい。
認可
3月29日に県から文書が来た。それには、毎月15日までに申請書を受理したものについて当月に調査する。つまり条件を満していれぱ翌月から認可するということである。但し3月末日までに提出されたものはこの限りではないと書いてあった。看護婦、准看護婦の必要数は申請日前3ヶ月間に充足されていること、介護職員については申請日に充足されていることとなっていた。
当院は198床で老人特例一類看護を取っていたので、4月9日受理、18日調査、5月1日認可となった。当初は(T)573点で申請したが計算方法の差で2名不足ということで(U)537点の方になった。三交代が条件だったが、夜間通勤困難、長期入院者が70%以上との要件で6月1日から、介護職員については二交代制が認められた。基準看護は四月三十日で辞退届を出した。
収入面
当院の平成元年の1日当り平均医療費は、1100点となっていた。1100点以上はまるめにしない方が有利といわれているが丁度分れ目あたりになっていた。
表(PDF参照)は当院の1日当たり点数を項目別にまとめたものである。4月までは老人の基凖看護、4月おきかえは4月分を仮りにまるめで計算して見たものである。4月は入院料で73点増になっている。5月の支出の方は検査料支払減1日1人当り8点、薬品購入減91点、人件費増分15点となった。合計で44点増となるが在庫使用等で薬品購入減が大きく出ているので数ヶ月様子を見ないと何とも言えない。
治療内容
点滴は3分の1〜4分の1になり1日13本位の使用となった。量も半分の200ml/日程度である。内服薬もかなり減らした。患者さんに薬を呑みたいかどうか尋ね、嫌いな人の薬はやめることにした。しかし薬を呑みたいという人が割に多く意外である。こういった患者さんの薬も量を減らしてみた。異状を訴えたのはパーキンソンの人でふえるが増えたのが2例、脳卒中後遺症等で、頭痛、めまいが各1例で計4例、他は全く変わりない。今のところ4例とも再投与で治まっている。現在使っている薬は、わずかの脳代謝賦活剤、便秘薬、鎮痛剤、強心剤他少量となっている。
抗生剤の注射も減らし内服中心とし、第一世代を多く使う様にした。あまり使っていなかったためか効果は充分であり、病状の悪化はみられない。死亡者は一見少なくなっているがこれは少し長期にみる必要があろう。
感染症は減っており、これは横になっている時間が減ったためと思われる。検査数は3分の一位になった。念のためにという検査はなくなった。
看護面
注射の件数が少なくなり、極端な言い方をすれば看護婦が目分の技術を維持するために注射の取り合いをする様な気分だ、といっている。看護婦にとっては一寸不安がある様だ。
注射、投薬、伝票書き等の時間が減ったが、職員は以前から老人の専門医療を考える会のセミナーや、院内研究会で介護の重要性をたたき込まれているので、意識的な抵抗はない様だ。職員が病室にいる時間が長くなり患者さんの表情は明るくなり、また、会話も増えた。食事介助もゆっくり出来、鼻腔栄養も減った。しかし介護はやればやるほど忙しくなり、職員の方は少し疲れている様子もみえてきた。あまり張り切らないでのんびりやろうといっているが、ありがたいことだ。
事務
保険事務は随分楽になった。198床で1人でできている。点検も3分の1位の時間ですむようになり、病名も検査病名や一寸した薬のための病名がなくなり、ほとんどが5病名以下になった。ただレセプトの摘要欄が処置だけとなり一寸変な感じだ。処置の点検には結構時間がかかり、処置もまるめてしまった方が良いのではないだろうか。薬局も仕事が減り楽になったというより少し手持無沙汰という感じだ。
間題点
まず、職員数の点では、世の中が好景気で人が集まりにくい。以前は割によく集まっていたが、昨年後半から特に介護職員が集まりにくくなり、6月は募集しても応募0であった。
次に、定額だと薬の入れ替え等の経済的効果が全くなく、2年間の人件費増に充分に対応できるかどうか心配だ。そして、人件費については、特別養護老人ホームの寮母の初任給が平成元年度で280万円位(厚生費込み)、5年目だと330万円位である。573点と537点の差を人件費とみると介護職員一人当り年262万円となる。厚生費等を考えると月給11万円位にしかならない。しかも2年間は増えない。少なくとも福祉並の人件費は認めてほしいものだ。
老人診療報酬における定額制導入の是非について
鴨川市・エビハラ病院 理事長 海老原謙
平成2年4月1日より実施となった保険診療報酬点数表の改正は「特例許可老人病院入院医療管理料」の新設によって「丸め」などが徐々に進行していたとはいえ、出来高払い一辺倒の制度に画期的な変化をもたらした。今後新制度がわが国の保険医療制度に与える影響は極めて重大であるので注意深く行方を見守らなければならないと思うが、当院は期するところあっていちはやく「定額制」を申請、認可を得た。そこで「五月分レセプト請求」を新方式で行ったので僅か一ヶ月の経験ではあるが「出来高払い」との比較検討を試みてご参考に供したいと思う。
