老人の専門医療を考える会 - 介護力強化病院の機能評価 - 研究報告
第9回調査 平成13年度
老人の専門医療を考える会会長 青梅慶友病院理事長  大塚 宣 夫
◆集計結果(PDF形式)

1.はじめに

 いわゆる老人病院をめぐる環境は、さらに大きく変わりつつある。具体的な動きとしてはまず、医療保険からの支払いを絞ることで、6か月を高齢者の入院は、介護保険施設でしか行えないような制度がスタートしたこと。第2は、介護保険下の医療施設に対して、介護職員の人員減を図ることで、介護保険施設間の人員配置の差を縮小しようという動きが明確になってきたことである。 一方、老人病院側は回復期リハビリテーション病棟や特殊疾患療養病棟へ機能特化することで医療保険に留まろうとしている。 つまり、一口に老人病院といっても、その制度上の位置づけや、得意とする機能は従来にも増して多様化しており、外部からはますます分かりにくくなっているといっても過言ではない。 こうした状況の下で、当会主導の機能評価の試みは9回目を迎えた。その目的とするところは、わが国の主だった老人病院の運営やサービスの実態を把握すると同時に、参加の各病院が、自らの位置づけや機能の特徴を確認し、ひいては質の向上に役立てることにある。2002年1月に行われた調査の結果ここに報告する。

2.調査対象ならびに方法

 対象となったのは前回同様「老人の専門医療を考える会」ならびに「介護療養型医療施設連絡協議会」会員病院に属する「65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床である。 調査方法は前回までと同様であるが、今回は、老人病院の質の向上やサービスについて実践上、特に重要と思われる項目、あるいはその病院の機能を特徴づけると考えられる項目について、従来の基準の上に、「特a」なる基準を設け、3〜7点の特別加算を行うよう工夫をこらした。

■調査の結果(概略)
  1. 調査対象について
  2. 調査票を送付した524病院のうち、回答を寄せた病院は186施設、回収率は35.5%であった。 回答病院全体の調査対象病床群数は計35,455床であり、このうち、医療保険病床は18,308床(51.6%)、一方、介護保険病床は17,147床(48.4%)であった。前回(平成12年)調査では、医療保険病床57.4%、介護保険病床42.6%であり、介護保険病床の割合がやや高まっている(+5.8ポイント)(図表1、図表2、図表2.2)。

  3. 評価に関わった職員について 今回の評価に関わった職員数は計1,458人である。なかでも「看護職」の割合が高く、全体では約3分の1の32.4%を占めている。次いで「医師」13.1%、「事務職」12.6%などとなっている。なお、これらの職種を含め、職種別の構成割合等には、前回調査と比べても、大きな変動はみられない(図表3、図表3.2)。

  4. 総得点について
  5. 調査対象病院の総得点は平均353.0点、得点率で70.6点となり、前回調査の得点率に比し4.5上昇している(図表4)。

  6. 項目群の平均得点
  7. 得点率で見てもっとも高かった項目群は「病院の機能」(84.1%)、次いで、「構造・設備・器具」(75.9%)であった。 これに対し、「医療・看護・介護」(61.9%)が相対的に低くなっている。 前回(平成12年)との比較では、特に「病院の機能」、「社会・地域への貢献」におけるアップが目に付く(図表4.2)。

  8. 病院の主要属性別にみた総得点
  9. 病床数別では、病床数が多いほど総得点が高い傾向が見てとれ、特に300床未満と300床以上との間には約20点の差が出ている。 また、看護職員数、介護職員数(100床あたり。以下同じ)の別では、それぞれ「35名以上」、「40名以上」の層で評価が高い。さらに、MSW数、PT・OT・ST数についてみると、いずれも多くなるほど評価は上昇する傾向がみられる。病院特性別では(回答は複数回答)、「特定疾患注力型」における総得点が高く、逆に「終の棲家型」でのそれが相対的に低くなっている(図表5。項目別は図表6)。 なお、病院属性のうち特に評価病床数と項目別の得点との関係も検討したが、明らかな相関はみられなかった。

  10. 項目群別得点の時系列比較
  11. どの項目群も、緩やかではあるが、上昇傾向にある(図表7)。特に、調査対象病院数がほぼ一定数に到達した平成7年度ないし平成8年度以降は、どの項目も上昇傾向を保っている。したがって、総合評価としても平成8年度以降は着実に上昇している。

  12. 各項目(小項目)の得点分布
  13. 各項目別の得点度数分布は図表8の通りであるが、10%以上の幅で変動したのは21項目(20項目増加、1項目減少)にのぼった。特に変動項目は「B.医療・看護・介護」「D.病院の機能」「G.社会・地域への貢献」に多い。 注)10%得点アップ項目の多くは、今回「特a」評価を設けた項目であるが、「B.医療・看護・介護」における10%増加8項目のうちの5項目は、評価方法が従来の同様の項目である。

  14. 病院データ表と機能評価結果の比較
  15. 特定の評価項目(小項目)について、調査時に別途記入の病院データ表と、機能評価項目の回答結果とを比較すると、両者はおおむね一致しているといえる。ただし、「6 尿留置カテーテル着用者数」 「8 配膳から下膳までの平均所要時間」などではやや食い違いもみられる。 たとえば、前者では「(尿留置カテーテル着用者割合)10%以上」の割合、降車では「(配膳から下膳までの時間が)60分以上」の割合は、施設データ表の場合、機能評価の場合よりも約10ポイント程度高くなっている(資料1)。

