老人の専門医療を考える会 - 介護力強化病院の機能評価 - 研究報告
第11回調査 平成15年度老人病院機能評価
老人の専門医療を考える会会長 秋津鴻池病院理事長 平井基陽
◆集計結果(PDF形式)

1.はじめに

 これまで、大塚宣夫先生が本誌(日本療養病床協会機関誌『LTC(ロング・タームケア)』)に連載してこられた「介護力強化病院の機能評価」は、昨年で10回に達した。いわゆる老人病院は、1983年の老人保健制度創設以来、特例許可老人病院、介護力強化病院(特例許可老人病院入院医療管理料)、療養型病床群と制度変更の荒波にもまれながら、高齢者の医療に携わってきた。そして2000年の介護保険制度の開始とともに、約半数は介護保険適用の「介護療養型医療施設」を選択し、半数は医療保険に残った。さらに、第四次医療法の改正に伴って、昨年8月末で療養型病床群の名称は消え、療養病床か一般病床かの二者択一を迫られた。このように制度上の名称は変わったにもかかわらず本連載に「介護力強化病院」を使用してきたのは、介護力強化病院制度の創設を機に『老人病院機能評価マニュアル』が作成され、当会主催で機能評価事業が始まったこと、および、名は体を表すの言葉どおり、老人病院のあるべき姿をこの名称が示していると考えたからである。  

 ところが、昨年の介護報酬の改定に伴い、介護療養型医療施設の介護3;1の評価が取り消されてしまった。つまり、「介護力強化」は老人病院史上の遺物として、葬られようとしているのである。この言葉を失いつつある今、『65歳以上の患者が60%以上を占める病棟・病床』の実態を指し示す言葉としては老人病院なる名称が最適であると考えた。これが、本調査報告のタイトルを老人病院の機能評価とした理由である。

 2004年1月に行われた第11回目の調査結果の集計および分析は現在、進行中であるが、この結果を今年の10月に開催される「国際アルツハイマー病協会、第20回国際会議・京都・2004」で発表する関係上、例年より早く、その概略を報告する。

2.調査対象ならびに方法

 対象は「老人の専門医療を考える会」ならびに「日本療養病床協会」会員病院(556病院)に属する「65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床」である。

 調査方法は前回と同様で、(1)老人病院機能評価表、(2)病院データ−表、(3)職員意識調査表の3つの内容から構成されている。

3.結果(概要)と考察

(1)回収率

 調査対象病院数は前回より4病院減り、556病院であった。回答を寄せたのは176病院で回収率は31.7%と前回をやや、下回った(図表1)。

(2)医療保険病床と介護保険病床の構成割合

 医療保険病床数は52.1%で前年より4.4ポイント増え、一昨年とほぼ同様の数値を示した。しかしながら、医療保険病床には一般病床が全体の約7%含まれており、療養病床についてみると医療/介護の比率は0.84であった。(図表2、図表2.2)。

(3)評価チームの職種と人数

 職種別の構成割合等には大きな変化はみられないが、1チームの人数が8.1人と前年を上回った(図表3)。

(4)得点の変化

イ.総得点

 個別に見れば最高点と最低点との差は従来にも増して大きくなっているが、総得点の平均は356.0(得点率で71.2%)で前回と同じ数値を示した(図表4)。ロ.項目群の平均得点得点率の比較でみれば、昨年と同様に「病院の機能」(83.9%)、「構造・設備・器具」(76.9%)で高く、「医療・看護・介護」(63.0%)で相対的に低かった(図表4.2)。

ハ.各項目別の得点

 各項目別の得点度数分布は図表8に示したとおりであるが、そのうち前年比で10%以上の幅で変動したのは5項目であった。増加したのは「面会者の入院患者に占める割合」、逆に低下したのは「点滴(IVH)・経鼻管栄養患者実施割合」、「入浴不能者への全身清拭頻度」、「6かつき以上長期入院患者割合」、「訪問医療実施頻度(訪問件数)」の4項目であった。