定額制採用の理由
先ず我々は診療報酬の基本は「出来高払い」ではあるが現行制度の矛盾や弊害を考えると「条件を満せば」定額制賛成との考えをもっていた。
採用の可否、難易
新制度発足以来5月1日現在で認可施設は「16」とのびなやんでいるとの事であるが、
経営分析
当院は平成元年4月から12月まで老人特例U類、平成2年1月から4月までT類、そして5月から「特例許可老人病院入院医療管理料U類」を経験してきたので簡単な経営分析表を作成してみた。
問題点
現状では定額の報酬点数はバランスを保っており経営的にも何とかやってゆける印象である。しかし当然のことながら軽症者が多い程経営上プラスとなり重症者が増すとマイナスとなる。(レセプト比較表参照)
老人病院は「長期慢性疾患」を扱うときめつけられているが、ターミナルホスピタルである以上十分な終末医療を行うべきであり、また救急病院などからの依頼で植物人間的重症患者も看らねばならないのが現実であるから、その負担に対する診療報酬は別途考慮すべきではないだろうか。
将来性
あまりに微細な出来高払い制に比べて大まかな定額制は、包括的に現状をとらえられれば良心的な医療を行う上で大いにメリットがあり、健全な診療報酬制度の発展につながると思うが、いま一歩現実に測した改善が望まれる。例えば、
特例許可老人病院入院医療管理料の承認病院が5月1日現在で26病院、4316床となった。その後も各地で承認病院が増加しているが、本紙で光風園の木下先生とエビハラ病院の海老原先生の報告にもあるように、いくつかの問題点もある。
当会のアンケート調査でも、会員病院の半数以上が条件付きながら医療管理料の導入を検討しているが、「認可」の段階でのハードルが超えられない場合が多い。そこで、まず認可までのプロセスでの障害を整理してみたい。
第一に、医療管理料導入にあたって、これまで老人専門病院の質の向上に努力してきたかどうかが問題である。病院の理念や方針を導入にあたって変更する必要があるのか、職員の士気、組織、管理体制に問題がないのかを点検する必要がある。例えば、老人の介護について、付き添いのウエイトが大部分であった病院は、根本的に見直しが必要ということになる。
第二に、介護職員のマンパワーについての問題である。基本的には、人手が集まるかといった量の問題、人手はあるが心から老人介護の仕事を希望し、質の向上に努力してくれる介護職員が配置できるのかといった質の問題が大きい。量の問題は、確かに人手不足もあるが、病院のイメージ、他産業との競合状況、募集方法および労働条件、院内の人間関係なども重要である。また、質については、優秀な職員の採用ということになるが、介護職員に対する教育プログラムが確立しているかが問題であろう。結局、各病院の人材吸引力と人材教育力が勝負ということになる。
第三に、行政窓口との事前協議、申請資料作成、行政指導、承認基準の問題がある。事前協議、行政指導では、都道府県で統一されているわけではなく、おおむね基準看護と同一の厳しいものから、制度の意図を十分理解した対応を行っている県まで様々である。大都市部とその周辺の自治体の指導では、いわゆる保険外負担の問題をクリアできないため申請が困難となってしまうケースもある。
第四に、行政対応の中で、申請までの期間、および実積作りの問題がある。これについては、基準看護を取得している病院は、実積と認める県や、実積作りのため3か月間の指導期間を設定した上で申請させ、その後3か月間もたってから承認という姿勢を示すものまである。こうなると実積作り期間と、試行期間の人件費が問題となり、経営的に余裕がないと申請できないことになってしまい、結果として病床数が多い病院に有利となる。
第五に、将来に対する経営的不安材料が多い。例えば、4対1、5対1で今後とも対応できるか、患者構成が重症者中心に推移した場合、対応可能か、診療報酬上の対応が諸物価などにスライドするのか、さらに医療法改正後について、どのように位置づけられるのかなどである。
以上、5つの問題点を考えてみると、5月の時点で26施設であるものが、今年中に100施設程度が限度であるようにも思う。なんのために医療管理料を設定したのかを考えてみればみるほど、制度の趣旨と実際の対応にミス・マッチが生じているように思う。
が、ケアを重視して質の高い老人専門医療を提供することを目的に組織された当会は、ベターな選択として七五三病棟の大いなる実験に参加することになった以上、いくつかの障害を超え、制度の矛盾を正すことを要請されている。そして、当会のアイデンティティを見直す時期にもきているように思うのである。
入院患者の約45%が老年人口で占められ、政府も10か年戦略などを中心に、老人ケアの質について重い腰を上げはじめた。この機会に、会員各位の一層の努力と会員間の団結が重要である。
折りたたむ...