老人の専門医療を考える会 - 介護力強化病院の機能評価 - 研究報告
第12回調査 平成16年度老人病院機能評価
老人の専門医療を考える会会長 秋津鴻池病院理事長 平井基陽
◆集計結果(PDF形式)

1.はじめに

 今回の介護保険法の改正により10月1日から居住費と食費が保険給付からはずれ、利用者の負担となった。利用者に選ばれる病院の時代の幕開けである。一方、平成15年8月末をもって一般病床と療養病床が区分され、病床の機能分化が一歩進められた。療養病床は医療法上、主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるための病床と位置付けられ、約35万床が名乗りをあげた。そして、療養病床は医療保険適用と介護保険適用に分かれ、後者の介護療養型医療施設に約13万床が移行した。

 この療養病床の大部分が、いわゆる老人病院であるが、老人医療の専門性を有しているかどうかは疑わしい。また、一般病床の患者も多くは高齢者で占められている現状にあるが、そこで行われている医療が高齢者の特性を十分に理解した上で提供されているかといえば、必ずしもそうは言えない。

 老人の専門医療を考える会は、「老人病院機能評価マニュアル」を通して、老人病院の果たすべき役割や、障害を持つ高齢者に対する望ましい対応について主張してきた。そして、このマニュアルに沿って自己評価を行い、自院の質の向上に役立てるとともに、その結果を公表することにより老人病院の実態を明らかにしてきた。

 1993年に始まった当会主催の「老人病院機能評価」も今年で12回目を数えることになった。折りしも、改正介護保険法で、今後、介護保険事業者のすべてに事業所情報の公表が義務付けられることになった。われわれとしては、この方向性を歓迎したい。老人病院の社会への貢献を正しく認識してもらうためにも、老人病院は徹底した情報公開とサービスの質の向上が不可欠であると思う。

 平成17年2月に行われた第12回目の調査結果をここに報告する。

2.調査対象ならびに方法

 対象は「老人の専門医療を考える会」ならびに「日本療養病床協会」の会員病院(622病院)に属する『65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床』である。

 調査方法は前回と同様で、(1)老人病院機能評価表、(2)病院データ表、(3)職員意識調査表の3つの内容から構成されている。ただし、(1)老人病院機能評価表は2004年改訂版を使用した。主な変更点は、

1)病院の機能に関する項目(D項目)のうち、看護職員数、介護職員数、医療ソーシャルワーカー数およびリハビリスタッフ数の項目で特別加算「特a」を廃止した。その結果、D項目の満点は前年比17点減の74点(特aを入れた場合)となった。

2)D-7の項目で「栄養士」を「管理栄養士」に変更し、配置数を上方に修正した。

3)D-11の項目でリハビリの施設基準に「ST(T)」を加え、ランクを1段階ずつ上げた。

3.調査の結果と考察

(1)回収率

 調査対象病院数は前回より66病院増え622であった。回答を寄せたのは188病院と前年比12病院増加したものの回収率は30.2%と前回より1.5ポイント低下した。しかしながら、対象病床数のうち、療養病床は29,594床で、全国の療養病床の約1割弱を占めていると推定される(図表1)。

(2)医療保険病床と介護保険病床

 この4年を振り返ってみると医療保険病床と介護保険病床の割合は50%を境に毎年、逆転している。療養病床のみに着目すると介護/医療の比率は1.31 で前回より0.1上回っており、本調査に関する限り、介護療養病床への移行が進行しているとも考えられる(図表2、図表2−2)。

(3)評価チームの職種と人数

 職種別の構成割合等には大きな変化はみられないが、1チームの平均人数がこの3年間で1人増えて9名近くになっており、より広い視点で且つ真剣に各病院が自己評価に取り組んでいる実態を表していると思われる(図表3)。

(4)得点の変化

イ.総得点

 総得点の平均は351.0(得点率で70.2%)で前回の平均点を5点下回った。これは後述するように、今回はD項目のうち4つの小項目において、「特a」を廃止したことが最大の要因である。総得点の平均が前年より低くなったのは第3回(1995年)、第4回(1996年)以来のことである。これらも、評価基準を見直しハードルが高くなったことが影響していた(図表4、図表7)。

ロ.項目群の平均点

 得点率の比較でみれば、「構造・設備・器具」(77.9%)が最も高く、前年最高の得点率であった「病院の機能」は74.8%で前年を9.7ポイント下回った。これは、職員の配置数に関して「特a」を廃止したことによる。レーダーチャートでみると従来突出していた部分が低下することにより全体的にバランスがとれた評価表になったとも考えられるが、D項目に関しては検討を要するものと思われる。

 一方、「医療・看護・介護」は前年と同様63.3%で最も低く、評価水準が他の項目に比べて高いのかもしれない。いずれにしろ、入院患者の重介護化が反映されていることは間違いない(図表4.2)。

