平成18年度は診療報酬と介護報酬の同時マイナス改定が行われた。さらに、介護保険法の改正により、介護保険施設には居住費と食費の利用者負担が導入された。また、介護給付から予防給付への移行方針が打ち出され、介護保険施設は重度の要介護者を受け入れる方向性が鮮明になった。
一方、高齢者医療に関しては、介護療養型医療施設が平成23年度をもって、廃止されることが決定し、また、医療保険療養病床には医療区分が導入され、「医療必要度」に応じた診療報酬が設定された。軽度の医療必要度とされる医療区分1は、実態調査の結果を反映していない極端に低い保険点数と介護保険施設並みの居住費・食費の利用者負担が実施された。まさに、施設から老人の追い出しが実行に移されようとしている。これまでの制度変更と同じように、在宅療養の受け皿が整備されていない現状を無視して、施設からの追い出しが行われようとしているところに問題がある。
老人病院は1983年の老人保健制度創設(老人保健法の制定)に伴なって制度化された。その後、介護力強化病院、療養型病床群、療養病床と制度上の名称を変えつつ、今日にいたっている。高齢者の患者を多数受け入れてきた老人病院も機能分化の波にさらされ、回復期リハビリテーション病棟や、特殊疾患療養病棟を選択し、「老人病院」とひと括りできなくなっているのが現状である。
来年度からは、75歳以上の後期高齢者を対象とする新たな医療保険制度が創設されることになっている。それに伴なって、老人保健制度も廃止されることになり、「老人病院」なる名称は過去のものとなるかもしれない。しかしながら、医療と介護を同時に必要とする高齢者が今後増加することは紛れもない事実である。
介護力強化病院制度誕生と時を同じくして開始され、上述の制度変更が繰り返される中、継続して実施してきた「老人病院機能評価」も今年で14回目を迎えた。2007年2月に行われた調査結果をここに報告する。
対象は「老人の専門医療を考える会」ならびに「日本療養病床協会」の会員病院(726病院)に属する『65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床』である。
調査方法は前回と同様で、@老人病院機能評価表、A病院データ表、B職員意識調査の3つの内容から構成されている。2006年改定版の主な変更点は次の通りである。
1)機能評価表のB-8で、経管栄養に胃ろうを含めるとともに、病院データ表の患者の状態像では点滴、IVH,経鼻管栄養、胃ろうを区分して明確化を図った。
2)機能評価表のD-11(リハビリテーションの施設基準)と病院データ表のリハビリテーション施設基準の取得状況には、総合リハを新設された脳血管リハ、運動器リハ、呼吸器リハ(それぞれT,U)に変更した。
3)機能評価表のF-18(霊安室の設備充実度)では、個室で死を迎え、そのまま見送る場合は、その個室の状況を評価することも可とした。
4)慢性期医療の臨床指標(C.I.;Clinical Indicator)として、転倒・転落件数、骨折発生件数、身体拘束件数、褥瘡発生件数を採用し、入退院経路の「その他」と「不明」を区分して明確化を図った(いずれも病院データ表)。
@回収率
調査対象病院数は前回より58病院増え726であった。回答が寄せられたのは158病院と前年比17病院減少し、回収率は21.8%と前回より4.4ポイント低下した。なお、連続して14回調査に参加した病院は18施設であった(図表1と資料4)。
A医療保険病床と介護保険病床
対象病床の内訳は医療保険適用病床と介護保険適用病床の比率は6:4と昨年度と同様の割合であった。病床区分では療養病床が全体の86%を占めていた(図表2)。医療保険病床と介護保険病床の構成割合は介護保険制度施行後の4年間は50%を境に毎年逆転を重ねていたが、前回から医療保険病床が介護保険病床を上回るようになった(図表2.2)。
B評価チームの職種と人数
平均8名の多職種からなるチームで機能評価が実施されたことがわかる。職種の構成比で見ると看護が中心ではあるがは医師とMSWが増加の傾向にある(図表3)。
C得点の変化
イ.総得点
総得点の平均は359.3(得点率で71.9%)で前回を約3点上回った(図表4)。
ロ.項目群の平均点
得点率の比較で見れば、「病院の機能」(78.6%)が最も高く、例年通り「医療・看護・介護」(63.2%)が最も低かった。前者がスタッフの加配やリハビリテーションの基準取得状況がプラスの影響を受けるのに反して、後者は経管栄養(胃ろうを含む)やオムツ・尿留置カテーテルを装着した患者が多ければマイナス方向に作用するという評価構造に起因している。
