老人の専門医療を考える会 - 介護力強化病院の機能評価 - 研究報告
第13回調査 平成17年度老人病院機能評価
老人の専門医療を考える会会長 秋津鴻池病院理事長 平井基陽
◆集計結果(PDF形式)

1.はじめに

 療養病床再編の始まりである。老人医療は介護力強化病院、療養型病床群、療養病床と名前を変えつつ成長・脱皮をしてきたつもりであったが、介護保険制度が実施される頃から、周囲の雲行きが怪しくなり、ついに医療費抑制の壁にぶち当たってしまった。そして、在院日数短縮の名の下に、進路変更を余儀なくされてしまった。

 2012年度以降は介護保険から病院・病床は退場させられることが決まり、今のところ、療養病床は医療保険適用で現在の38万床から15万床に削減される見通しである。しかしながら、2年後の2008年度には75歳以上の高齢者を対象とする後期高齢者医療制度が始まることになっており、まだまだ予断は許されない状況である。ただ、国の方が「高齢者多死時代を迎える」と口にして憚らない世相であるがゆえに、老人医療に関わってきた私たちは、今後、いっそう、気を引き締めてかからないといけないであろう。

 皮肉なことであるが、介護サービス情報の公表を6年後には廃止されることが決まった介護療養型医療施設でも、来年度から実施することが義務付けられている。その基本情報項目のひとつに「老人の専門医療を考える会作成の『老人病院機能評価マニュアル』などを用いた自己評価の実施状況等」が加えられた。このことを、当会が老人病院の質の向上を目指して行ってきた活動が、いささかなりとも社会に認められた結果であると受けとめたい。

 介護力強化病院の誕生と時を同じくして開始され、上述の制度変更に関わりなく継続して実施し、その結果を公表してきた「老人病院の機能評価」も今年で13回目を迎えた。

 2006年2月に行われた調査結果をここに報告する。

2.調査対象ならびに方法

 対象は「老人の専門医療を考える会」ならびに「日本療養病床協会」の会員病院(668病院)に属する『65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床』である。

 調査方法は前回と同様で、@老人病院機能評価表、A病院データ表、B職員意識調査表の3つの内容から構成されている。ただし、老人病院機能評価表は昨年開催された当会のワークショップ「療養病床に期待されるサービス水準を考える」の討議結果を基に24項目について変更した2005年改訂版を使用した。主な変更点は

 1)患者、家族の満足に関する項目(C項目)のうち、食事サービスについて「提供時間」を問う内容から「患者の自立度・QOLに配慮した食事援助」に変更し、aの配点を4点から7点に上げた。また退院後の満足度調査の実施について新たに、「院外にも公表されている」ことを加え5点とも実施されている場合には特a7点を新設した。

 2)病院の機能(D項目)のうち人員配置に関しては特定療養費の算定種類により、配置基準が異なることから、評価を平準化する意味で医師、看護、介護職については「人数」から「基準に対する加配程度」に変更し、医療ソーシャルワーカーについてはその重要性に鑑み、2名以上(特a7点)を新設した。また、平均在院日数(特a7点)については30日未満を90日未満に修正した。

 3)その他、「痴呆」から「認知症」に、「問題行動」を「行動障害」に字句の変更を行い、「非常に」、「まずまず」、「大部分」との表現については数字化、ないしは廃止した。

3.調査の結果と考察

@回収率

 調査対象病院数は前回より46病院増え668であった。回答を寄せたのは175病院と前年比13病院減少し、回収率は26.2%と前回より4ポイント低下した。また、今回回答のあった調査対象の療養病床数は28,936で全国35.7万床の8.1%に相当する(図表1、2)。

A医療保険病床と介護保険病床

 これまで、両者の割合は50%を境に毎年、逆転を重ねていたが今回は、医療保険病床が60.7%と初めて明確な割合の差が見られた。この要因として昨年10月から実施された介護療養病床での食費・居住費の利用者負担が挙げられる。いまひとつは、昨年末に発表された介護療養型医療施設の廃止が医療保険選択に向かわせたと考えられる。後者については療養病床から一般病床への移行もあり、今後の増加が予想される(図表2、図表2−2)。

B評価チームの職種と人数

 職種ではリハビリとMSWの構成割合が昨年より約1ポイント増加している。

 リハスタッフとともにMSWの充実を提唱している当会としては歓迎すべきことである。1チームの平均人数は8名で、昨年までは増加の傾向にあったが、今回は4−5年前の水準に戻った(図表3)。

C得点の変化

イ.総得点

 総得点の平均は355.9(得点率で71.2%)で前回を5点上回った。個別に見れば、最高点と最低点の格差は昨年よりも約10点大きくなった(図表4)。

ロ.項目群の平均点

 得点率の比較でみれば、昨年に引き続いて「構造・設備・器具」(78.5%)が最も高く、例年通り「医療・看護・介護」(63.1%)が最も低かった。しかしながら、「医療・看護・介護」の項目群については最もハードルが高いにも拘わらず、この10年間でみると確実に評価点は上がっている(図表7)。

