老人医療の専門性の確立と質の向上を目指して、1983年に設立された「老人の専門医療を考える会」では、1992年の「介護力強化病院連絡協議会」発足と時を同じくして1987年から使われていた「老人専門病院機能評価表」の改訂作業に着手し、1993年に「老人病院機能評価マニュアル」を発刊した。
大塚宣夫先生を編集委員長として作成された本マニュアルに基づく第1回目の機能評価が同年、104病院が参加して実施された。その後、それぞれの病院でサービスの質の向上を目指して毎年、自己評価を実施してきた。ちなみに第三者評価機関として日本医療機能評価機構が設立されたのは1995年7月、審査が開始されたのは1997年である。
老人病院は1983年の老人保健制度創設(老人保健法の制定)にともなって制度化された。その後、介護力強化病院、療養型病床群、療養病床と制度上の名称を変えつつ、今日にいたっている。高齢者の患者を多数受け入れてきた老人病院も制度上の機能分化の波にさらされ、回復期リハビリテーション病棟や、特殊疾患療養病棟を選択する医療機関も増えてきたことから、「老人病院」とひと括りできなくなっているのが現状である。
これまで、15回におよぶ「老人病院機能評価表」を用いた調査を実施してきたが近年、病院の機能は病棟単位で大きく異なり、1つの病院として100項目の評価を点数として表すことは難しくなってきたといえる。老人病院機能評価の集計結果は、日本の老人医療全体の概要をつかむには、今も非常に有効な手段であるが、個々の病院にとって評価内容と実態が乖離しつつあることは否めない。
「老人の専門医療を考える会」では平成20年度に行った今回の第16回老人病院機能評価マニュアル調査をもってこれまでの調査の一区切りとすることとした。なお、「老人の専門医療を考える会」は昨年4月、老人医療の質の評価プロジェクトを立ち上げ、4回にわたる委員会や医師ワークショップの開催を通して「慢性期医療の臨床指標」の作成に取り組んでおり、これまでにリストアップされた8項目について、妥当性の検証作業を続行中である。
今回調査は平成21年2月に実施されたが、対象医療機関の負担を軽減する目的で病院データ表を省いたため従来とは異なる調査となった。
対象は「老人の専門医療を考える会」ならびに「日本慢性期医療協会」の会員病院あわせて818病院に属する『65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床』である。調査方法は従来からの3部構成、すなわち@老人病院機能評価表、A病院データ表、B職員意識調査のうち、今回は@老人病院機能評価表のみとした。
@回収率
調査対象病院数は前回より94病院増えて818病院であったが、回答が寄せられたのは169病院で回収率は20.7%となり、前回を1.5ポイント下回った。なお、連続して16回の調査に参加した病院は15施設、平成11年度から21年度の10年間でみると連続して参加した病院数は38で、前回に比してそれぞれ3施設と2施設減少した(図表1と資料3および資料4)。
A医療保険病床と介護保険病床
対象病床の内訳は医療保険適用病床と介護保険適用病床の比率は65:35と昨年度と比べて医療保険適用が5ポイント増加していた。病床区分では療養病床が全体の88%を占め、前回と同じであった(図表2)。医療保険病床と介護保険病床の構成割合は介護保険制度施行後の4年間は50%を境に毎年逆転を重ねていたが、平成17年度から医療保険病床が介護保険病床を上回るようになった(図表2.2)。
B評価チームの職種と人数
平均8名の多職種からなるチームで機能評価が実施されたことがわかる。職種の構成比で見ると看護が30%と最多であるが、医師、事務職、リハ専門職および介護職がそれぞれ10%を越えていた。なお、評価チームの最少人数は5人、最大人数は16人であった(図表3)。
C得点の変化
イ.総得点
総得点の平均は359.8(得点率で72.0%)で前回を約2点下回った(図表4)。
ロ.項目群の平均点
得点率の比較で見れば、「病院の機能」(79.5%)、「構造・設備・器具」(78.6%)が高く、例年通り「医療・看護・介護」(63.43%)が最も低かった。前2者がスペースの拡張やスタッフの加配やリハビリテーションの基準取得状況がプラスの影響を受けるのに反して、後者は経管栄養(胃ろうを含む)やオムツ・尿留置カテーテルを装着した患者が多ければマイナス方向に作用するという評価構造に起因している。
他の項目群の平均値が70%から80%の間にある中で、「医療・看護・介護」は60%の前半に留まっており、施設の努力のみでは改善を重ねることが困難であることも事実である。今後、慢性期の臨床指標と併せて再検討が必要である。
また、「社会・地域への貢献」(67.8%)が平成13年度以降で最低の得点率を示した。今回の参加病院の中で在宅医療サービス提供に消極的なところが多かったのかもしれない(図表4.2と図表6)。
ハ.各項目別の得点
前年比10%以上の幅で変動した項目数は14項目に昇った。その内訳は低下したのが9項目、上昇が5項目であった。
医師、看護、管理栄養士数が増加した一方、先の項目で述べた在宅医療サービスの3項目で昨年度を下回った(図表7)。
ニ.病床種別ごとにみた総得点
今回、病床種別ごとに評価を希望した病院で、単一病床種のみの医療機関が60施設あったので病床種別ごとの比較を試みた。総得点では回復期リハ(療養病床のみ)が総得点405.5点で他の介護、医療療養病床を50点近く上回っていた。
その内訳は人員配置と在宅医療サービスの項目で10から15点、他の療養病床を上回っていた。なお、介護療養病床と医療療養病床では前者が総得点で約7点上回っていた(資料2)。
冒頭にも述べたように、過去16年間におよぶ「老人病院機能評価表」に基づく一連の調査は今回の平成20年度調査をもって終了することになる。これまでの調査研究のまとめとしては15回調査報告(JMC60号、pp98−123、2008)を是非とも参照していただきたいと思う。今後は、各病院で老人病院機能評価マニュアルを使っていただき、自院のサービスの質の向上に役立てていただければ幸いである。
現在、「老人の専門医療を考える会」が試行している「慢性期医療の臨床指標」の項目を列挙すると@経口摂取支援率、Aリハビリテーション実施率、B有熱回避率、C身体抑制回避率、D新規褥瘡発生回避率、E転倒転落防止率、F退院前カンファレンス開催率、およびG安心感のある自宅退院率である。詳しくは当会のホームページをご覧いただきたい。
最後に、これまで本調査にご協力いただき、日本における老人病院の実態解明に力を貸してくださった多くの病院の皆様に感謝を申し上げる。