他の項目群の平均値が70%から80%の間にある中で、「医療・看護・介護」は60%の前半に留まっており、施設の努力のみでは改善を重ねることが困難であることも事実である。今後、慢性期の臨床指標と併せて再検討が必要である(図表4.2)。
ハ.各項目別の得点
前年比10%以上の幅で変動した項目数は6項目に留まった。その内訳は低下したのが1項目、上昇が5項目であった。
低下した項目は「オムツ・尿留置カテーテル着用者割合」で、後述するように転院してくる時点でのチューブ類の装着が増加したと推定される。一方、上昇(改善)した項目は「抑制の発生頻度」、「管理栄養士数」、「長期入院患者割合」、「ターミナルケアの検討状況」および「訪問医療実施頻度」であった(図表8)。
ニ.病院の主要属性別にみた総得点
病院特性別(複数回答)でみると「終の棲家型」のみが平均点を下回っている。今回の調査で一定の方向が示されたのは「リハ・スタッフ数」が多ければ多いほど、総得点が高かったことのみで、他の属性については一定の方向性は明らかにならなかった(図表5、図表6)。
D職員意識調査から(資料2)
158施設の職員5,592人から回答が寄せられている。ただし、終末期に関する質問項目を病院の現状からは回答困難としてスキップした施設もある。全体的な集計結果はこの5年間ほとんど変化が見られていないが「ターミナルケアの検討は毎月積極的になされている」との返答率は毎年、増加を示し、今回は23.4%と、初めて20%を越えた。
この意識調査は、それぞれの病院の経営者にとって有益な情報となりえるであろうし、職員間で自分達の提供する医療サービスを振り返る格好のテーマとなりえる。大切なことは自院の調査結果をどれだけの職員が共有しているかであると言えよう。
E参加病院のプロフィール(資料3)
病院データ表から得られた数値をもとに示された参加病院の平均像、老人病院の実態である。この4年間の推移をみるといくつかの傾向が認められる。1)平均入院期間は短縮の傾向があり、1年間を切った。その一方で病院間のバラつきがますます大きくなり、老人病院の機能にも大きな違いがあることを推定させる。2)新規受け入れ者のうち継続して濃密な医学管理を必要とする患者の比率が年々、増加している。3)患者の状態像からは寝たきりの比率が年々増加し、尿留置カテーテルとオムツ常時着用者が増え続けている。さらに、経管栄養(胃ろうを含む)も増加の傾向にある。4)介護保険適用病床においては要介護度が重度の方向に移行し、WとXで8割を占めている。5)一方、この4年間で、3食ともベッドで摂る患者の割合は減少の傾向にあり、寝食分離の努力は行われている。6)人員配置に関しては、リハ専門職が増え続け、医師・看護職は横ばいであるが、介護職は確実に減ってきている。
今回の調査に参加した老人病院(入院患者の60%以上が65歳以上の高齢者)の54%が「リハビリテーション注力型」を、そして45%が「終の棲家型」を得意な分野として選択した。リハビリの施設基準の取得状況をみると88%の病院で何らかのリハ施設基準を取得しており、約30%の病院は、脳血管・運動器・呼吸器リハ料Tのすべてを算定していた。また、調査時点での入院期間についてみると、3カ月未満と3年以上がそれぞれ4分の1近くを占めていた。
このようなバリエーションを頭に入れて、老人病院の入院患者をみてみると、老人医療の本質的な部分が見えてくるように思える。75歳以上の後期高齢者が77%を占め、平均年齢は81歳である。入院経路をみると、約16%が家庭から、約72%が医療機関からである。そして入院患者の9割以上になんらかの認知症があり、経管栄養が実に3割である(胃ろう19%、経鼻経管11%)。さらに、植物状態・気管カニューレ装着状態にある患者は約8%、常時オムツを使用している患者が67%、尿留置カテーテル装着は10%である。
入院患者100名あたり医師4名、看護職25名、介護職24名、そしてリハ専門職が7名従事し、夜勤体制は6名の看・介護職で行っている。退院先については37%が家庭に復帰するものの、22%が死亡退院である。以上が、今回の調査から浮き彫りになった老人病院の実態である。
今後、後期高齢者が確実に増加する中、4年後の介護療養病床の廃止が決定され、来年度からは後期高齢者を対象とする独立した医療保険制度が実施されることになっている。そこでは、高齢者の心身の特性に配慮した医療の提供が理念として掲げられているが、同時に、在宅療養重視・在宅での看取りの勧奨といった方向性も打ち出されている。
私たち、老人医療に携わるものにとって、老人医療の実態を広く社会に知らしめることと、このような評価表を用いて改善を重ね、より質の高い老人医療をそれぞれの施設で実践していくことが責務であると考える。