 レーダーチャートでみるとこの項目群以外の平均得点率は70から80%の中にあり、全体的にはバランスのとれた評価表になっていると考えられる(図表4.2)。

ハ.各項目別の得点

 前年比10%以上の幅で変動した項目数は前回の2倍に当たる20項目であった。低下した8項目のうち6項目はB「医療・看護・介護」でみられた。チューブ類の装着増加と着替え,清拭の頻度減少および抑制の増加によるものであった。いずれも当会が重点項目として掲げ、改善目標としてきたことを考えると危機的状況にあると言っても過言ではない。いつか来た道は何としても避けなければならない。

 一方、上昇が認められた12項目についてはC、D,G群のそれぞれ3項目であった。改善した12項目をキャッチフレーズにすると「植物状態にある重介護状態の高齢者を数多く受け入れる一方で、機能訓練室を整備し、MSWを配置し、さらに、訪問看護や訪問リハビリなど在宅医療サービスを提供することで地域に貢献しています」となる(図表8)。

ニ.病院の主要属性別にみた総得点

 病院特性別(複数回答)でみると「特定疾患注力型」における総得点が高く、「終の棲家型」でのそれが相対的に低くなっていた。2001年(平成13年)度以来、最も総得点が高かった「リハビリテーション注力型」は今回、3番目であった。

 今回の調査で、一定の方向性が示唆されたのは前回までの「75歳以上の患者比率が少ない」、「リハスタッフ数が多い」に加えて「MSW数が多い」ほど総得点が高いことであった(図表5)。

D 職員意識調査から(資料2)

 この調査結果は参加175施設の職員6,276人から回答が寄せられたものである。16の調査項目全部について、この5年間、ほとんど変化が見られない。一致率の高い方から列挙すると、「病院自らサービス業と位置づけている」(80%)、

 「医師と他の医療専門職との検討のもと医療が行われている」(60%)、「患者のQOLを高めるという視点から医療の関わり方が検討されている」(55%)、「患者情報についての守秘義務はよく守られている」(55%)となる。

 ただし、「ターミナルケアの検討は毎月積極的になされている」との返答率は5年前の16.6%から毎年、増加を示し今回は19.7%に達した。一方で、「治療行為よりも安らかな最後に向けての対応」が50−58%の範囲で、そして「最後まで治療中心の対応」が14−18%の範囲で動いている。そして、「安らかな死に向けての4項目」については、「3項目以上の実施」が50%で横ばい状態にある。

E参加病院のプロフィール(資料3)

 病院データ表から得られた数値をもとに示された参加病院の平均像、老人病院の実態である。この4年間の推移をみるといくつかの傾向が認められる。

 1)家庭からの入院が減り、医療機関からの入院が増えている。2)退院先として、家庭、医療機関、老健・福祉施設への割合は変わらずに死亡が漸増している。3)植物状態、気管カニューレ装着患者が増加し、点滴、IVH,経鼻管栄養、胃ろう造設の処置を受けている患者割合も増加している。4)褥そう発生率、骨折発生率は増えていないが、抑制実施率が増加している。5)人員配置では、リハ専門職は増えているが、看護および介護職が減ってきている。医師数も、やや減少している。

F連続13回調査を行った病院(23病院)

 1994年度調査から今回の調査まで、連続して本機能評価を実施した23施設の平均評価点の推移を資料4に示した。総点数では今回調査の平均点を35点も上回った。全体の平均点(100点換算)を10点以上、うわ回った項目はE(教育・研修)とG(社会地域への貢献)であった。老人医療の質の向上には、職員の教育や研修に時間と費用を掛け、チームで討議する環境を整えることが重要であることを示唆している。いまひとつは、在宅サービス(通所、訪問系)を構築し、地域連携を強力に行うことが老人病院の機能として要請されていることを示している。

4.おわりに

 老人病院でも、年を追うごとに多様な機能分化が進んでいる。介護保険制度が開始された翌年度、つまり2002年度と今回の2006年度で本調査に参加した各医療機関が選択した「老人病院の特性」を比較すると一つの方向性が見えてくる。「在宅ケア支援型」、「リハビリテーション注力型」、「認知症ケア型」が減少し、「終の棲家型」と「特定疾患注力型」が増加している。

 また、すでに述べたように、現状は医療機関から重度の要介護者が老人病院に入院する割合が増加する一方、退院先として自宅・家庭への復帰率は5年前と変わらず、老健・特養などの施設に移る割合も増えていない。ただ、老人病院での死亡の割合が増えていることが本調査で明らかになった。今後、古くて新しいテーマである「終末期の医療・ケアのあり方」への取り組みが、ますます重要になってくるであろう。

 最後に、48病院から「感想・意見」が寄せられた。いずれも真摯に老人病院の質の向上に取り組んでいる姿が、ひしひしと伝わってきて意を強くした。評価項目に関する意見も数件あった。今後の評価表改訂の参考にさせていただきたい。

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