ハ.各項目別の得点

 前年比で10%以上の幅で変動したのは10項目であった。増加した項目が4、低下した項目は6であった。低下した項目のうち4項目は前述したD項目に属するものであった。増加した項目は「褥そうがある患者の割合」、「退院後満足度調査の実施」、「学会・研修等参加職員の割合」、そして「障害者に対する浴室の適切さ」であった。ただし、浴室の項目については配点を増加したことが影響しているとかんがえられ、前年より改善がみられたとは直ちに解釈できない(図表8)。

ニ.病院の主要属性別にみた総得点

 病院特性別(回答は複数回答)でみると「リハビリテーション注力型」、「特定疾患注力型」における総得点が高く、「終の棲家型」でのそれが相対的に低くなっており、この傾向は少なくとも最近4年間に連続して見られる現象である。今回の調査で、一定の方向性が示唆されたのは前回同様、2つの属性で、「75歳以上の患者比率」が少ないほど、そして「PT・OT・ST数」が多いほど総得点が高いことであった(図表5)。

(5)職員意識調査から(資料2)

 この調査は参加188施設の職員6,992人から回答が寄せられたものである。回答者の職種間の比率は職員構成割合に近いものと考えられるが、介護保険制度開始後、最初の調査である2001年の結果と比較すると、看護・介護職以外の職種の比率が増える傾向にある。

 16の調査項目で昨年と大きな変化はないが、2001年のそれと比較してみるといくつかの傾向が認められる。1)自院の運営方針の内容を「良く理解している」が増加し、2)終末期の患者に対しては「治療中心」から「安らかな最期に向けての対応」にシフトしている。さらに3)ターミナルケアの検討について「毎月積極的にされていると思う」が増える傾向にあり、終末期医療への取り組みがなされていることが伺われる。職員の意識調査は不思議なほど調査年の違いよるブレがない。

 管理職の人には是非、多院との比較と自院についての経年変化を確認していただきたいと思う。

(6)参加病院のプロフィール(資料3)

 本調査に参加した病院の平均像は資料3に示した通りである。平成13年のデータを図表化して2003年1月に「日本の老人病院」と題した小冊子を作成し、老人医療の実態を公表した。この4年間の推移をみると、1)入院患者の平均年齢はますます高齢化し、2)家庭からの入院が減って医療機関からの入院が増えている。

 死亡割合は増えてないものの医療機関への転院は増えている。3)要介護度は重度化し、ADLは低下して「濃密な医学的管理を要する患者比率」は急激に増え、「点滴、IVH,経管栄養」は増えている。4)しかし、専門職を含む職員の配置数はほとんど変わっていない。5)褥そうや骨折の発生率は減る傾向にあるものの、「抑制」は徐々に増加する気配がある。ただし、「つなぎ服の着用」は確実に減っている。以上、4年間の推移をみただけでも老人医療の課題は多い。

(7)連続12回調査を行った病院(25病院)

 平成5年度調査から今回の調査まで、連続して本機能評価を実施した施設は25病院である。得点の推移をみると毎年、確実に上昇していることが分かる。これら25病院の総得点の平均は本調査全体の平均点を33点も上回っていた。経年的な推移をみると「D・病院の機能」の項目が飛躍的に伸びていることが分かる。つまり専門職を基準値を超えて数多く配置し、リハビリテーションを充実させてきた病院群ということも出来る。今回の評価点の変更により配置人員に対する「ボーナス点―特a」が4項目で廃止されたマイナスの影響をまともに受けたに違いない。にもかかわらず他の項目群で着実に増点しているのは、さすがである。今後も老人医療界のリーダーとして走り続けてもらうことを期待したい。

4.おわりに

 老人の専門医療を考える会では昨年のプレジデントワークショップ「高齢者医療のあるべき姿」で提案された「療養病床に期待されるサービス水準」をテーマに今年の6月にワークショップを開催した。参加者は、「老人病院機能評価マニュアル」に基づく機能評価に携わっている医師および看護師に限定し、当マニュアルを再点検する作業を行った。従来から指摘されていた重症患者を多く入院させれば点数が高くなる一方、経管処置をすればするほど、入院日数が長くなればなるほど、そしてオムツや尿留置カテーテルが多くなればなるほど点数が低くなる仕組みに対する疑問が出された。また、数値でなくプロセスを評価すべきであるとの意見も出された。果ては、老人という言葉をやめて高齢者に変えろという意見まで出た。さらに、「なぜ自分たちの努力が報われないのか」というもどかしさを露わにする場面もあった。老人医療に従事する者にとって「B-医療・看護・介護」に関する項目は依然として高い壁となって立ちはだかっていることを改めて認識させられた。

 自己評価の結果も大切であるが、評価すること自体にこそ意味があり、評価を継続して実施し、改善を重ねることがサービスの質の向上につながることを参加者全員で確認した。今後予定されている介護保険の事業者情報の公表に際して設けられるであろう調査項目の中に「老人病院機能評価マニュアルに基づく機能評価を毎年実施している」との1項目を入れることを提言したい。

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