  16. 職員意識調査結果から
  17. 各病院の職員を対象とした意識調査をみると、患者QOL向上をめざした医療の検討、インフォームド・コンセント、守秘義務の遵守をはじめ、全般にどの項目についてもそれらが実践されているとみなしている職員がおおむね過半数を占める。ただ、「明文化された運営方針」の存在については、「内容をよく理解している」と「あることは知っているがあまり理解していない」がともに40%強となっている。 また、「ターミナルケアの検討」についても「特別なことは行われていない」が約3分の1を占めている。さらに、「勤務している病院に家族や知り合いを入院させたいと思うか」という設問に対しては、「ぜひ入院させたい」が約30%である反面、「あまり入院させたくない」「絶対入院させたくない」は約40%であった(それぞれ32.5%、7.0%)(資料2)。

  18. 調査対象病院のプロフィール
  19. 経時的にみて、病院の平均病床数、患者の属性・背景等に目立った変化はないが、患者の「入院経路」を「医療機関(から)」の割合が漸増傾向にある。また、「患者の状態像」からは大きな変化ではないが、自立度の低下傾向(ADL、食事、排泄等)とともに、医療依存度の高い患者(植物状態、気管カニューレ装着患者、点滴・IVH・経鼻管栄養実施患者)割合の増加が見てとれる。 一方、サービス内容面では、着実な向上がみられる。たとえば、「日中の着替え」実施施設は6.6ポイントのアップ(平成10年:23.1%―平成13年:29.7%)となっている(資料3)。

3.考察

  1. 調査方法と回答
  2. 参加病院数、ならびに評価の対象となった病床数とも、昨年とほぼ同数であった。病院区分としては、今年2月の調査時点では、医療保険病床に対する診療報酬の改定内容が明らかになっていなかったこともあり、医療保険病床への転換は進んではいるが、まだ半々の状況であった。 しかし、今後は制度の変更、あるいは経済的誘導により介護保険病床、あるいは回復期リハ病棟、特殊疾患療養病棟等への転換が急速に進むと思われる。


  3. 評価に関わった職員・職種
  4. 全病院でチームによる評価が行われていると推察されるが、そのなかでも大きな勢力を占めるのは看護職を中心とした医療専門職であり、相対的に参加比率の低いのは介護職であることが見てとれる。つまり対象となった大部分の病院では、看護職主導の運営が行われていることが推察される。

  5. 得点の変化
  6. 総得点の平均は前回に比べ、得点、得点率とも大幅に伸びているが、その要因の大部分は特a基準の新設に伴うものであり、特a新設の影響を排除した数値(総得点平均339.3点、得点率67.9%)で前回との比較を行うとわずかな伸びにとどまる。 項目群別の得点でも同様の傾向がみられたが、「B.医療・看護・介護」では前回と同条件での比較で明らかな伸びがみられ、患者対応に改善があったことをうかがわせる(資料4)。 今回、対象病院の病床数と総得点の関係を検討した結果、大規模病院(300床以上)で総得点が高い傾向がみられたが、その理由としては、大規模病院では、多様な機能の整備展開が可能なこと、また、運営も、より組織化されていることと関連しているように思われる。

  7. 職員の意識調査
  8. この項目で特に興味深いのは、「自らの勤務している病院に家族や友人を入院させたいと思うか」との問いに肯定的な回答は30%であるのに対して、否定的な回答が40%にも及んだことである。この数字は、他の種類の病院等と比較する資料を持ち合わせていないが、自分の親や自分自身の身を託すには不十分な状況にあることを如実に物語っている。

  9. 参加病院のプロフィール
  10. 各病院のデータ表ならびに機能評価の結果を集計することで、わが国の老人病院のプロフィールをかなり明らかにすることができた。また、4回目ともなると、そのトレンドも知ることができる。 患者の入院経路では、医療機関からの受け入れが着実に増加する一方で、老健施設や福祉施設への退院が減少傾向にある。 また、自立度の低下傾向や医療依存度の高い患者の比率増加傾向からも、老人病院の機能の明確化は進みつつあるともいえよう。 その一方で、新規受け入れ患者中に占める褥瘡を有する患者の比率は低下しつつあるが、全患者に占める褥瘡保有率は上昇しつつあり、褥瘡への取り組みに問題のあることを示しているように思える。

4.おわりに

 今回の調査結果からすると、各種の制度や仕組みは変わっているが、「65歳以上の患者が年間平均で60%以上を占める病棟、病床」という括りでみた場合、その対象となる患者の状態像も、対応する側の機能も大きな変化がないことが分かる。しかし、今後、回復期リハ病棟、特殊疾患療養病棟といった機能を特化した病棟が拡充されることになると、それ以外の病棟の患者層は、どのような状態像を示し、また、それは他の要介護高齢者のための施設とどのような違いを示すのか極めて興味深いところである。 医療福祉に関心の強い複数のマスメディアの担当者との議論を通して、老人病院のイメージは私たちが思う以上に悪く、老人病院の機能はほとんど理解されていないことに強い衝撃を受けた。つまり、老人病院の実態はほとんど知られておらず、かつ、悪い部分のみが増幅されてインプットされているとみるのが実情であろう。 今回のような形で老人病院の実態に即した情報を少しでも多く社会に発信していくことは、内部努力により老人病院の質の向上を図ると同様に重要なことと考える。

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