ニ.病院の主要属性別にみた総得点

 病院特性別(回答は複数回答)で見ると、「リハビリテーション注力型」、「特定疾患注力型」における総得点が高く、「終の棲家型」でのそれが相対的に低くなっており、この傾向は少なくとも最近3年間に連続して見られる現象である。

 今回の調査結果で、一定の方向性が示唆されたのは2つの属性で、「75歳以上の患者比率」が少ないほど、そして「PT・OT・ST数」が多いほど総得点が高いことであった(図表5)。

(5)職員意識調査から(資料2)

 この調査は参加176施設の職員6,362人から回答が寄せられたものである。回答者の職種間の比率は職員構成に近いものと考えられ、管理者にとっては病院の運営方針が職員にどの程度浸透しているかを知るひとつの指標になると思われる。また、「本音と建前」の側面を垣間見ることができる点で興味のある調査となっている。

 明文化された運営方針の存在について、「知らない」と回答する職員の割合はこの3年間、11%台と不変である。また、「分からない」との回答率が高かった項目はターミナルの検討に関するものと、家族や知り合いを自分の勤務する病院に入院させたいか否かに関するものであった。これらについては、設問の仕方に問題があるかもしれないが、今後とも施設内で検討を続ける価値があると考えている。

(6)参加病院のプロフィール(資料3)

 本調査に参加した病院の平均像は資料3に示した通りである。老人医療の実態を知る上で大変貴重なデータ−であると言える。

 この4年間の推移から、いくつかの傾向を指摘したい。まず、1看護単位あたりのベッド数は減少を続ける一方、夜勤者数は増加している。また、平均入院期間が長くなる一方で3カ月未満の割合は増加している。入院経路については、「家庭より」の割合が減り「医療機関より」の割合が高くなる傾向にある。

 患者の状態像からは身体、痴呆の自立度ともに重度化し、ADLも低下の傾向は続いており、重介護者の増加が著しい。褥瘡発生率は低下傾向を示し、3年前と比較して1ポイント減少している。抑制に関しては全体でみると4%台で不変である一方、施設間のばらつきが多い。しかし、つなぎ服の着用率は確実に低下している。人員配置については、看護職が増加し、介護職が減少する傾向にある。なお、今回はじめて登場した浴室に関する設問に対しては、入院患者100人あたり、平均で2.8室の浴室と2.2槽の個浴槽の存在が示された。

4.おわりに

 「65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟・病床」を有する病院は約2,000病院と推定されている。本調査の対象病院は556病院で、その4分の1に相当するが、残念ながら回答が寄せられたのは176病院にとどまった。

 この「老人病院機能評価」は昨年で10回を数え、それを機に調査を継続するか否かの検討が加えられた。昨年の9月末現在で、「老人の専門医療を考える会」の会員病院55病院のうち、日本医療評価機構の認定を受けた病院は18病院、ISO9001を取得した病院は3病院であった。にもかかわらず、これらと

 「老人病院機能評価」とは本質的に異なるものであり、自己評価ではあるが、自分の病院の位置付けを知り、老人医療サービスの質の向上を図る上で、極めて有益であるとの結論を得て、15年度も調査を継続することになった。

 しかしながら、本調査への参加施設数ならびに回収率の推移をみると、悲観的にならざるをえない。調査対象数は第10回まで年々増加しているにもかかわらず、参加施設数は1998年の第5回における200病院をピークに、その後は減少の傾向にある。また、回収率に関しては第1回の58.8%が最高で、その後は低下の一途をたどり、今回は過去最低の31.7%を示すに至った。

 その一方で、第1回から連続11回参加した施設が28病院存在している(資料4)ことに注目していただきたい。これらの病院における得点の推移も参考になるのではないかと思う。ちなみに、平成13年度における総得点が前年度より30点増加しているのは、それまでの基準に「特a」なる基準を設け、3〜7点の特別加算を新設した影響であると考えられる(図表8を参照)。

 今後、老人医療を取り巻く環境は一段と厳しくなることが予想される。まずは1人でも多くの国民に現状を知ってもらうことが重要である。本調査が老人医療に志を高く持つ病院の質の向上に役立つことを願っている。

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